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  作者: 守利上 響
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少年は制服にもかかわらず煙草をふかしていた。

玲子に会えない寂しさからからか煙草が止まらない。

「また煙草なんか吸って、、、」

少年の母親が言う。何度言っても喫煙を止めない息子に呆れ果てていた。

「うるさいなぁ。母さんも吸ってるだろ。」

「お母さんは大人だからいいのよ。あんたまだ中学生でしょうが。背伸びなくなるわよ。」

「大きなお世話」

「てゆうかあんたにこのマンション買ってやったはいいけど女とか連れ込んでんじゃないわよね?」

「はぁ?こんな中学生が女連れ込めるわけないじゃん。」

母親のセリフが胸に刺さった。

その連れ込んでいた女は今となってはもういない。過去の女だ。

「そうそう、お父さんが彰彦に会いたがってたわよ。」

灰皿に煙草を押しつけながら言った。

「どうせ会社を継ぐためにどこの高校いけとか大学いけとかいう話するんだろ。」

「そりゃそうでしょ。あんたは九条家の跡取りなんですからね。もう高校受験だし、ちゃんと考えなさいよ。」

「はいはい。」

彰彦は呆れたようにまた煙草に火をつけた。



「愛!」

「洋平、、、」

愛は次の時間の体育の授業のためにグラウンドに出ようと昇降口で靴を履き変えていた。洋平は今学校に来たみたいだった。

「もう具合はいいの?」

「うん。大丈夫。朝ちょっと頭痛がしたから遅刻したけど、、、」

「そっか、じゃ次体育だから。」

「ん、またな。」

なんとなく二人ともよそよそしかった。

いつものように笑いかけられなかった。

洋平は愛が何を考えているのかわからず悩んでいたし、愛は九条との事が頭をよぎり、洋平に悪いという気持ちと自分がそんな軽い人間なのかという疑問で困惑していた。

なぜあの時九条を拒まなかったのだろう。

拒もうと思えば拒めた。

自分には洋平がいるから、というわけではなく、ふつうに考えて初めて会った人だ。

そういう目的で会ったわけでもない。なのに何故か拒まなかった。

あの後すぐに帰った。

家に着いたとき母親も弟もいなかったのが幸いだった。

顔を真っ赤にして帰ったからだ。

自分の部屋に直行するとべッドに潜って気持ちが落ち着くのを待った。

その後九条からの連絡はない。

あったとしてもどんな風に対応したらいいのかわからなかったから、来なくてよかった。



授業が終わり教室に戻ると、携帯が鳴った。見ると九条からのメールだった。愛は心臓が飛び出るかと思った。昨日の出来事はどう言うつもりだったのか確かめたかった。

『何してる?俺今休憩中☆』

普通のメールだった。昨日のことなんか無かったかのようなメールの内容に戸惑った。九条にとって自分とのキスは何だったのだろう。ただなんとなく?そんな風には思って欲しくない。そう言えば自分が元カノと似ているとか何とか言っていた。もしかして、元カノの代わりにされた・・・?そうだったら許せない。でも聞く勇気が無い。

『あたしも休み時間だよ。もうすぐ授業始まるけど。』

と、無難なメールを返すことにした。

授業が始まると言う事を気にしてか、メールはすぐ返って来なかった。

次は数学だった。いつも数学は授業を聞いていない。今日もそうだった。というか、聞けなかった。九条の事を考えていて・・・。

低めの声で優しい話し方。手を握られたときの温もり。煙草のにおい・・・  実際に吸ったときの煙草のにおいは嫌いだったが、九条の体や服についた煙草のにおいは嫌いじゃなかった。むしろ好きだ。大人の男という感じで、それだけでどきどきさせられた。向こうからしたら15歳も歳が下で、何の色気も無いただの子供だ。そんな大人がただなんとなくでこんな子供にキスをしようとするわけが無い。何かしらの理由があるはずだ。愛はそう思いこもうとした。


帰り道、今日は洋平と帰る事になった。洋平がわざわざ愛の教室の前で待っていてくれたのだ。予備校の近くまで行くと、いつもは始まる時間まで話したりとかしているのだが、今日は用事があるからとさっさと帰った。今の愛にとって洋平の顔を見るのが一番辛かった。

授業中でさえ他の男の事を考えていたのだ。しかも実際にキスまでしている。洋平はルルと言う女の子と会っていたと思っているからそんな事考えもしないだろう。ちゃんと昨日の事を全て話し、謝ればいい事なのだがそれをしたくないと思っている自分がいる。そんな事をしたらもう九条とは会えなくなる。会えなくなるのは嫌だ。でも洋平の事を考えると・・・  いつのまにかルルが自分の大半を占めていたように、九条もまた気持ちの大半を占めるようになってきた。・・・好きに・・なってしまった???じゃあ、洋平は??

気持ちが葛藤する中、人通りの少ない路地に、煙草の自販機があるのが目に付いた。なんとなくそれに近づく。ディスプレイされている煙草を見た。九条が吸っていたのはどれだったか。煙草の種類なんか全然わからない愛はなかなか探し出せないでいた。確か白地に赤だった気がする。

「これか・・・?マルボロ・・・?」

似たようなのが何個もあってどれが九条が吸っていたものかわからなかった。とりあえず似たものの一番左にあったのを買ってみた。一緒にライターも買った。買い終わると誰も見ていないか周りを見渡した。制服姿で煙草を買っているところなんか見られたらどうなるか解らない。すぐにその場を離れた。そして、家の近くの公園に行ってみた。小さくてぼろいこの公園は、人通りの少ない道に面しているせいと、この近くに大きくて綺麗な公園が出来てしまったため、利用する人は滅多にいない。今日も誰もいなかった。その公園のベンチに座り、さっき買った煙草とライターを鞄から出した。煙草を開ける。一本取り出し、またなれない手つきで指に挟む。火をつけた。今度はむせない様に本当にちょっとだけ吸い込んだ。また少しのどが苦しくなったが咳が出るほどではなかった。そして今度は昨日と違ってあまりまずく感じなかった。二口目はなんとなく口じゃなく、鼻から煙を吐いてみる。そしたら本当に鼻から煙が出た。こんな鼻から煙が出ているところなんて誰にも見られたくないと思った。しかし、鼻から吐く方が、煙草の香りがよくわかった。九条のにおいだった・・・

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