九条
おかけになった電話は現在使われておりません・・・
何度玲子に電話をしてもこれだ。
この間子供ができたと言われてから姿を見せない。
携帯の番号とアドレスしかお互い知らないから、携帯を変えられていればもう連絡の取りようがない。少年はため息をついた。
玲子は今どうしているのだろう。
彼氏がいると言っていたから、おそらくそっちへ行っているのは確かだ。
しかしお腹の子は俺の子だと言っていた。なのに彼氏の方に行ってしまった・・・。
玲子は俺より十歳も年上だけどきれいでかわいくて、まだ十代の様にも見えた。
俺は玲子が好きだ。
好きで好きでたまらない。
だから早く大人になりたかった。
玲子が自分を子供扱いしないように、玲子を幸せにできるように・・・
子供の事もずっと考えてた。
実際玲子に自分の子供ができたなんて聞いてすごく嬉しかったし、産んで欲しいと思った。
でも、その責任をとること、そのサポートをすること、何もできない。
まだ15だ。
就職もできなければバイトもできない。
結婚だってできない。
結局玲子にとって俺はひまつぶしの相手であって、頼れる存在ではなかったのだ。
そう思うと悲しくて涙がでた。
落ち着くために煙草に手をのばす。
だがだんだん苦しくなってきて、床につっぷして嗚咽がでるほどに泣いた。
玲子、玲子・・・自分がそう呼び続けているのにも気づかなかった・・・
「もしもしルル?」
愛は電話に出ると近くにそれらしい人はいないかとあたりを見渡した。だがそれらしい人はいない。
「もしもし?駅着いた?」
返事がない。
「聞こえる?もしも〜し。」
「・・・もしもし。」
愛はびっくりして思わず携帯を耳から離した。
携帯から聞こえてきたのは女の子の声ではなく、男性の声だったからだ。一瞬間違い電話かとも思ったが、送られてきた携帯の番号をそのまま登録したのだからルルからで間違いは無いはずである。なのに携帯から聞こえる声は男のものだ。愛は何がなんだかわからず、その場に立ち尽くしていた。
「あの・・・、杏ちゃんですか??」
男の声が言った。
杏ちゃんという名前を知っていて、愛の電話番号まで知っている人物と言ったらルルしかいない。
「ルルなの???」
恐る恐る聞いた。
「騙してごめんなさい。ほんとは杏ちゃんとタメの女の子じゃなくて33の男で九条って言います。」
愛はものすごいダメージを受けた。あんなに意気投合できて、何でも話せる関係のルルが33のおっさんだったなんて・・・タメの女の子と決して疑わなかったのに、というか疑うような事は何も無かったのに・・・
「別に騙して何をしようとか考えてたわけじゃないんだ。ただ、たまたま暇つぶしに女の子としてメル友を探してたら君と知り合って、仲良くなりすぎちゃったから言い出しにくかったんだ。ほんと変なおじさんとかじゃないから安心して。」
「安心してって言われても・・・」
「とりあえず、会って話がしたいと思うんだけど・・・。」
「今・・・どこにいるんですか・・・?」
「すぐ近くにいるよ。君から見て右の方で携帯で話してる人。」
「・・・。」
右を見てみると、愛から10メートル程離れた所に九条は立っていた。九条は、愛が自分に気づいたことを確認すると、電話を切り、愛の方へと近づいてきた。
背が高く、格好も若いためか、三十代のおっさんには見えなかった。その姿を見て少し安心した。見た目おっさんで、いかにも怪しい雰囲気を醸し出してるような人だったら速攻帰ろうと思っていた。九条はなかなかの好青年で、優しそうな顔立ちをしていた。
「初めまして。」
笑顔で言われたので愛もつられて笑顔で返した。
「杏ちゃんってのは本名?」
「いや、違います・・・」
「名前なんて言うの?」
「愛です・・・」
「愛ちゃんか。どっかでお茶でもして話そうか。まだ俺の事信用できてないみたいだし。」
「そりゃそうです。」
「はは、じゃあどこがいいかな?ここら辺全然知らないから愛ちゃんの好きなとこでいいよ。」
本当に信用していいのか不安だったが、とりあえず話を聞くことに決めた。




