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  作者: 守利上 響
13/17

母と九条

今日は夕方から会ったので、門限が九時な愛にはあまり時間が無く、愛の誕生日プレゼントを買って、少しドライブをしたら家に帰らなければならない時間になってしまった。今日もまたもっと一緒にいたい気持ちを抑えての帰宅となった。

「ただいま。」

リビングにいる母親に声をかけた。それに気付いた母親は眉間にしわを寄せて言った。

「最近帰り遅いわよ。」

遅いも何も門限が早過ぎるからいけないのだ。そう言おうとしたがやめた。そんな気力は残っていない。九条ともっと一緒にいたくて心が落ち着かないのに親と言い合いになんかなったらどうなるか分からない。

「うん・・・。」

と気の無い返事をし、愛は自分の部屋へと引きこもった。ベッドにねっころがる。そして九条に、『暇になったら電話ちょうだい?』

というメールを送った。

いつ来るかいつ来るかと、初めは携帯を気にしながらパソコンをいじっていた。だが、それにも飽きて、ベッドに潜った。布団に入ると急に眠気に襲われ、少しづつ夢の世界へと誘われていた。このまま寝てはだめだ。そう思い、ガバッと起きあがり、背伸びをした。待ってる間にお風呂に入ってしまうことにした。



母親は、愛が風呂場に入るのを確認すると、急いで愛の部屋に行った。お目当ては携帯電話。何故あの時愛が彰彦と一緒にいたのか。そもそも、何故愛は彰彦の事を知っているのか。確かめたかった。

携帯は思いのほかすぐ見つかった。ベッドの上にぽんと置かれていた。だが、すぐには行動に移せなかった。人の携帯を勝手に見ることには抵抗がある。少しの間迷ってベッドの上の携帯を眺めていると着信音が鳴り始めた。



携帯を取ってみると、なんとかけてきた相手は彰彦だった。

でようかどうしようか迷った。

鳴り響く着信音の中、母親は携帯に表示されている九条彰彦の名前をじっとみつめていた・・・



九条は愛を家まで送り届けた後、部下に呼ばれ、また会社に戻っていた。何かトラブルがあったらしい。

やっと今さっき落ち着いたところで、家に帰る支度をしていた。

携帯を見た。

愛からのメールだ。

電話をくれと言うことだが、さすがに疲れたし、しかももうすでに深夜の一時をまわっていた。

もう寝ているだろう。

そう思い、一回は携帯を上着のポケットにしまったが、やはり愛の声が聞きたくなったので、車に乗り、エンジンをかける前に電話をした。

愛はなかなかでなかった。やはりもう寝てしまったかと思い切ろうとした瞬間、、、

「もしもし・・・。」

でた声は小さかった。

「遅くにごめん。寝てた?」

返事が返ってこない。

「どした?」

「彰彦・・・?」

「うん・・・?珍しいな、いつも九条なのに。」

電話の向こうの愛に違和感を感じた。

声が違うのか?違うわけがない。

小さい声なので聞き取りにくいせいか?それとも彰彦と名前で呼ばれたせいか?何か雰囲気が違う気がした。

「彰彦なのね。」

今度ははっきりと聞こえる声だった。

そしてその声を聞いたとたん九条は目を見開いた。

どうゆうことだ。

ありえない・・・そんなことは。

愛の携帯に電話したはずだ。

間違えるはずがない。

なのに何故だ?この声、忘れるわけがない。俺を苦しめたこの声、、、

九条は息を飲んだ。

「玲・・・子?」



玲子。そう呼ばれ電話の相手が自分の知っている九条彰彦だと確信した。まさか、こんな事って・・・

いろいろと聞きたいことがあった。

何故愛の事を知っているのか、愛とどんな関係であるのか、そして、愛を自分の子だということを知っているのか・・・。

とりあえず落ち着こうとした。愛がいつお風呂から上がるかわからない。

「今から言う番号に電話して。いい?」

玲子は自分の携帯の番号を教えた。

言い終えるとすぐに電話を切って愛の部屋を出た。

そして向かいにある自分の寝室に入る。

すると愛がちょうど階段を上がってくる音がした。



九条は体の力が抜け、ハンドルに頭を乗せていた。

力の入らない手からは今にも携帯が落ちそうになっている。

玲子、あの玲子だった。

でも何故愛の携帯に玲子が出る?しかもこんな夜中に。

愛は家にいるはずだ。ということは家族だろうか・・・

そこまで考えたが、そこから先を想像することが困難だった。

というかしたくなかった。

だが止まらない。

玲子には娘がいる。

18年前生まれた子だ。

そして愛は18歳。その愛の携帯に玲子が出た。玲子の娘は俺の血を分けた娘だ・・・

愛は・・・

手帳にメモった玲子の携帯番号。その字はふるえていた・・・

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