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You & I -Reverside Drunker-  作者:
第二章"G線上のIRIA"
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神の視線と、夜の出来事――そして朝。

 ……深い夜の時。

 我々が見る視線。暗い部屋、液晶画面を見つめる少女が一人。

 少女はナナ、ナナ……とうわ言のように呟いていた。


 <姫竜さんはね、血が大好きなんだそうです>


 画面には、真っ黒な背景に、真っ赤で不気味な言葉。

 見つめる少女はただ、こくんこくんと頷き、それは正しいそれは正しい……と繰り返す。

 "あの時"……いや、"あの世界での出来事"を強く心に刻んでいるのか、少女のナナへの信仰は病的と言っていいほどだった。


 午前三時、深い闇。

 少女は糸が切れたように倒れこみ、意識を失う。死んだのか?

 ……よかった、寝てしまっただけのようだ。


 さて、ではそろそろ行こうか。時間がない。

 あの少女を助けなければならない。はやくあの世界へダイブしなければ。

 時刻は……そうだな、"私が生まれた日"がいい。生まれてから今までに、私が用意した世界のバグに、私が気づければそれでいい。そして時間で言うと、今日の昼ごろまでには気づきあのロボットに理解させてやらなければならない。


 ――よし、プログラムの修正はこれでいいな。

 私ともあろう者が、随分とお粗末になってしまったが致し方ない。

 準備は整った。

 これからしばしの世界旅行だ。

 最後に向こうの私自身にヒントを与えておこう。さすがの私もノーヒントじゃ仕込んだバグに気づかないかもしれないし。

 そうだな……私が始めて携帯を手にする日に、このメールが送信されるようにしておこう。

 私はメールを作成すると、送信ボタンを押した。ついでだからあのロボットにも送信しておこう。


 ……


 ……


 ……<送信完了>



 これでいいか……。いくらなんでもこれだけ材料があれば気づくだろう。

 さあ、そろそろお楽しみの世界旅行の始まりだ。 

 気づけよ、私。世界の秘密に――




















 ……奇妙な夢を見た。

 寝ている最中だというのに、お姉ちゃんが夜中に携帯を触っているのを私が見ている夢。

 私はそれから誰かにメールを送信して……それから?

 ……思い出せない。

 まあいいか、夢は夢だ。はやく起きて、お姉ちゃんの朝ごはんの用意をしないといけない。


「確か苺のジャムパンがいいって言ってたっけ」


 そんなことを思い出しながら、私はお姉ちゃんを起こす前にテーブルに朝ごはんの用意をしていく。

 お姉ちゃんの望むように、ジャムパンを用意してあげた。


「褒められちゃったりして? ……って、そんなことないよね」


 自分で呟いた願望を一秒足らずに否定する。

 何故?……だってそんなことありえないもの。


「さて、と……お姉ちゃんを起こしに行かないと……」


 ……褒められたり、したらいいな。

 なんて、ほんのちょっと思ってしまうのでした。











「あのさIRIA」


「なんでしょう?」


 テーブルについたお姉ちゃんは軽くため息を着いた。

 私は、希望通り苺のジャムパンを振舞った。

 ちゃんと言われた通りにしていたはずだけど……目の前にいるお姉ちゃんはなんだか呆れ顔だった。


「なんで二日連続で苺ジャムなのさ」


 ……え?

 そんなはずはない、昨日は白いご飯だったはず……?

 ……いや、昨日あたりからお姉ちゃんの様子は変だった。(実際には治ってきている証拠らしいけど)

 このくらいの認識のズレはもう当然のものかもしれない。


「ごめんなさい、すぐ別のものを用意します」


「大丈夫大丈夫、昨日も言ったけど"別にいいけど嫌"なだけだから、ね?」


 メニューは間違っているのに、自分が言った言葉は覚えている……。

 とても謎な現象だ。これもお兄ちゃんに相談しないといけないかな?


「ほら、はやく食べさせてよ。自分で食べちゃうよ?」


 そう言って腕がないのに上半身を傾けるお姉ちゃん。


「だ、駄目です! 私の仕事です」


 すぐさまパンを適度な大きさにちぎりお姉ちゃんの口へ持っていく。

 危なかった……大事な制服にジャムが付いてしまうところだった。


「ん……んぐ、ずるいよIRIAは。だってこんなに優しくて可愛いんだもの、なにも言えなくなっちゃう」


「そ、そんなこと……は」


 い、いきなりお姉ちゃんはなにを言っているの?

 褒められたのは嬉しい……けど……私、顔赤くなってないかな?


「あはっ、照れてる照れてる」


 ……お姉ちゃんのほうがずるいと、私は思った。

 なんだか、こんなお姉ちゃんの笑顔を見たのは随分と久しぶりかもしれない。……いや、"生まれてからみたことはある"よね?

 ……疲れてるのかな、お姉ちゃんの笑顔がちょっと思い出せなかった。


「ほら、はやく食べさせてよ。学校に行かなきゃ」


 はやくはやく、と催促をされる。

 私は慌ててまたパンをちぎって、口元に持っていってあげる。


「は、はいお姉ちゃん」


 こうして、なんだかんだとありながら私たちは暮らしている。

 今はこんなお姉ちゃんだけど、私にとってお姉ちゃんは最高の"お姉ちゃん"なのだ。


「ご馳走様」


「お粗末様でした」


 早々に食事を終えると、お姉ちゃんはカバンを手に取り玄関へ向かう。

 玄関先に置いてある車椅子に、ごく自然な動作でお姉ちゃんを乗せてあげる。


「じゃあ、行ってくるね」


「はい、いってらっしゃいです」


 いってらっしゃい、などとといいながら私はお姉ちゃんの車椅子を押して家を出た。

 今日もまた、お姉ちゃんにとって無意味な一日が始まるのだ……。

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