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You & I -Reverside Drunker-  作者:
第二章"G線上のIRIA"
32/44

始日-壱-

 2010年7月13日水曜日……。

 もうすぐ夏休みの時期だ。お姉ちゃんの学校も半日で終わるので気が楽だといえば楽だ。

 あれから何も解決できてない。その糸口すら見つかっていない。

 今日もいつも通り、お姉ちゃんを起こしに行く。


「起きて、お姉ちゃん」


 私は姉の身体を優しくゆする。今日も学校があるのだ。起きてもらわないといけない。


「学校、行かなきゃいけない時間だよ」


「ん……んっ……おはようIRIA」


「おはようお姉ちゃん」


 この寝ぼけた顔であくびまでしているのが私の姉、水無瀬優紀。

 どこにでもいる女子高生を演じている、嘘つきの女の子。

 そして無機質な声でしゃべっているであろうこの私は人型生活サポート用コミュニケーションロボット、IRIA。らしい。

 お姉ちゃんは私がずっと前から面倒を見ている大切な人。

 私の守るべき、人。


「お姉ちゃん、ご飯できてる」


「ありがとう、すぐに行くよ」


 短いやり取りでそれだけの会話をすると私はいったん姉の部屋を出る。

 そしてすぐさまドアを開け姉の部屋に入る。

 姉は一人では着替えができないのだ。

 だからこうして面倒な手順を踏めば、姉の世界を騙すことができる。

 私は一言も言葉を発することはせず、ただ黙々と着替えを手伝い、姉は制服へと着替え終える。


「着替え終える私。これで学校にいく準備は完了だ。もうすぐ夏休みだ、学校にいっても特にこれといってすることは少ない。だからといってサボることもない。ただなんとなく流されて過ごす日々。それには意味なんてないのかもしれない。」


 姉の、独り言。

 まるで誰かに見られているような、その見られている誰かに対してモノローグを語っているような、そんな語り口だ。


「うーん……案外そんなもんかもしれないなぁ……」


 意味のない日々。

 お姉ちゃんにとってはそうかもしれない。

 でも、私にとっては、私たちにとっては意味のある一日一日だ。

 そんな独り言を呟きつつ、姉はリビングへ向かう。

 私もそれに続き、リビングへ向かい先回りをしてキッチンまで向かう。


「今日は和食ですよ、お姉ちゃん」


「……苺ジャムのパンはないの?」


「ありますよ?」


「なんでそれを出さないの?」


「いえ……特に意味はないですけど……」


 というか、朝食に白いお米はお姉ちゃんの日課だったはずだ。

 話しの内容が今更すぎてよく理解できない。


「あのね、IRIA」


 やれやれ、といった風にお姉ちゃんは説明を始める。


「IRIAは充電好きだよね?」


「はいです、大好きですよ」


 充電というのは多分ロボットという設定柄、私がなにかしらのエネルギー補給を日常的に行うはずであろうことを指しているのだろう。


「それも家のコンセントでするのが好きなんだよね?」


「はいです、人間のように言葉でうまく表現できかねますが」


「それをアルカリ電池で充電されるとどう思う?」


「いいですけど・・・嫌ですね。なんといったら良いのかわかりませんが」


「そうそれ、"別にいいけど嫌"なの。今私そんな気持ち」


「申し訳ないです」


「いいのいいの、どうしても嫌! とかじゃないしね」


 お姉ちゃんは片手をひらひら振りながらパンをかじる。


「ロボットだって人間の子どもと同じ。わからないことは説明してやらなければならない。ただ物分りが良すぎて融通が利かないことも多々あるがそれは仕方のないことだ。ただこうしてともに生活をしているとそれだけ私の行動パターンっていうのかな?そういうものをインプットしていくものだから教育・指導はしなくてもよい。なのになぜ私がこうしているのかというと……。人間と見ているから……かなぁ」


 いつもの語り口。きっと心の中で思っていることが自然と口に出てしまっているのだろう。

 私はその言葉に割り込むようにして話しかける。


「私をですか?」


 私のことを人間として見ている?私のことはロボットとして見ているのではなかったのか?


「んー、そうそう」


「私を、人間として……ですか」


 思わず言葉に詰まってしまう。

 なぜならそれは大正解だからだ。なんだかやるせなくなってしまい、自嘲気味に笑ってみたりしてみる。


「じゃあ聞くけどさ、私とIRIAってどんな違いがあると思う?」


「えっと……それは……」


 違い……。

 違いなど、ない。

 私は人間で、お姉ちゃんも人間だ。

 違いがあるとすれば、それはお姉ちゃんのほうだ。

 世界からほんの少しだけ、ずれたところにいる。

 でも、そのずれはオーケストラの演奏で音を外してしまうくらいの致命的なずれ……だけれど。


「演算しても駄目だと思う。これはそういう種類の問いじゃないよ」


「……はい」


 当然のごとく私はロボットではないので演算なんてことはしていないが、とりあえず頷いておく。


「じゃあ、私学校行ってくるから、帰ってくる来るまでの宿題ね」


お姉ちゃんはそう言い残すとイスから立ち上がり、玄関へ向かう。


「これ、お弁当です」


「あ、ありがとう」


お姉ちゃんにお弁当を渡すと、私は車椅子の準備をする。


「じゃあ、よく考えてみてね。いってきまーす」


「はいです。いってらっしゃい」


 そう言って私はお姉ちゃんを車椅子に乗せて玄関を出る。

 私よりも背が高いのに、軽い身体だ。


 そして私は学校へ向かう。

 今日もまた、お姉ちゃんの"無駄な日々"が始まるのだ。


「家でじっとしていようー。ここは"ソラ"の狭間なのだからー」


 お姉ちゃんは陽気に歌なんて歌っていた。

 私はそんな歌は聞いたことがなかったけど、その歌詞にはどこかデジャビュに似た感覚があった。


「コントラバスに乗っかってー」

勘のいい方ならもう気づいていると思いますが、ここからの話は第一章と照らし合わせて読むことでより一層、物語の深みを知ることができます。

それではこれより、IRIAもとい愛璃の視点から見た話が始まります。

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