表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
You & I -Reverside Drunker-  作者:
第一章"片翼の少女"
3/44

Game to FightⅠ

 さて、やってきたのは野中FRTというゲームセンター。

 最近行ってなかったので腕が鈍っているかもしれない。


「おお、やってるやってる」


 今日もゲーセンの中は人であふれかえっている。

 もちろんPPの格ゲーも盛り上がっているようだ。


 この格ゲーのシステムは2D画面で、ボタンはS、M、L、Pの4つにスティックが2本。

 Sは弱攻撃、Mは中攻撃、Lは強攻撃、Pはプロト攻撃(特殊行動)となっている。

 それぞれのボタンは各スティックに2つずつついており握るように押すボタンと親指で押すボタン配置となっている。

 格闘ゲームにしては珍しいこの2本のスティックにも役割がある。


 まず左側のスティックで移動やジャンプができる。

 そして右側のスティックでは技を繰り出す際のコマンド入力を行うのだ。

 この方式を取ることによりコマンドと移動が別になり技を出すときの誤移動などが減るのだ。


 ここで格ゲーにおける基本知識を教えておこう。

 まずコマンドを記載する際にいちいち下、右下、右などとは言わずに

 電卓のテンキーをスティックに見立て236、という言い方をするのだ。

 電卓は基本的に


 789

 456

 123


 という並びをしておりこの場合は5を中心にして考えるのだ。

 普通の格ゲーならしゃがみキックをするときには2K(下入力しながらキックボタン)と

 入力するのだがこのPPでは2.2M(左を下、右も下入力しながら中攻撃)としなければならないのだ。

 この一見すると面倒なこのシステムのおかげでしゃがみ上段攻撃(2.8Mなど)なる攻撃もできるのでよりテクニックの要求されるゲームになっている、というわけだ。


「さあて、今は誰と誰が戦っているのかな?」


 たくさんのギャラリーを掻き分け画面を覗く。


 1PはPN.ホタテ貝選手のシュナイダー。

 2PはPN.QMG選手のギューカク。


 シュナイダーは近接戦闘が得意な剣士であり上位キャラである。

 一方のギューカクはパワーはあるものの動きが遅く使いにくい下位キャラである。

 普通に戦えばギューカクに勝ち目はないのだが……。

 このQMG氏は魔法闘士と呼ばれておりギューカクを使わせたら右に出るものはいないという人物である。

 ホタテ貝選手はそもそもシュナイダーがメインキャラではないはずなのだが……。


「お、お?シュナイダーが押してる?」


 試合はどうやらシュナイダー優勢の様子だがここでQMG氏のギューカクが反撃にでる。


「弱弱中強、はい、はい、そこでハンマー入れてもひとつ入れて……」


 ギューカクがコンボに入りその様子を口ずさむように実況する。


「浮き上がりでエリアルほいほい……凄ーい!」


 ギューカクのようなパワータイプには珍しい10コンボを決めて大ダメージを与えそのまま倒しきる。


「うわー……これ私勝てるかなぁ……」


 成功率のかなり低いといわれているコンボを決めたQMG氏のギューカクに少したじろぐ優紀。


「お、姫だ!」

「え?マジで?」

「姫ktkr!!」


 優紀の登場にざわつく周りの空気。

 どうやらこのゲーセンのホームチャンプの名は伊達ではないらしい。


「さてと、久しぶりだけど大丈夫かな……っと」


 当の本人は涼しい顔をしながら筐体にコインをセットする。

 使用キャラはやはりシュナイダーである。

 試合が始まる。


 1PはPN.姫選手のシュナイダー。

 2PはPN.QMG選手のギューカク。


 優紀は開幕バックステップをとり距離を離す。

 ギューカク相手には接近戦はいわゆる死亡フラグである。

 すかさずPボタンを入れ込み光の剣を生成する。


 シュナイダーのPボタン、すなわち特殊行動は光の剣の生成である。

 シュナイダーには光の剣ゲージというものがあり生成している間は常に消費されていきゲージが0になると自動的に剣は無くなり一定時間使えなくなるというものである。

 剣を出している間は強く、出せない間の弱い立ち回りをどうカバーするかが優秀なシュナイダー使いの課題である。


 まずは剣でけん制。この光の剣はなかなかリーチが長く使い勝手のいいものである。

 一時剣は終い、すばやい動きで接近する。

 ギューカクは大きなハンマーで叩き落とそうとするがシュナイダーはそれを回避し、裏側へ回るとそのままS、Mボタンを同時押ししてギューカクを画面端へ投げる(2ボタン同時押しで投げ行動ができる)。

 バウンドしたギューカクに対し、すかさず剣を生成しSML236Lの基本コンボで攻撃を加える。

 さらにその攻撃の隙をPボタンの剣をしまうモーションでキャンセルしさらにそこから2L236Lでつなぎ

 Pボタンの剣生成でキャンセル、さらにSML236Lのコンボで大ダメージを与え剣をしまう。


「おおっ!出たぞ姫スペシャル!」


 ギャラリーからは歓声がおこる。

 この何度も剣をしまっては生成し、しまっては生成しながらつなげるコンボは単純にダメージが高いだけでなくコンボ終了時に光の剣ゲージが満タンになっておりその後の立ち回りがかなり有利になるコンボである。

 このコンボは優紀が開発したもので俗に"姫スペシャル"と呼ばれているのだ。

 さらに優紀は214Pで上空から光の剣を生成するシャイニングレインを放ち相手を固め攻めを継続する。

 その後もガードの崩し、立ち回りなどの徹底した動きでQMG氏にストレート勝利する優紀。


「さあ、どんどんかかってきなよ!」


 まるで子どものようにガッツポーズで喜び次の対戦相手を募集する優紀の姿はいつもの思慮深そうなものは一切感じられない。

 2人、3人と次々に対戦相手をKOしていくうちにどんどんと時間はすぎていく。

 気づけばもう午後のいい時間帯になっていた。

 あまり帰りが遅くなるとIRIAを心配させてしまうかもしれない。

 ゲームもそこそこに優紀は家にかえることにした。

 



「ただいまー」


 夏といえどもすこしあたりが暗くなる時間、優紀は家に帰宅する。


「おかえりなさい優紀ちゃん」


「ただいまIRIA」


 優紀はすっかり夕飯時の匂いにつられ思わずキッチンに顔を出す。


「今日のご飯はなに?」


「はい、今日はから揚げですよ」


 見ると確かにたくさんのから揚げが揚げられている。


「っていうか凄い量……いまに始まったことじゃないけど」


 そう、IRIAはなぜかいつも料理をたくさん作る。

 まあ食べてみたら結局いつの間にか完食しているのだが。


「はい、出来上がりです」


 そういうとIRIAは食器をテーブルへと運ぶ。

 私はというと手伝おうとするといつも


「私の仕事ですから」


 と、IRIAは譲ろうとしないのだ。

 そんなわけでとりあえずテーブルにつく優紀。


「いただきまーす」


「はい、どうぞ」


 優紀が食事を始めるとIRIAはいつも隣に座って食事の手伝いをする。

 自分で食べられるからというといつも


「私の仕事ですから」


 と、やはり譲ろうとしない。

 普段は素直なくせにこんなところだけは妙に頑固なのだ。

 まあそんな日常にもすっかり慣れてしまったので私はもうなにも言わない。

 こんなことを繰り返していたら私は料理はおろか食事の仕方まで忘れてしまうかもしれない。


「それはおおげさですよ優紀ちゃん」


 と、いつの間にやら声に出ていたらしい言葉にIRIAが突っ込みを入れる。


「おおげさといえばこんな食事自体がおおげさだとおもうんだよねえ……」


 私は食事中、まったく手をあげることはなく終始IRIAに"あーん"をしてもらうのだ。

 恥ずかしいというか、みっともない感じもする。


「それは私の」

「仕事ですから、でしょ?」


 いつもの台詞を発しようするIRIAの言葉にかぶせるように優紀が先に言ってやる。


「わかっているのだったらじっとしていてください。はい、あーん」


 いつもの日常では私がIRIAのイニシアチブを奪っているのに食事の時だけこの始末だ。

 このままやられたい放題なのも癪なので反撃してやることにした。


「そういやIRIA、私の出した宿題わかった?」


 宿題とは今朝がたにIRIAに質問した"ロボットと人間の違いについて"のことだ。

 このロボ娘はなにか答えをみちびきだしたのであろうか?


「ないのです」


 一言だけ、IRIAが答える。

 なんだって?


「あー……IRIAさん?ないのです、とは?」


 この言葉の意味を瞬時に理解することができずに聞き返す。


「ですから、私たちに違いはないのです」


 えっと……つまり私とIRIAは一緒ってこと?


「あのね……いくらなんでも違いくらいはあるでしょ」


 よもやこんな答えが返ってくるとは思わなかった。

 もっとあたふたする姿が見られるとおもっていたのに。


「まずあんたは食事しないでしょ」


「できない理由があるのです」


「そんなシステムを積んでいないからでしょ」


「違います」


「何が違うの」


「違うのです」


「だから何が」


「優紀ちゃんにはわからないことです」


「はあ?なにそれ、否定をするなら説明をしてよ」


「@;[@;23@[;5'(&)82だからです」


「ほら、そうやってすぐノイズを出す」


「ノイズなどだしていません」


「きっと演算処理に失敗したのね、今日はもうシャットダウンしなさい」


「違います」


「だからなにが」


「私は))u"pp"++:;..:.1p」


「だからなにが!」


「……」


 埒が明かない。

 今日のIRIAは一体どうしたというのだろう?

 こんなに外見は人間なのに、この子はやはり融通の聞かないロボットだ。

 そもそもこの質問自体がこの子に対しての差別発言だったのかもしれない。


 "ロボットと人間の違い"?

 ずっと一緒に暮らして、仲良くして、そんなことをはっきりとさせてどうする?

 いまさらそんなことを突きつけて、一体何になるというのだろう。

 IRIAに悪いことをしてしまった。

 軽率だった。


「ごめんIRIA……私はあなたを下に見ているとかそんなんじゃなくてただあなたならどう答えるか興味がわいただけだったの」


「いえ……優紀ちゃんは謝らなくていいのです。まだ不完全である私の不始末です」


「IRIAは不完全なんかじゃないよ」


「私は不完全です」


「そんなこといっちゃ駄目だよ」


 なんていったらいいんだろうか……。


「そんなこと言ったらさ、私なんか数学はできないわ色んな忘れ物はするわ落し物はするわリバサ昇竜(格闘ゲームでのテクニック。なんらかの技で相手の攻めを切り返すこと)に失敗するわでミスだらけだよ?」


 それに比べたらこの子なんて私なんかよりも精巧に生活している。


「そういう……ものですか」


「そういうもんなのよ」


 言葉を選ぶって大変だなあ……。

 私の思っていることがそのまま伝わればいいのに。


「伝わっていますよ」


 少し笑顔になったIRIAが私の目をみて言う。


「優紀ちゃんの思いはいつでも丸聞こえです」


 そうか、そうだったね。

「そうか、そうだったね」


「はいっ」


 そんなやり取りがおかしく感じて、二人は万遍の笑みで笑いあうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ