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You & I -Reverside Drunker-  作者:
第一章"片翼の少女"
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RequiemⅦ

 声が聞こえる。


「……ですから、マスターが……」


 IRIAの声だ。ここはどこ?


「しかし……それでは……」


 もう一人、知らない人の声。誰だろう。

 薄っすらと開けることの出来た視界で確認できたのは見慣れた天井。

 つまりここは私の自室のベッドということだ。

 むくりと、少し重い身体を起き上がらせる。


「あ……マスター!」


 それに気づいたIRIAがこちらへ歩み寄る。


「気がつかれましたか……よかったです」


 そうか、私は外出中に眠ってしまって……IRIAに運ばれたのだろうか。


「う、うん……ところであの人は?」


 私はすぐそばにいる白衣の男の人を指差しIRIAに尋ねる。


「あの人はお医者様ですよマスター。ドランカーについて調べているそうです」


 ……医者?

 なぜIRIAは医者を?私のどこかが悪いというのか?


「私はどこも悪くない」


「違うんですマスター。もうこれで……マスターはesxrdcftvygbuhn」


「え?なんて?」


「――を――することができるんです」


 馬鹿にしているのか。

 IRIAの言葉はノイズとなって、重要な部分を聞き取ることが出来ない。


「……私になにをする気?」


 仕方ないのでその医者とやらに尋ねてみることにした。


「まずはこの薬を注射してみよう。どの程度症状が進んでいるのか知りたい」


 そういって取り出したのはあからさまに怪しい注射器。

 まさか……世界の秘密に気づいたただ一人の人間――つまり私を毒殺しようとでもいうのか?


「嫌だっ!私はまだっ……!」


 まだ……死にたくない。


「マスター、もうやめてください!マスターのそんな姿……見ていられないです……」


「またわけのわからないことをっ!」


「早く治療を受けて……"こちら側"へ戻ってきてください!」


 こちら側?

 いまIRIAは"こちら側"といったか?

 なんだIRIA。

 まさか裏切ったのか。

 お前はアカシックレコードを狂わせる悪の組織の一員になってしまったのか。


「嫌だ!私は行かない!絶対に行かない!」


「一緒に行くと、約束したではありませんか!」


 はあ?こいつはなにを言っているのだ?

 そんな約束……そんな約束……。


「そんな約束……した覚えなんてない!」


「……っ!……そんな……」


 IRIA、きっとお前は洗脳されているんだ。

 アクノソシキニノットラレタンダ。


「……どうやら少し興奮状態が強いようですね。IRIA、押えて」


「……はい、わかりました」


 どうやら今度は力任せに私を止めるつもりらしい。

 IRIAが私の左腕を掴む。

 仮にもロボットが相手の上に、右腕の動かない私にはもうどうすることもできなかった。


「……あなたのためなのです、マスター。どうかわかってください」


「最低……やっぱりあんたも敵だったのね」


 ただ私は虚勢をはってIRIAを睨みつける。皮肉の言葉も込みで。


「マスター……」


「なぜそんな悲しそうな目をする!?この外道……そんなことで私が大人しくするとでも……」


「少し、大人しくしていてくれ」


 医者を名乗る男は注射器の準備を整えるとゆっくりと私の左腕に近づける。

 IRIAにがっちりと押さえつけられ、男にはゴムバンドで腕を縛り付けられ、私は迫り来る注射器を前にして気を失った。

 最後に叫べたのかどうかはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 目覚め。

 少し頭のぼーっとする目覚めだ。

 違和感を感じる左腕には包帯が巻かれている。

 どうやらさっきの出来事は夢ではなかったようだ。注射の跡みたいなのも薄っすら確認できる。


 なんだかいつもより頭がぼーっとする。

 思考が上手くいかない。

 あいつらになにか変なものでも注射されたのだろうか、これが洗脳される一歩前くらいの症状なのかもしれない。

 とにかく現実感とでもいえばいいのか――そんなものがかけている気がする。


 

「そうだ……Pモバにアクセスしないと」


 

 ぼんやりした頭の中で思い浮かんだことはまずそれだった。

 これが習慣病というやつなのか、ただうわごとのようにそうつぶやくと私はベッドのすぐそばに置いてあった携帯を開くとPモバにアクセスした。


<こんばんは、姫>


 ログインと同時に表示されるチャットメッセージにはそう記されている。

 本当にいつでもいるんだな、ナナは。


<うん、こんばんは>


<面倒なことになりましたね>


<なにが?>


<IRIAのことですよ>


<IRIAを知ってるんだ?>


<ええ、私とあなたの"敵"ですから>


<やっぱり敵なんだ>


<現在彼女は思考コントロールを敵に奪われています>


<どうすれば元に戻るかな?>


<そうですねえ……一つだけ方法があります>


<一つだけ……?なに、その方法って?>



 

<"破壊"することですよ>


 

<そんなことしたら可哀想だよ>


<すぐ作り直せばいいんです。こんどは絶対に裏切らないように>


<ああ、なるほど……確かにそうだね>


<でしょう?アカシックレコードだってまさか相棒のIRIAを壊すなんてこと予想していないはずです>


<わかった。じゃあできるかどうかわからないけど、やってみるよ>


 私は一体いまどんなメッセージをうけとりどんな返事をしているのかわからない。

 私は……今なにをしているんだろうか。

 そして即レスのナナにしては珍しい遅レス。どうしたんだろうか。


 

<やめろ!こいつの言うことを聞くな!>


 

 ……はい?

 ナナから妙なメッセージが届いた。

 こいつってだれ?

 よくわからないが<なんのこと?>と返事しておいた。

 ただ、それから後は彼女から返事が来ることはなかった。


「やめろ、こいつの言うことを聞くな……か」



 よくわからないがナナの言っていることはきっと正しいので覚えておくことにする。

 この言葉がいつ役にたつのかはわからないけれど。


 

「さて……」


 

 それではナナの言うとおり、今はIRIAの破壊が優先事項だ。

 きっとIRIAはこの家で油断しているはずだ。

 不意をつけばいくらIRIAだってひとたまりもないはずだ。

 しかし素手では厳しいと感じた私はなにか凶器になりそうなものを探すため音も立てずに部屋を出るのだった。

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