RequiemⅣ
「私がいます」
「……えっ?」
すぐ隣にはなんとIRIAが立っていた。
「IRIAっ……駄目だよ。今は試合中……」
「優紀ちゃん」
「な、なに?」
IRIAが真剣なまなざしでこちらを見ている。
「私は普段からあなたのお役に立てていますでしょうか?」
「え……そりゃまあ、いつも助かっているけど……」
いきなりこの子はなにを言うのだろうか?
「聞きなさい、皇円寺姫竜」
「なにかしら?ただのロボット風情が私に何のよう?」
「優紀ちゃん……いえ、私のマスターはハンデなど背負っていません」
「あははっ!なにを言い出すのかとおもえば……水無瀬優紀の"その姿"を見てもそんなことがいえるのかしら?」
「……そのための私です」
二人で勝手に話が進んでいっている。
内容もよくわからないがどうやら私は罵倒されているようにも聞こえる。
「つまりあなたがハンデの象徴のようなものよ?ハンデを背負っているからあなたがいるんでしょう?」
「私はマスターのヘルパーです。私はマスターの目となり耳となり感覚となり手となりそして……世界となるのです」
「なるほど……あなたが水無瀬優紀にとっての世界のフィルターの役割をしている、と。でもそれがハンデではないとなぜ言えるのかしら?」
「ようやく気づけたからです」
「何に?」
「愛情に、です」
「愛情?あなたが?水無瀬優紀に?」
「……っ」
え?え?IRIAはなにを頷いているの?それに愛情って……あなたはロボット、だよね?
「これは傑作ね!IRIAっていったわね?あなた、それは病気というのよ?……いえ、"バグ"というのが正しいかしら?」
「……私とマスターはいわば一心異体。心の共鳴体」
「そうね、そもそもそれがあなたの役割のはず」
「マスターは私に愛情をくれた」
「偽りの、ね?」
「そうでも構いません。幸せならば、いっそそれで」
「そう……可哀想に……」
「そンナ目で私とマスターを見ルナ!!」
「でもおめでとう。あなたが始めてよ……―――になったのは」
「……そうみたいですね」
「ある意味人間に近づけたのではないかしら?」
「あなたに言われても嬉しくないです」
「本当に人間くさいのね、あなた」
これは一体……なにが起こっているのだろうか。
IRIAが会話している。
誰と?
皇円寺姫竜と。
その内容は?
よくわからない。
なぜ?
私が。
なぜ?
私が世界からズレているから。
"あっち"に帰るにはどうすればいい?
この試合に勝てばいい。
勝つためにはどうする?
「……私を使えばいいと思いますよ」
「IRIA?」
「今から私がマスターの手になります」
「で、でもそれだとコマンドとか動きとかがばらばらに……」
「大丈夫です。今までも……そしてこれからも」
「……え?」
妙な言い回しだった。
今の私にはなんのことだかよくわからないがどうやら信用してよさそうだ。
こんなに自信満々なIRIAは見たことがない。
きっと……大丈夫。
「それじゃあやろうか……姫竜さん!」
「あら、もう負けるための相談は終わったのかしら?」
「あなたには絶対に負けません、皇円寺姫竜」
「それじゃあいくわよ……」
「「ファイナルラウンド……スタート!!」」
こうして最後の戦いが始まった。
まずは開幕の行動が肝心だ。
それに私はIRIAとの共同作業である。
上手く連携をとれなければ……その時点で負けだ。
「ねえIRIA、どうする!?」
「口に出さなくても大丈夫……私はマスターの動きたいように動きます」
「……うん、わかった!」
IRIAが一体どういう理屈でこんなことを言っているのかはわからない。
でもIRIAがいけると、大丈夫といっている。
だから……絶対大丈夫。
戦況を冷静に見てみよう。
まず姫竜さんのパンドラに対して距離を離すのはよくない。
ここはやはり先手必勝、全速前進!
ダッシュフィジガ仕込みで一気に距離をつめる。
「……っ!」
「……わかりましたか?マスター?」
「うん、なんとなく。IRIAの言ってたことがわかった!」
そう、本来ダッシュフィジガ仕込みは複数のボタンを同時押しする上にレバー操作も忙しいテクニックだ。
それを今本能のまま、ただ思ったとおりにできたのだ。IRIAと、私で。
「小ざかしいわね……"自覚"しても思い通りに動かせるなんて。まあそうでないと戦いがいもないものね!」
またわけのわからないことを言っている。
もう流されない、もう迷わないぞ。
この戦いにだけ集中し、そして勝つ!
接近に成功した私たちは下段、中段とパンドラのガードを崩しにかかる。
しかし相手も冷静にガードをしきるとバックステップで距離をとり、ダークフォースを放ってくる。
それを読んでいた私たちはタイミングをはかりジャンプで避けつつ接近をはかる。
ダークフォースの硬直で隙だらけのパンドラに空中攻撃をしかける。
のけぞらせている間にさらに弱攻撃~強攻撃~シャイニングソードの基本コンボからさらにエリアルコンボを繋げていく。
これで相手の体力は7割程度といったところか。
「くっ……やるじゃない。でも、それで勝ったとおもわないことね!」
パンドラが起き上がると同時に多属性の魔法の弾を飛ばすエレメントフォースを放ってくる。
「IRIA!」
「イエス、マスター!」
目線も呼吸も合わせずに私たちは同調し、飛んできた魔法をガードし可能ならば避けきった。
しかしその間にパンドラは肉体強化の魔法を自分にかけ攻撃や防御が上がっていた。
「茶番は終わりよ人形達……。今度こそ終わりにしてあげる!」
パンドラから強化魔法の黒いオーラが漂う。
これで接近戦はほぼ五分と五分。
本格的に決着をつけにきたようだ。
ダッシュで接近してくるパンドラにむけてシャイニングレインを放つ。
急ブレーキしたパンドラはこちらに向けダークフォースを放ってくる。
私たちは闇の手の攻撃を真正面からくらってしまい大きくのけぞってしまう。
対するパンドラにも命中はしたのだが強化魔法のかかっていたパンドラはすぐに体制を立て直し、こちらへものすごいスピードでダッシュをしてくる。
ダッシュ攻撃から足払い、それをキャンセルして上へ打ち上げる攻撃を行いダークフォースで私たちを拘束しエリアルコンボで地面に叩きつけられる。
体力はかなり削られてしまい残りは6割弱といったところか。
「さすがに強化されたパンドラの火力は凄いっ……!」
「まだですマスター!続けてきます!」
「――っ!」
パンドラは私たちの起き上がりに攻撃を重ねてくるがIRIAの忠告によりいち早くそれに気づきなんとかガードすることができた。
一度バックステップを連続で行い距離をとる。
「マスター、敵のゲージが溜まっています!次にあのコンボを食らってしまうと危険です!」
「わかってる!その前にあいつを!」
そうだ、次にあのコンボを食らってしまえば瀕死状態はおろかそのまま倒されてしまう可能性がある。
その前になんとかしてアイツに一発攻撃を当てて、こちらのペースにしなければ。
またも凄まじいスピードでこちらに接近してくるパンドラ。
「しつ……っこいな!!」
私は苦し紛れにシャイニングソードを放ちその長いリーチで先制攻撃をしかけようとした。
しかしパンドラは急ブレーキをかけカウンターの体制に入っていた。
まずい、と身体が先に反応しクイックジャンプで自分の行動をキャンセルし一度空中へ。
パンドラもクイックジャンプでカウンター行動の隙をキャンセルし空中へ飛ぶ。
「もらったっ!」
先に空中に飛んでいた私が先に攻撃行動を開始できるので飛んできたパンドラを空対空で攻撃しようとしたその時だった。
「Foolish(愚かな)……」
その私の行動が完璧に読まれていたのか、パンドラは空中でもカウンターの行動をとっていた。
私の攻撃は跳ね返され画面端へ吹っ飛ばされる。
さらにバウンドしているところにパンドラがダッシュで接近、基本コンボにダークフォースをからめエリアルコンボをつなげてくる。
残りHPは既に2割を切ろうかとしているところだった。
「ふう……なんとか生き延びたっ……」
「まだ終わりではないわよ?」
「っ!?」
地面に叩きつけられた私はもう起き上がろうとしているところだ。
これ以上コンボをつなげられっこないはずだ。
そこにパンドラは私の足元に闇の空間を設置するダークホールを放ってきた。
ジャンプでしか避けられないこの攻撃に起き上がり始めの私は食らってしまう。
「チェックメイト……ね!」
残り体力はほとんど0に近い。
そこへパンドラはビーム状の必殺技、プロトリオンフォースを放ってくる。
いけない、はやくこのダークホールから抜け出さないと……っ!!
「マスター!!」
「えっ!?」
レバガチャでダークホールから抜け出そうとする私の手をIRIAが静止させる。
このままではプロトリオンフォースが命中してしまう。
「IRIAっ……なに考えてっ……!?」
そして私のシュナイダーは光の粒子の中へ消えていった。