Akashic RecordsⅣ
最近思うことがある。
ふと、一瞬だけ。
ただ一瞬だけだけど、私はどこかおかしくなってしまったのではないのかと。
誰かが、私じゃない誰かが、偽りの私を演じているのではないかと。
なんの根拠もないがただ思うだけ。
私の思考を上書きするように、綺麗に彩られた絵に無理やり黒で塗りつぶされるように、私が私じゃない時があるような気がするのだ。
ほら、こうしてこんなことを考えているでしょ?
するとさ、頭の中真っ白になってさ、なに考えてるかわからなくなってきてさ。
……あれ、私は今なにを考えていたんだっけ?
最近こんなことが多い。
急になにかをド忘れするのだ。
なにか、大事なことを考えていた気がする。
いや、しかし今はナナとの会話が大事……。
「……!?」
Pモバでナナと会話していた私だったが、急に知らないサイトにアクセスしていた。
本当に脈絡もなにもない……これもアカシックレコードのせいなのか?
"考察少女"
サイトの名前はただ、そう綴られていた。
「数え切れぬ天使の翼」
「ようこそ、あなたは神に選ばれし祈り子の一人です」
「死と生の粒子」
「明日もし世界が無くなるとしたら私たちは」
「信じるのです。それが私たちにできること」
「カ・ヌルソー・エド・ヨ・ダーラ」
……よくわからない単語の羅列だ。
なにかの宗教……カルトサイトなのだろうか?
サイトの概要はよくわからないがとにかくなにかを信ずることが目的らしい。
内容は哲学、というには宗教じみすぎているがアクセス数はなかなかのものだった。
コンテンツは掲示板しかない。
その中にたくさんのスレッドが立っている。
どうやらこの宗教者たちの語らいの場らしい。
なんとなしに覗いて見るとやはり私には意味の分からない言葉ばかりが並べられていた。
……一つ気になるスレッドがあった。
「Akashic Records」
アカシック……レコード?
やはりこのようなサイトだと扱われやすいものなのか、どうやら今回の事件についての会話が行われているようだった。
「え……なに、これ……?」
そのスレッドには私とナナの名前があった。
なんとここに私とナナがPモバで知り合った時からのログ――会話が晒されているのだ。
「私たちが事件に関与するから、会話がクラックされているってこと……?」
いや、だが私たちは知り合ったときにそんな事件のことは知らなかった。
だからそんなはずはない。
でも、このサイトが事件に関与する可能性がある者たちの会話をクラックする方針だったとすれば……それもありえる。
これはまずいことになった。
いくら私とナナが会話内容を知られてもいいように会話を暗号化(反対の言葉)でしていたとはいえ、もしかすると感づかれるかもしれない。
……誰に感づかれるのだろうか?
そりゃこのサイトの管理人か、事件の犯人なのでは?
いや、もしかするとこのサイトの管理人=事件の犯人かもしれない。
とにかくこのことをナナに知らせなければならない。
このサイトをお気に入り登録して、私はPモバにアクセスする。
ログインついでにクラック対策としてパスワードを変えておく。
<姫?どうしたんですか?>
<聞いて、ナナ。私たちの会話はどうやらクラックされているみたい>
<クラック……つまり覗かれていると?>
<うん、今私ログインパスワード変えてきたの。ナナも変えたほうがいい>
<わかりました。それで……どうしてそのことを?>
<なんか変なカルトサイトで、見つけたの。あそこの管理人が犯人に違いないよ>
<そのURLを送ってもらえますか?>
<はい、ここだよ>
私はお気に入り登録しておいた考察少女のURLをナナに送信した。
<えっと……姫?>
<ね?私たちのログがあったでしょ?>
<あの、どうしてPモバのURLが送られてきているのですか?>
ん?どういうことだろう?
送り間違えたのかな?
<ちょっと待ってね>
ちゃんと考察少女にカーソルを合わせURLをコピーしナナに再送信する。
<これでどうかな?>
<姫……やはりPモバのURLがこちらに……>
なぜだ、一体どうなっている?
アカシックレコードの抑止力がかかっているのか?
もう一度、今度は自分でアクセスしてみる。
「確かに……ある」
考察少女は確かにあった。
なぜだ?ズレすぎている。
世界はどうなっている?
私だけが世界から拒絶され、別の世界にいるような。
私だけ、ズレている?
「うっ……あ……・あぁ……!?」
脳の奥底で、なにかが這いずり回るような感触。
私の意識を強制的に上書きする感覚。
私が……私でなくなる……。
そうだ、いつもの"これ"が私を変な風に変えていって……。
もう駄目だ……また……意識……黒く……な……。