Start DayⅤ
朝……。
昨日は水曜日だったから今日は木曜日か。
最近学校でのことがあまり記憶にない。
それというのもPモバを始めたせいか?
学校に行く→ゲームする→帰る。
このサイクルの繰り返しのような気がする。
そもそも私はなぜ学校に行っていたのだろうか?
学校なんて意味のないものではなかったか?
夏休みも、もう近い。
それにゲーム大会だって近い。
そうだ、私はずっと遊んでいればいいのだ。
誰かも言っていたはずだ、もっと普通の女の子らしく遊んでいいのだと。
……はて、そんなことを誰に言われたのだったか?
私は普通の女の子ではなかったのか?
ああそうか、私は世界を救わなければならないのだ。
現実を見ていないわけではない。
むしろアカシックレコードから逃げることこそが現実から目を背けているのだ。
私が悪いのではない。
私が間違っているわけではない。
私が変なわけではない。
私は……私は……。
「おは・・ご・いま・。優・ちゃ・」
「っ!?」
突如私は夢の中から現実に引き剥がされる感覚に襲われた。
誰かが私を呼んでいる?
「おはよう、"お姉"ちゃん」
部屋の扉のほうを見てみればそこにはIRIAが立っていた。
私を起こしにきたのだろう。
私が既に目を覚ましていることに驚いているのか、少しばかり目を丸くしている。
「おはようIRIA」
そういって私がベッドから出ようとするとIRIAが駆け寄り、その手伝いをする。
相変わらずの過保護っぷりだ。
私はそんなに弱くないというのに。
IRIAは持っていたアクセサリ――赤と青の配色がされた紐付の鈴を私の首に付ける。
いつもIRIAはこのアクセサリを私に付けたがるのだ。
「ねえIRIA、どうしていつもこれを付けるの?」
「だって、可愛いではないですか」
至極普通の返答だった。
どこから持ってきたのかは知らないが私はこのアクセサリがあまり好きではない。
なにが嫌いかというのは自分でもよくわからないけど本能的に、なんとなく嫌いなのだ。
多分、前世の私はこれに似たものになにか嫌な記憶でもあるのかもしれない。
私はベッドから出るとクローゼットから学校の制服を取り出した。
「優紀ちゃん、なぜそれを?」
なぜ?と言われても……。
「学校に行くから」
としか答えようがないのだけれど。
「今日は土曜日……学校はお休みですよ?」
そうそう、今日は木曜日だから……え?
「ですから、今日は土曜日なので学校はお休みですよ?」
「なぜ?」
「ですから、今日は」
「なぜ木曜日じゃないの!?」
思わず声を荒げてしまう。
そうか、これもアカシックレコードが狂ってしまったことによる事象か。
今度は日にちを操ろうというのか。
「ああ……ごめん、確かにそうだったね」
あまりIRIAを脅かすのも可哀想だと思い、思い出した風に装っておいた。
「はい、ではもうすぐお昼ご飯ができあがるのでリビングに来てくださいね」
「あ、うん……」
そうしてIRIAは部屋を出て行った。
お昼ごはん?
今は朝ではなかったのか。
携帯を開き時刻を確認すると確かに土曜日で、時刻はお昼時を指していた。
なんだ、私が早起きをしたわけではなかったのか。
ん?そういえば……。
ならばなぜ、IRIAはあんなに驚いたような表情をしていたのだろう?
それにその時いつもと違う呼ばれ方をしたような……。
そう、例えば……例えば、なんだ?
私はなんと呼ばれていた?
「優紀、ちゃん……」
自分の呼ばれ方を再確認しなければならないほど世界は狂い始めていたのか?
いや、それは世界は関係ないのではないだろうか?
狂っているのは……ワタシ?
そんなわけない、私は正常……いたって冷静だ。
半ば自分に言い聞かせるようにして私はリビングへ向かうことにした。
「今日の昼ごはんはなんでしょう優紀ちゃん?」
リビングに着いてIRIAの開口一番がこれだった。
なんでしょうもなにも……。
「お米……と、味噌汁と沢庵」
「はい、正解です」
いやいや、意味が分からない。
見ればわかるじゃないか。
馬鹿にしているのだろうか?
IRIAに限ってそんなことはないだろうけど……。
「なんでそんなこと聞くの?」
「特に意味はないですよ」
意味のないことをこの娘がするだろうか?
やはりこれもアカシックレコード?
全ての日常は決められたとおりに……。
さすがになんでもかんでもそっち方面に繋げすぎか……。
「では、あーんしてください」
「ええー……また?」
「いつものことではないですか。はい、あーん」
まったくIRIAの甘えっぷりには困ったものだ。
なんとしてでも私に奉仕したいらしい。
「まあいいけど……あーん」
仕方ないので口を開けてやる。
いや仕方なく、といえばやや語弊はあるか。
そんなIRIAが可愛くて仕方が無いのだ。
そうしてしばらく食事をしているとテレビのニュースに気になるものを発見した。
例の、大量自殺事件の話題だ。
そうだ……私はなにをしているのだ。
こんなところで悠長にご飯を食べている場合ではない。
事件を解決しなければ。
「ごちそうさまっ!」
最後の一口をさっさと飲み込み席を立つ。
「あ、あの……食後のデザートが……」
「ごめんねIRIA、今はいいや。後で食べるね」
「はい……」
せっかくのデザートだが、今は事件のことが優先だ。
「IRIA、私この事件を解決してみせるからね」
「え?」
ぐっ、とIRIAにガッツポーズを見せると私は駆け足で自分の部屋へ戻っていった。