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You & I -Reverside Drunker-  作者:
第一章"片翼の少女"
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You & I "Best FamilyⅢ"

「あ……優紀、ちゃん?」


 IRIAは帰ってきて私の顔を見るなり罰の悪そうな顔をする。

 別に私はIRIAが勝手に外出したことについては怒ってはいない。

 だがそれはあくまでIRIAがただのロボットであったらの話だ。


 私はIRIAを家族としてみているのだ。

 いうなればIRIAは私の妹のようなもの。

 妹が夜も遅くなる時間に私に黙って外出したことについて怒っているのだ。


「IRIA、どこ行ってたの?」


 だから私は優しく、そう尋ねたのだ。


「……すみません」


 なのにこの娘は言えませんと、そう言うのだ。

 IRIAは私の所有物などではない。

 何度もそう思うと、決めていたじゃないか。

 IRIAが何をしようと、それはIRIAの勝手だ。

 私はいつもIRIAによくしてもらっているではないか。


 少しくらいの勝手は許してあげるべきだ。

 そう、頭ではわかっているはずなのに……。


「そう……じゃあ私はもう寝るから、おやすみ」


「あ、あの……晩御飯は」


「今日はいらない」


「でもちゃんと食べないと」


「お腹いっぱいだから、それに眠いし……もう寝るね」


「優紀ちゃん」


「おやすみIRIA」


 IRIAの言葉に耳を貸さないまま私は自室へと戻った。

 ベッドに倒れこみ枕に顔を埋める。

 私の頭はすぐに冷静モードに入る。

 バカなことをした、と本気で後悔した。

 どうしても、IRIAは絶対服従のロボットだと思ってしまう。

 実際世界ではそう使われているし、そうプログラムされている。


 しかし私はIRIAを家族として扱うと決めたのだ。

 それなのにこの始末。

 私も所詮IRIAをただのロボットとしてしか見ていないのか……。


 いや、違う。

 人間同士だって、喧嘩はする。

 今のはただの姉妹喧嘩だ。

 妹の少し目に余る行動に対して、姉が怒っただけ。

 ただそれだけの話だ。


 明日は仲良くなれているだろうか?

 こんな小さなことは早く忘れて、またIRIAと話したい。

 なんだかんだでIRIAに対して甘い私はそんなことを考えながらいつの間にか意識が落ちていった……。

 



 

 目覚めはなぜかいつもよりもよかった。

 いつもはIRIAに起こしてもらっているが、一人で起きることが出来た。

 もうすこしベッドでゆっくりしていたかったがこういうものはだらだらしていると余計にだるくなってしまうことは周知の事実である。

 何度もそんな体験をしている私はえいやっと掛け声をあげつつベッドから跳ね起きた。

 うん、すっきりだ。

 そのままリビングへ行く。

 まだいつもよりは少し早い時間だがIRIAは朝ご飯を作っているはずだ。


「……IRIA?」


 IRIAはテーブルの前においてあるイスに座っていた。

 テーブルには昨夜の晩御飯とおもわれるハンバーグ。

 ずっと私を待っていたのだろうか?


 IRIAはただ、目を閉じたままじっと座っている。

 昨日はあのままシャットダウンしてしまったのだろう。

 私はIRIAの隣のイスに座る。


「昨日はごめんね」


 そう言いながら私はIRIAの髪をなでる。

 IRIAから手を離すと私はただ座ってIRIAが再起動するのを待つ。

 時計の音だけがこの場の静寂を支配する。

 数分たった後、IRIAがゆっくりと顔を上げる。


「指定の時間になりました。IRIA、リブートモードに移行します」


 IRIAの体からピピッといういくつもの電子音とブーンというHDDが高速回転する音が聞こえてくる。

 IRIAの、目が開く。


「視野の確保に成功。フォーカス、ホワイトバランス共に最も適した状態へと変更……success(成功)」


 IRIAの瞳孔が人間味を増していく。

 キュイっと音がしているのはIRIAのアイカメラが焦点を合わせているのだ。


「視野データの収集に成功。状況確認……緊急事態ではないことを確認。当機は通常モードで起動します」


 IRIAはこうして現在の状況を確認し、通常通りに起動するか、緊急モードで起動するかを決める。

 今はこうして平和な、なにも起きていない平日。

 それを確認したIRIAは安定した起動方法、すなわち通常モードで起動することにしたのだろう。


「メインOSの起動……容認。以降の制御はメインOSによる管理下で行う」


 どうやら無事にメインOSの起動に成功したようだ。

 メインOSというのはいうなればIRIAそのもののことである。

 ここから先は、さっきの機械的な言動ではなくIRIAの言葉で話してくれるだろう。


「メモリーを確認……agree。当個体、"IRIA"のロードに成功。Welcome world back IRIA」


 これで完全にIRIAは眠りから覚めた状態となる。


「……マスターの起床を確認。あれ、優紀ちゃん?」


 私の顔を見るなりまだすこしロボット言葉の抜けないIRIAはボケたことを言う。

 ロボットにもとんだ寝ボケさんがいたものだ。


「おはようIRIA」


「Good morning.あ、いや言語が……あー、いー、うー。Yes、おはようございます優紀ちゃん」


 ぺこりとお辞儀をして挨拶するIRIA。もはやどこから突っ込んでいいのかわからない。


「IRIAが起動直後で安定しないのはわかっているからさ、無理しないでいいよ」


「Yes agrre, my sister.Prease wait...」


 そのちゃっかり"sister"……つまりお姉ちゃんか。そんなことを言っちゃうIRIAがまた可愛らしい。


「IRIA、完全に起動に成功しました。おはようございます優紀ちゃん」


 キリッとした顔で、綺麗なお辞儀を、完璧な言葉使いでこなしたIRIAだったが惜しいところが一つある。


「IRIA、それさっきもいった。……まあおはよう」


 そう指摘するとIRIAは真っ赤な顔をして(オーバーヒート?)取り乱しながら言った。


「Reboot.Reboot.Reboot.マイシスター、IRIAは"再"再起動を所望します」


「駄目」


 これはこれでおもしろいので修理はしないでいる。

 そんなわけでロボットなのにやけに人間味のあるIRIAだった……。

 

 

 


「今日の朝ごはんはハンバーグにあわせ、ご所望していたお米ですよ」


 なんだか朝ごはんにしてはとても豪華だがこれは私が昨夜食べなかった晩御飯である。


「おお、ようやくお米が……!」


 そう、私はこれまで苺ジャムパンに対してぶーぶー文句を言っていた。

 とうとうお米が食べられるのだ。

 別にそんなに期待していたわけじゃないけれど、ただなんとなく頼んだものが出てくるのは嬉しいものだ。


「このローテーションだと、明日はパンですか?」


 突如IRIAがそんなことを言う。このローテーションってどのローテーションだ?

 今日はお米、昨日はパン、おとといもパンだったよね?

 パン、パン、お米……と、きているんだから次はお米では?


「あ……そうでしたね。次はお米ですね」


 やけに素直に引き下がるIRIA。

 なんだろう、IRIAの間違い?

 いやいや、IRIAは"勘違いをしない"はずだ。

 リビングで和真となにか話をしていたり夜に勝手に外に出て行ったり……。

 また少し、IRIAに対しての不信感……いや、不安感が募る。

 でもそれと同時に、なんだかIRIAが人間っぽいような感じもしてきて嬉しいような。

 よくわからない。


 もやもやする内にもIRIAは私の口に食べ物をどんどん放り込み気づけば全て食べ終えてしまっていた。

 時計を見ると、もう家を出なければいけない時間に近くなっていた。

 早起きはしてもやっぱり家を出るのはいつもどおりなんだな。


「じゃあ、いってきまーす」


「はい、いってらっしゃい優紀ちゃん」


 食事の後片付けをするIRIAに声をかけ、返事が返ってきたことを確認すると私は玄関から家を出た。

 また今日も、日がな一日暇な学校が始まる。

 


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