表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
You & I -Reverside Drunker-  作者:
第一章"片翼の少女"
1/44

Start DayⅠ

 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。

 また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。



 第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。

 ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。



 第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。


 2058年の「ロボット工学ハンドブック」第56版 『われはロボット』より






















挿絵(By みてみん)

絵師:ななゆう

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=17695791







 ある日の夏……。


「起きて優紀ちゃん」


 とても無機質な、私を呼ぶ声。


「学校、行かなきゃいけない時間だよ」


 学校……そうか、学校だ。


「ん……んっ……おはようIRIA」


「おはよう優紀ちゃん」


 私は水無瀬優紀(みなせゆうき)

 どこにでもいるような普通の女子高校生なのです。

 そんでもってこの無機質な声で話すのは人型生活サポート用コミュニケーションロボット、IRIA。

 サイズは私の身長の半分くらい。

 でも人型、とっても可愛らしい姿。

 いつからか忘れたけれど、ずっと一緒にいる大事な妹分。


「優紀ちゃん、ご飯できてる」


「ありがとう、すぐに行くよ」


 そうして部屋を出て行くIRIA。

 私は着替えるためにクローゼットを開けて制服を取り出す。


「……ふう」


 着替え終える私。

 これで学校にいく準備は完了だ。

 もうすぐ夏休みだ、学校にいっても特にこれといってすることは少ない。

 だからといってサボることもない。

 ただなんとなく流されて過ごす日々。

 それには意味なんてないのかもしれない。


「うーん……案外そんなもんかもしれないなぁ……」


 なんて独り言をつぶやきつつリビングへ向かう。


「今日は苺ジャムのパンですよ優紀ちゃん」


「苺ジャム……」


 苺ジャムは嫌いではない。

 いや、どちらかというと好きなほうだけど……。


「えっと、白いお米は?」


「ありますよ?」


「なんでそれを出さないの?」


「いえ……特に意味はないですけど……」


「あのね、IRIA」


 ため息をつきながら私はこの時たま駄目ロボ娘に説いてあげる。


「IRIAは充電好きだよね?」


「はいです、大好きですよ」


「それも家のコンセントでするのが好きなんだよね?」


「はいです、人間のように言葉でうまく表現できかねますが」


「それをアルカリ電池で充電されるとどう思う?」


「いいですけど……嫌ですね。なんといったら良いのかわかりませんが」


「そうそれ、"別にいいけど嫌"なの。今私そんな気持ち。」


「申し訳ないです……」


「いいのいいの、どうしても嫌! とかじゃないしね」


 片手をひらひら振りながらパンをかじる。

 ロボットだって人間の子どもと同じ。

 わからないことは説明してやらなければならない。

 ただ物分りが良すぎて融通が利かないことも多々あるがそれは仕方のないことだ。

 ただこうしてともに生活をしているとそれだけ私の行動パターンっていうのかな?

 そういうものをインプットしていくものだから教育・指導はしなくてもよい。

 なのになぜ私がこうしているのかというと・・・。


「人間と見ているから……かなぁ」


「私をですか?」



挿絵(By みてみん)

絵師:おに




「んー、そうそう」


 いつの間にか声に出していたようだ、聞かれて困る内容ではないからいいけどね。


「私を、人間として・・・ですか」


「じゃあ聞くけどさ」


 私はパンをおなかに流し込む。


「私とIRIAってどんな違いがあると思う?」


 私は問う。

 人間とロボット。ロボットは喋る。

 ロボットは私を起こしにくる。ご飯を作ってくれる。

 私の気分に合わせぎこちなくはにかんでくれる。


「えっと……それは……」


「演算しても駄目だと思う。これはそういう種類の問いじゃないよ。」


「……はい」


 おちこんだようにうつむき、返事をするRIKA。

 それは彼女にインプットされた

 "この場、この状況で一番適すると思われる人間の真似事"だ。

 所詮は真似事、この行動の意味などロボットにはわからない。


「じゃあ私学校行ってくるから、帰ってくるまでの宿題ね」


 私はそう言い残すとイスから立ち上がり、玄関へ向かう。


「これ、お弁当です」


「あ、ありがとう」


 お弁当を受け取るとカバンの中へしまう。


「じゃあ、よく考えてみてね。いってきまーす」


「はいです。いってらっしゃい」


 玄関を出る。

 さあ、一日の始まりだ。

 半日、なにもしない学校という意味のない行為をする。

 意味のない行為。

 意味のない行為といえば……。


「なんであんなこと尋ねたんだろう……」


 人間とロボットの違い。

 そんなもの尋ねるだけ愚問。

 ロボットは機械。そこにはプログラムしかない。

 でも、それなら人間は?

 "脳"という大きなハードディスクを持っているだけに過ぎない。

 ロボットとは違い"感情"という拡張子のファイルを保存できるHDD。

 そんな認識。きっとその程度のものなのだろう。

 いや、それくらい凄いことなのだろう。

 きっと、私の脳をUSBケーブルにつないでパソコンで中身を見てみたら

 "0"と"1"だけが見えるのだろう。

 いやいや、ちょっと特殊なプログラムだ。

 "2"とか混じっててもいいかもしれない。


「はは……三進数だよそれじゃあ……」


 あるかもしれないよ三進数。

 ……ないな、うん。


 神は人間をつくった。人間はロボットをつくった。

 ならばロボットはなにをつくる?

 人間がロボットが二進数、人間が三進数だと考えるとすると

 神は四進数ということになる。

 それならばロボットがつくったものは一進数のものになる。

 "0"だけでしか己を表せない存在。

 ならさらにそのロボットにつくられたなにかがつくったものはどうなる?

 ……零進数。

 すなわち無だ。

 " "で己を表さなければならない。

 でも" "は組み合わせなんて持たない。

 " "は一つなのだ。

 人間はたくさんいる。

 ロボットだってたくさんいる。

 ロボットがつくったなにかはちょっとだけだけどいる。

 でもさらにそのなにかがつくったものは一つしか存在しない。


「世界に一つだけ……か。まるで神様だね」


 神に始まり神に終わる。

 私たちは生み出しても、最後は神に行き着き、逆行しても神に行き着く。

 全ては神へと回帰する。

 神回帰論……なんてね。


「……馬鹿馬鹿しい」


 だったら十進数とか十六進数とか凄いわ。

 神の2倍も3倍も、4倍も上位の存在じゃないか。

 考え方がそもそも違うのかも。


「なら私たちって何進数でできてるんだろうねえ……」


「無限進数」


「へ?」


ふと誰かの声を感じ振り向くとそこには……。


「おはよう水無瀬」


 ……立木和真(たつぎかずま)

 私のIRIAに唯一興味を示してくれる同じクラスの男子。


「和真か……急に人の妄想にはいってこないでよ」


 まったくもって不埒な。

 セクハラだ、セクハラ。


「いやいや、なんか興味深い内容だったんでつい」


「いくら興味深い内容でもセクハラはいけないと思う」


「え? いまのってセクハラになるのか?」


「うっさい、ならないっての」


 よく口が滑っておもっていることを駄々漏れにしてしまう。

 これは私の悪い癖だ。


「まあいいや……で、その無限進数って?」


 なにやら意味深な言葉だ。

 それはなにを意味するのだろう?


「ロボットってさ」


 彼は語りだす。


「"0"と"1"の二進数でできてるよな?」


 それは私の考えていたことと同じ。

 というか真理だ。


「なら人間ってどこがロボットと違うのか・・・」


 それも私の考えていたことだ。

 IRIAの宿題にもした、愚問のテーマ。


「それは感情だ」


 そう、感情。

 人間には感情がある。


「感情って拡張子のファイルはロボットには認識できない。それはなぜだろう?」


 知らない……なんで?


「答えは簡単、大容量だからだ」


「それってどれくらい?1ペタくらい?」


「SI接頭辞で表すのならせめて一番大きいyotta(ヨタ)をもってこいよ・・・」


「あ、ヨタ知ってる。途方もない事を表す"与太話"ってその一番大きいSI接頭辞のヨタから引用したっていう」


「よく知ってるなそんなこと……まあそんなヨタなんかよりもっと大きなものだ」


「え? それって……」


「そうだ……"無量大数"ってやつだ」


 無量大数……つまり……。


「無限……」


「そのとおり、感情は数字で表すことはできない。だから感情はプログラミングすることはできない」


「それが無限進数?」


「そう、俺たちの脳はそんな大きなものをインストールしているんだ」


 ご大層な考察だ。

 本当にそうならどれだけ楽しいことか。


「でもさ、そんなに大きな容量保存できるならどうして数学の公式が覚えられないのさ」


 数学の公式なんてそんなに容量つかわないでしょう。


「それは俺たちの脳が感情で埋め尽くされているからだ」


 おお、なるほど。

 あまりにも容量の大きいファイル"感情"

 こんなもんを積んでいるからほかの物事が記憶できない……と。


「ならどうして、どうやって神は私たちをプログラミングしてんだろうね」


 プログラミングが不能なはずの感情を、神はどうやってつくったのだろうか。


「多分、神は"無限"がなにかを知っているんだ」


「無限がなにかを知っている?」


「そう、俺たちは無限は数字で表せない大きななにか、としか認識できない……。でも神はその"無限"を数字以外のなにかで表すことのできる数学者なんだ」


「なるほどね……その"なにか"ってやつをプログラムに組み込んで感情を作る……と」


「そう、つまり俺たちは"なにか"でできている。俺たちが理解しえないなにかでな。まるでロボットが自分たちがなにでできているのか知らないみたいに」


「それはつまり、自分より上位の者でないとなにでできているかわからないってこと?」


「まあ、そういうことになるんじゃないか?」


 いきなりえらい投げやりだなぁ……。


「どったの急に?」


「学校」


 彼の指差す先には学校。

 そうだ、この考察ごっこはもう終わり。

 ただの暇つぶし、妄言だ。


 キーンコーンカーンコーン……


 チャイムが鳴る。

 急がないと遅刻になっちゃう。


「……でも」


 でも、最後に気になったことがあった。


「ならば神はなにでできているんだろう?」


 はははっ、きっとむちゃくちゃ凄いなにかだな。

 神って凄いやつなんだなぁ……。

 そんなことを考えながら今日という一日がすぎてゆく。

 意味のない、意味のない……。

 本当に意味のないことだ……全て。


 kanzyou.exe

 File Not Found...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ