くいにげ たいしょう
1
おれ、か。
ちまたで、ゆうめいな『くいにげたいしょう』だ。
おれのだいこうぶつは、にんげんの“ち”
いつのまにか チクっと さされ、
いつのまにか チュウと “ち”をすわれている。
そして、すがたをさがすころには、
あかくはれあがった かゆ~い“はんこうげんば”だけが、のこっているのさ。
「さて、きょうは どんなおいしい“ち”にであえるかな」
2
まずは、しんせんな こどもの“ち”から……
チクッ、チュー チュー。
「うっ、まずい」
これは、やさいぎらいの あじ!
おかしや ジュースばかりで あまったるい。ギトギトした おにくの あぶらも はいった、しつこ~い あじ!
しかも、デロデロで のみごたえも さいあく!
こんな、まずいものをのんでしまっては
『くいにげたいしょう』の ひょうばんがだいなしだ。
よし、おれさまが、おいしい“ち”に かえてやる!
3
まずは、やさいを みじんぎり。
バターで、ジュージュー じっくり いためたら、
ごはんをくわえ、ケチャップ・しお・こしょうで、あじを ととのえる。
つぎに たまごを とかしいれ、
フライパンで、ふわふわ とろとろにしあげたら、
さいごに たっぷりやさいのケチャップライスを くるくる たまごでまきあげて……
こうばしい ケチャップがかおる、とろとろオムライスのできあがり!
あつあつのうちに
「いただきます!」
よし、そろそろ いいころだな。
チクッ、チュー、チュー。
「うん、うまい!」
4
つぎは、いつもやさしい おばあちゃんの“ち”……
チクッ、チュー チュー。
「うっ、まずい」
これは、うんどうぶそくの あじ!
からだに ちからがなくて ふにゃふにゃ。しゃきっとした げんきが からっぽで、ためいきがでそうな、ぬるくて うす~い あじ!
しかも、ヨレヨレで のみごたえも さいあく!
こんな、まずいものをのんでしまっては
『くいにげたいしょう』の ひょうばんがだいなしだ。
よし、おれさまが、おいしい“ち”に かえてやる!
5
いち、にー、さん、し。
ごー、ろく、しち、はち。
みんなで、いっしょに あさの うんどう。
そとにでて かぜに ふかれながら、おひさまを あびると きもちいい!
まいにち、まいにち うんどうをしたら、
どんどん あしこしが きたえられ、
からだじゅうに げんきが あふれてきた!
よし、そろそろ いいころだな。
チクッ、チュー、チュー。
「うん、うまい!」
6
さんにんめは、いつも おしごとを がんばる おとうさんの“ち”……
チクッ、チュー チュー。
「うっ、まずい」
これは、すいみんぶそくの あじ!
ねむくて、ねむくて あたまが ぼーっ。あくびも とまらなくて、なんだか しょぼしょぼした どよ~ん あじ!
しかも、ガチガチで のみごたえも さいあく!
こんな、まずいものをのんでしまっては
『くいにげたいしょう』の ひょうばんがだいなしだ。
よし、おれさまが、おいしい“ち”に かえてやる!
7
きょうは、はやめに おふとんへ。
まずは、おふろに ゆったり、つかり
ゆっくり ゆらゆら リラックス。
おふろあがりには、こうれいぎょうじ。
はい、こしに てをあてて……
「ぷはーっ」
やっぱり、おふろあがりの ぎゅうにゅうは、さいこうだぜ!
ちゃんと、はをみがいたら……
おひさまにあてた、ふかふか おふとんで
ゆっくり おやすみなさい。
よし、そろそろ いいころだな。
チクッ、チュー、チュー。
「うん、うまい!」
8
さいごは、かぞくのおせわに いそがしい おかあさんの“ち”……
チクッ、チュー チュー。
「うっ、まずい」
これは、おつかれの あじ!
あっちこっち うごきまわって くたくた。やることが いっぱいで バタバタしていて、なんだか トゲトゲした から~い あじ!
しかも、パサパサで のみごたえも さいあく!
こんな、まずいものをのんでしまっては
『くいにげたいしょう』の ひょうばんがだいなしだ。
よし、おれさまが、おいしい“ち”に かえてやる!
9
みんなで、おおそうじを かいし!
おかあさんは、ゆっくり やすんでいてね。
ソファーで ごろんと よこになり、おおきな あくびを ひとつ。おきにいりの こうちゃをのみながら、ほんを ゆっくり たのしんだら、なんだか、こころが まあるく なってきた!
みんなで ちからを あわせた そうじも だいせいこう。へやじゅう ピカピカで きもちいい!
よし、そろそろ いいころだな。
チクッ、チュー、チュー。
「うん、うまい!」
10
こうして、まずい にんげんを かたっぱしから おいしくしてやるうちに、いつしか にんげんから“ち”を すってほしいと たのまれるように なってしまった。
まいにち、まいにち
“ち”をすってほしいひとで
だいぎょうれつ!
くるひも、くるひも、おおいそがし。
11
こうして、おれは まちのみんなの“ち”をのむ『たべほうだいたいしょう』になった。
あまりに たくさん のみすぎて、からだは まんまる ぷくぷくに。
「お、おもくて、うまく とべないぜ…」
もう、だれからも『くいにげ』できない たいしょうに なっちまった。
おしまい




