054 :// メタルリザード掃討 -1-
まさか先日の紐なしバンジー経験が活きる時が来るとは思わなかった。
バーチェークが小脇にクロアを抱え、反対の腕で獣化したルジィの後ろ脚に捕まって、飛んでいる。
今回は生身で空を飛ぶことに慣れたからか、それともルジィが学習して安定した飛行をしてくれているからか、乗り心地は先日よりも比較的マシだ。
クロアは安定した状態で地上を観察することが出来た。
街の上を低空飛行し、すぐに鉱床が見え始める。
パルマファムの鉱床。
街のすぐ外にあり、鉱床を下に横にと掘り進めて周囲が山になっている。
空から見ると階段状に掘り進められた巨大な穴が3つと、その穴から外へと鉱物の運搬用であろうトロッコのようなものが見える。
その3つの穴の中央から、わらわらと生き物が這い出てきていた。
10体や20体では済まない、恐ろしい数だ。
上空から見ると、なかなか気持ち悪い。
(アレがメタルリザードか)
飛んでいるせいで感覚が狂うが、おそらくワニよりも大きいサイズ感で、尻尾を含めない部分だけでもクロアの全長を優に超えそうだ。
名前から推測するに、背中で太陽光をキラキラと反射しているトゲが金属かそれ並に硬いのだろう。
メタルリザードたちは鉱床付近から這い出ては、山の上を目指している。
山の上に達した個体たちは、街側に向けて進んでいるようだ。
街を護るように人が何人もいて戦闘しているのが見えるので、あれがおそらく騎士団だろう。
「ルジィ、聞こえっかー!! あっち、西の方角に襲われてるヤツらがいんぞー!!」
『見えたよん! キャッチしてどこかに一度降りるねー!』
「キャッチする時ー! 私ら引っかけないようにしてねー!!」
『わかってるってば~!』
ぐい、とルジィが飛行体勢を変える。
大きく横たわるように飛び、クロアたちも地面が横に見える。
鉱夫が2人、メタルリザードと対峙しているのが見えた。
その瞬間、ルジィの速度が上がった。
次に急に空が見えたと思えば、すでにルジィが前足で逃げ惑う2人をキャッチして空へ戻ったようだ。
大きな体だが実に器用だ。
「「ぎゃああああ!!」」
『ルジィちゃーん、ナーイスキャッチ!』
かなりの風圧があるのに、鉱夫2人の絶叫が響き渡った。
気持ちはとてもわかる。
痛いほどよくわかる。
今すぐ手を握ってわかちあいたい程度にわかる。
旋回したルジィが少し離れてメタルリザードがいない付近に降り立った。
地面に降りきらないうちに、後ろ足に掴まっていたバーチェークがクロアを抱えたまま飛び降りる。
バーチェークはクロアを地面におろすと、ルジィから鉱夫2人を投げ渡されてキャッチした。
安定のキャッチャーである。
「おまえら、大丈夫か?」
「死ぬかと思った……」
「母ちゃん……」
鉱夫たちの顔の青さは、メタルリザードに対する恐怖だけではないと思う。
大地に崩れ落ちて震える2人。
ゆっくり休ませてあげたいところだが、事態は急を要するのでクロアは2人の前にしゃがみ込んだ。
「簡潔に状況を教えて欲しい。
メタルリザードは、あの穴の中央から出てきてて、街に向かっている。で、合ってる?」
「ああ、そうだ。あいつら地中で孵化して成体になってから出てくんだよ」
「あっという間に囲まれちまって! たぶんまだ逃げきれてないやつがいるから助けてやってくれ!」
「もちろん」
騎士団は街へメタルリザードが雪崩れ込むのを防ぐために、前線から動けないのだろう。
クロアたちで救助をしつつ、メタルリザードを掃討しなければならない。
クロアは考える。
まず最優先は、人命救助だ。
そして次に街の安全確保。
目的はシンプルなので、すぐに作戦は決まった。
「バーチェーク、ルジィ、聞いて。メタルリザード瞬殺作戦やるよ」
「あ……アンタ、何言ってんだ! あいつら100体は余裕でいるんだぞ!
最低でもBランク冒険者パーティー、何チームもいなきゃ……!」
鉱夫の1人が正気でないと言わんばかりに声を張る。
クロアはニヤリと笑って見せた。
「ダイジョーブ。私たち強いから」
シンプルな作戦を伝えたので、あとは動くだけだ。
「ニャスタ、急ぎで生体スキャン開始。ルジィの視界に逃げ遅れたヒトのナビ表示」
ぴこぴこ。
右耳が動き、ドラゴンのルジィの眼前に湾曲した魔導ディスプレイが表示される。
『わ~お! 目が変ななった!』
いつぞやのニャスタグラスだ。
これでルジィの視界に、逃げ遅れた人が明滅して見えるようになる。
「じゃ、作戦通りに」
「おうよ」
『オッケー! 飛ぶよん!』
ルジィの右後ろ足にバーチェーク、左後ろ足にクロアが掴まる。
クロアはバーチェークと違って腕力がないので、掴まるというよりは抱き着くような形になる。
「【戦闘魔術環境】有効化」
クロアの瞳が青く光ると同時に、ルジィがふわりと浮き上がった。
巨大な翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。
鉱床一帯が見える程度の高さで、予定通りルジィが飛行を止めた。
クロアは中空に手を差し出す。
「【空歩】」
直径1メートルほどの魔術陣が閃光し、そのまま消えずに残る。
魔術陣が固定されていることを手で叩いて確認し、気合を入れて飛び乗った。
これは空中に足場を作る魔術陣だ。
将来的には自由に空を歩行したり走ったりする予定だが、かなり難易度が高い魔術なので今はただの足場である。
「ルジィ、OKだよ! 行って!」
『ハイハーイ』
バーチェークを乗せたルジィが離れていく。
「高っ……無いタマがヒュンするわ……。ヨシ、やるぞ!」
魔術陣は式部分以外が透明なので、だいぶ怖い。
空中にひとり残った恐怖を追い出すべく、大きく息を吐く。
「【距離測定】開始、【魔術式方向自動調整】停止、認識入力開始……」
鉱床一帯を見つめれば、視界に細いグリッド線が走り、立体座標が表示される。
認識入力により、視界に魔術出力予定先をガイドライン表示して、魔術式サイズと範囲を調整。
山を含めた鉱床3つを全て囲う。
「……完了。【固定】」
準備は整った。
「【土護壁】」
上空に、山3つを覆うような巨大魔術陣が出現する。
青いマナの閃光が走ると、地面がガタガタと揺れた。
3つの鉱床を封鎖する、巨大な土の壁が瞬時に地面からせり上がる。
壁はまっすぐな面のものではなく、内側に向けて曲面に伸びる“返し”つきだ。
街へ進行しようとしていたメタルリザードの何体かが、頭を壁にぶつけている。
囲い込み完了だ。
飛んで行ったルジィが翼をはためかせ、街と鉱床の間で旋回する。
空中でバーチェークが飛び降りて、クロアの作った土壁の上に降りた。
いつもの武器、大斧を地面に突き立てるようにして、さらに壁の外側の地面へ飛び降りる。
「本当に最後尾からやるんだねー……こわ」
バーチェークの着地地点を見て、クロアはちょっと引いた。
鉱床ごとメタルリザードを囲い込むので、バーチェークには土壁から外部にいるメタルリザードの殲滅を頼んだ。
メタルリザードが街へ向かう流れ、騎士団の戦う最前線でともに戦うことを提案したが、バーチェークに断られた。
騎士が邪魔なので、最前線をゴールにして殲滅していく方が楽、とのこと。
ここ最近は戦闘がなかったので目立たなかったが、バーチェークはなかなかの戦闘狂だ。
バーチェークが大斧を振り回すたびに、メタルリザードが複数吹き飛んでいくのが見える。
特に心配は必要なさそうだ。
飛び去ったルジィを見れば、左の前足に人を掴んで飛んでいる。
急降下し、また新たに右の前足に人を掴んできたようだ。
何人かが同じ手で雑に掴まれているので、とんでもない姿勢になっているだろうが仕方あるまい。
命あっての物種だ。
メタルリザードのいない安全地帯と鉱床を往復し、人を運ぶルジィ。
2往復すると、空高くに向かって飛び上がっていく。
これは事前に決めておいた合図だ。
「これで逃げ遅れはゼロ———だね」
ニャスタグラスを出して生体を人のみの表示にする。
3つの鉱床付近のどこにも人の反応はない。
救出完了だ。
これでもう、思い切りやって問題ない。
「んじゃやっちまうかねー。【魔獣捕捉】起動、【固定】」
視界中に、数えきれないほどの目標捕捉が明滅する。
「【雷線砲】実行!」
クロアの立つ魔術陣の下に、さらに別の魔術陣が展開する。
それと同時に、魔術陣から紫の雷電が地上に放たれた。
———バァアアアン!!
目を刺すような強烈な光。
本能を震わせる巨大な炸裂音。
一瞬だけの、世界の終わりのような時間。
「……クッソ心臓に悪いわ。帰ったら改良しよ」
自分でやっておいてだが、クロア自身も爆音にかなり驚いて心臓がバクバクと脈打っていた。




