048 :// 委託販売
「仕事前にお集まり頂いてすみません、みなさん」
いつものパルマファムの大通り。
夕暮れのオレンジ色に照らされるデイザの屋台に、人だかりがあった。
その人々の中央にいるのは、クロアである。
「私が安くエールを売っていたせいで、ご迷惑をおかけしたかと思います。
ですがここからは、みなさんの利益になる商売をさせていただきます」
「今度はオレらが、それを売りゃあいいってのか」
クロアを囲む酒売り商人は12人。
胡散臭いものを見るような人が半数、興味深そうに眺める人が半数、といった具合だ。
「そうです。
皆さんには、私の製品クロアミンの販売をしてもらいたいと考えてます。
すでにデイザさんを通してお伝えしましたが、改めてまた説明させてもらいますね」
クロアは持ってきたクロアミンのロットを、デイザの屋台の上に置いた。
「このクロアミンを1本350ゴーズで売ってもらいます。
私はみなさんに250ゴーズで売りますので、1本売るごとに、みなさんは100ゴーズの儲けが出ます」
ふむ、あるいはほう、と人々が頷く。
「1日10本毎日売ったなら、1か月で約3万ゴーズの利益。
この辺の酒売り商人の1か月の収入は、20から24万ゴーズだと計算しています。
それが3万増えるって、結構大きいでしょう?」
おお、と感心する声がいくつか出た。
感触は悪くない。
「本当に、それが売れるのか?」
「最近アンタが売ってたみたいだけど、どれくらい売れたんだい?」
「私は昨日45本売ってます。
宣伝して販売したのはここ数日のことですから、このクロアミンがもっと有名になれば、さらに売れますよ」
デイザもまた、じっとクロアミンを眺めている。
かつての眼差しは純度100%の疑いでしかなかったが、半分くらいには減った気がする。
「もちろん商品知識と売り方は、何度でも教えます。
今日はうちの屋台がなくなったことをお知らせするために、私が直接販売しますけど、明日からはみなさんの稼ぎになります」
「最初のうちは不安だと思いますので、売れた分だけ翌日ウチに支払いする、という形で構いませんよ」
「ええ? 最初はタダでその商品をうちの店に置けるってこと?」
「そうです。売れなかった分や販売をやめたくなったら返却も可能です。
あ、販売数は正確にお願いしますね。このクロアミン、もうすぐ製造元がビリヤノ酒造になりますので」
笑顔で言ったが、これは『数ちょろまかしたら、そもそも酒すら買えなくなるぞ』
という意味である。
商人たち皆が、言わずもがな納得した顔になった。
「逆に都度の精算が面倒であれば、一週間分とかまとめて買切りしていただくことも可能ですよ。
お試し感覚で、数本からでも。なんなら、みなさんが飲んで試してみる分も差し上げます」
クロアはニッコリと営業スマイルした。
「いかがです?」
委託販売。
簡単に言えば、商品の所有権をこちらにおいたまま、別の店で販売してもらうことだ。
売れ残りの返却が出来るので、売る店側としてはリスク無く商品を増やすことが出来る。
クロアミンの製作費用である原価は50ゴーズ。
販売価格は定価350ゴーズ。
これを別の店に250ゴーズで卸売りし、定価で売らせる。
委託先の店は100ゴーズの利益、製作元のクロアは200ゴーズの利益、粗利益は原価を引いて150ゴーズになる。
直接クロアたちが売れば利益は300ゴーズなので、直接販売もダメなわけではないが、クロアは最初から委託販売の手法をとることに決めていた。
委託販売のメリットは販路の大きさだ。
直接販売では自分の店でしか販売できないが、委託販売であれば他人の手によって自動的に商品が売れる。
そしてそれはいずれ、この街を越えて隣街、そしてさらに隣街へと広がっていく。
だから製造販売権の売り先を、ビリヤノ酒造にした。
ビリヤノ酒造はすでに近隣の街への販路と信頼を持っており、しかも商品特性上、酒とセットで売りやすい。
商人たちは今まで通り酒を買い付けに来るだけで、クロアミンも買い付け出来るのだ。
仕入れ側にとっても手間がかからない上に、目にとまりやすく、これほど都合の良い売り先はない。
ここまで来たら、商人たちの反応と手間によっては、購入して貰ってから販売してもらう卸売りの形でもいい。
クロアは最初からここまで見据えていた。
「よく考えたわよね、こんなこと」
「私の故郷じゃフツーのことだよ。功績のほとんどはベルガの技術力だね」
「魔術? ってやつぁ、本当にすげーな」
「よくわかんないけど、ルジィちゃんはクロアが一番すごいと思うよ!」
「フフフ、ありがとー。んじゃ、ラストスパートかけてこっかねー」
「おや? 嬢ちゃん、屋台はどうしたんだ?」
例の左眉に傷のある男。
今日も我先にとクロアのところへやって来て、不思議そうにクロアを眺め回した。
「屋台壊されちゃってさー。仕方ないから、エール販売やめたの」
「えー! 困るよ! 栄養剤は!?」
「今日はみんなのために栄養剤だけの販売するよ。1本350ゴーズね」
「なんか高くねーか?」
クロアミンを2本差し出すと、男は不満そうだ。
「今までのは期間限定サービスって言ったでしょ! 明日の元気がエール1杯よりも安いんだから充分お得だよ」
「それもそうか」
男は母親の分と自分の分であろう、2本分の硬貨をクロアに手渡した。
クロアはしっかり受け取り、ニッコリと笑う。
「明日から、その辺の酒屋台で代わりに売ってもらえることになったから、よろしくね」
「じゃあ、これからどこでも買えるようになるのか?」
「そういうこと! 栄養剤クロアミンの取扱い店には、この旗を出してもらうから目印にしてねー」
クロアは小さな旗を手にして、振ってみせる。
「なんだこりゃ?」
「私のマーク。ホラ、耳のカタチが私と同じでしょ?」
白い布に、黒い塗料でニャスタのシルエットを描いた。
端材で作ったので大したものではないが、充分だ。
「ガハハハ、なるほどな! かわいいじゃねーか!」
こうして、常連に説明してはクロアミンを売った。
また屋台がないことで物珍しく思って寄ってきた人々にも、説明しては売った。
6日目リザルト。
クロアミン販売数57本。
利益17100ゴーズ。借金残、約13万。
■□
「お願いします」
「チッ、提出が遅いんじゃあないか?」
「も、申し訳ありません!」
部下が提出してきた書類の束を、デスクの書類の束の上に置く。
今日も今日とて仕事は山積みだ。
いつになれば、このデスクは広く使うことが出来るのか。
苛立ちのままにハウゲルは舌打ちした。
(……む? あのポーション、アイツも飲んでいるのか。最近妙に見るな)
しょぼくれて自席に戻った部下が、ポーションらしき小瓶をぐいっと飲み干すのが見えた。
あの小瓶、最近よく見かける。
特に朝だ。
出勤すると、さまざまな場所であのポーションを飲んでいる者を見る。
低級ポーションの小瓶だが、中の液体の色が妙に黄色いので新作なのだろう。
そういえば、新作のポーションが出たという報告は受けていない。
「キミ、それはなんだね?」
「はい?」
「そのポーションだ」
「はあ、これはポーションじゃなくて栄養剤なるものです」
「栄養剤、だと?」
聞いたこともないワードだ。
「どこの商会のものだね?」
「商会については存じておりません」
「知らないだと!?」
「す、すみません!
最近、そこらの屋台や朝の食堂で売ってるんですが、商人ギルドを通してないみたいで……」
ワタワタと説明する部下。
そんなことも知らないから役に立たないのだというのに。
「どこの商会のものか、調べてこい。どうせポーションに妙なものを混ぜたインチキ商品だろう?
商人ギルドを通しとらん生意気な商会には、目に物を見せてやらんとな」
■□
そしてクロアは、自ら販売することをやめた。
最初はデイザの紹介で、近辺の酒売り屋台6店舗にクロアミンを販売してもらうことが決定した。
クロアミンを販売しはじめて7日目、委託販売開始。
委託先店数、6店。クロアミン総販売数66本。
利益16500ゴーズ。借金残、約12万。




