表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/51

041 :// 商業ギルドへ

「これは…………」


 ゴクリ。


「イモだ……!!」


 新たな食の世界に、クロアの頭に雷が落ちる。


「ポタイモね。美味しいわ」

「ちょいと小さいがうめぇな」

「コレ、ぺちょぺちょしてて意味分かんないよねー!」


 空になった荷車を宿屋の庭に置かせてもらい、昼食を取りに来た。

 大通り沿いにある大衆食堂のような場所で、それなりに人が入っている店だ。

 オススメのメニューを頼み、届いたのがこれだ。


 一見、肉まんサイズの饅頭の“ポタマル”なるもの。

 それが触れば肌に吸い付いてくるような不思議な質感だ。

 かじってみれば、中からトルコアイスのように白く、ほんのり温かい何かがびろーんと伸びる。

 味のイメージはライスペーパーにくるまれた、肉入りポテトサラダ。

 中のイモには挽肉と何かの野菜、そして香辛料が練り込まれているようで、食欲がそそられる。


(炭水化物に炭水化物を掛け合わせるとは……罪深い……ッ!)


 動ける程度に腹を満たし、クロアたちは出発した。






 今度の目的地は、商業ギルド。

 この世界での商業ギルドは、仲介業者の意味合いが強い。


 消費者は、個人や商会が開く店舗で直接購入する。

 そしてその商品を製造・販売する商人たちは、多くがこの商業ギルドを介して仕入れや業者間での販売を行っている。

 商業ギルドが仲介することで市場を調整し、また全体の品質管理も行っているからだ。


 つまり商業ギルドを通るということが一種の品質保証となるので、逆に言えばギルドを通らないものは言わば非正規品。

 非正規品は、例え品質が劣らなくとも正規品より低価格でしか販売出来ないし、販路も狭くなるそうだ。

 商業ギルド認可店では販売出来ない品扱いになるので、通りに出している露店くらいしか売り場がなくなるので、多少の手数料を取られても認可がある方が儲かるらしい。


 商業ギルドへの登録自体は、基本的に誰でも可能。

 その後商品または店の審査を受け、商業ギルドのお墨付きを貰ってから取引が行われる。

 これが一般的な流れ。


 と、バリランに教わった。


 クロアはこの魔国へ商品を持ち込んでいる。

 これを上手に売るには、とバリランへ相談したところ、必ず商業ギルドを通すように言われた。


 クロアの商品は南魔国の根幹を揺るがすものであるとバリランは言う。

 ゆえに、末端の商人たちに安く握らせるわけにはいかない。

 商業ギルドなら、首都から他の街、そして南魔国の王室まで、あらゆるところへ届く手がある。

 そこを上手く使うように、と。


 (しっかし、上手くいくかねー)

 

 ここまでで、商売において半獣族はかなり舐められていることがわかった。

 これは頑張りたいミッションではなく、成功させなければならないミッション。

 最初からハンデありの状況はかなり不安があるが、やるしかないのだ。


 商業ギルド。

 大通りの一等地にそびえる建物で、他の建物と異なり石造り。

 高さもさることながら、横にも大きい立派な建築だ。


「ヨシ、いくぞ!」


 クロアは皆を引き連れて、その建物へ足を踏み入れた。


 すれ違う人々、ほぼ全員がクロアたちを見ている。

 確かにクロア以外は背が高く体が大きいので、目立つのだけれども。


(幸先よくないな)


 その人々の表情と視線からして、嫌な予感しかない。

 奥へ進むと大きな部屋があり、カウンターがある。

 カウンターには横並びにスタッフがズラリと並び、顧客対応しているようだ。


「どういったご用件ですか?」


 どこに行けばいいかと見回していたのがバレたようで、横から男性スタッフがやってきて声をかけてきた。


「商業ギルドに、」


 いつも通りの口調で言いかけて、ふと思って改める。


「商業ギルドに登録がしたいのですが」


 気安い口調を改めて、久々に仕事中の丁寧で落ち着きのある言葉遣いに直した。


「…………商業ギルドに、ですか?」

「はい」


 男性スタッフは困惑した顔で沈黙している。

 かなり時間を置いてから、依然同じ顔のまま頭をかいた。


「……一応確認してます。こちらでお待ちください」


 クロアの返事もまたず、男性スタッフは足早に奥へと入っていった。


「なんだ?」

「さあ?」


 バーチェークとシルフェアナも違和感を覚えたようで、視線だけで周囲を窺っている。

 今、この部屋のほとんどの注目を浴びてしまっている。


「ルジィちゃんたち、人気ものだにゃあ」


 なぜか嬉しそうにドヤ顔をしている、ルジィ。


 クロアは溜息を吐いた。

 正直、想像通りの展開である。


「お待たせしました。あなた方が、商業ギルドに登録したい半獣族の方々ですね?」

「正確には私が、ですね。うしろはただの連れです。お気になさらず」

「あなたが?」


 先程の男性スタッフよりも年齢を重ねた、チョビ髭の中年スタッフ。

 手には書類の束を抱えている。

 スタッフはクロアを見てきょとんとした後、眉根をわずかに寄せた。


「失礼ですが……あなたでは、登録は難しいです」

「何故でしょうか?」

「それは……」


 クロアは言いよどむ男を真っ直ぐ見据えた。


「半獣族の商業ギルド登録を禁止している魔国は、北だけと聞いています」


 クロアの言葉が相当意外だったのか、スタッフは驚いた顔で固まる。


「年齢制限も、35歳までだとか。

 私、背は低いし童顔ですが、こう見えて50歳ですので問題ありません」


 本当は25歳だがそれ相当のはずなので、ウソではない。

 

「ここはもともと商人であった南の魔王が統べる土地。

 新たな商売の種には、積極的であると窺っておりますが?」


 チョビ髭スタッフの頬がぴくぴくと引き攣る。

 バリランの入れ知恵で押しているが、感触は良くない。


「…………半獣族の方々は、文字の読み書きと計算が出来ませんでしょう?

 それだと商業ギルドでのお取引が難しいのでございます」

「文字も計算も問題なく出来ますよ」


 クロアがさらりと答えると、チョビ髭スタッフはついに営業スマイルを辞めた。

 ふんと鼻を鳴らして、嘲笑を浮かべる。


「馬鹿馬鹿しい。そんな半獣族いるわけが」

「なんなら、テストでもしますか?」


 代わりにクロアが営業スマイルを見せてやる。

 すると勘に障ったのか、チョビ髭スタッフは手にしていた書類の束から一枚を引っ張り出してクロアに突きだした。


「なら読んでみろ」


 ギルドの書類を第三者に見せるのは如何なものかと思ったが、余計なことなので口を噤んで黙って受け取った。


「……『納品報告書』

 『ゼダ商会、茶葉納品数を以下に報告致します。レロラ葉、単価銀貨9、個数50、計……白金貨5、重銀貨5』。『タトマー茶、単価銀』」

「もういい!」


 書類をひったくられた。

 読めないと信じていたのであろうに、クロアがスラスラ読んだので屈辱感が見てとれる。

 チョビ髭スタッフの鼻息が荒い。


 ぴこぴこ。

 両耳が動くので、片目をこするフリをする。

 眼前に出たディスプレイの文字を瞬時に読む。


「……あ。タトマー茶の計が間違ってましたよ。正しくは白金貨4、重銀貨4だと思います」

「なんだと……!?」


 チョビ髭スタッフが書類に穴を開けそうな勢いで見つめ、あっと目を見開くとその後はぶるぶるとその手と口元を震わせている。


「合ってたでしょう? これで計算も問題ないことが証明出来ましたね」


 わなわなと震えるチョビ髭スタッフに、クロアはにっこりと笑いかけた。


(ニャスタ、あとでいっぱい撫でてやろう)


 ニャスタのナイスアシストだ。

 これだけ人が見ている中で、『本当に計算間違いがあった』と驚くような顔を見せてしまったので、もう取り繕えないだろう。

 クロアが読み書きと計算に問題がないことを自ら証明してしまったわけだ。


 するとチョビ髭が書類をくしゃりと丸めた。


「あ」


 クロアには全く関係ない書類なのに。


「とにかく、ダメなものはダメだ!」

「まず商品を見てくれません? 登録についての話はそのあとでも構いませんよ」

「半獣族の商品なんて見てるほど暇じゃないんだ! お引き取り願おう!」

「いや商品に種族は関係な」

「おい」


 チョビ髭が後ろに放った一声で、どこからか別のスタッフがやって来て、クロアの腕を掴んだ。


「話も聞かずに帰す気か?」

「バーチェーク、やめて」


 バーチェークがクロアを掴んだスタッフの肩を掴むが、クロアが制止する。

 何故、と不満げな顔をするのも分かるが、仕方ない。

 ここで暴力沙汰になると、登録の可能性が完全に潰えてしまう。


「……今日は帰りますが、また来ますから」

「何度来たって無駄だ! そうだな、目に見えた実績でも作ってくれば、考えてやろう!」

「実績? 私たちはもうこの街で、魔獣素材や刺繍布の取引をしてますけど」

「そんなもんは半獣族なら当たり前にやっとるだろう!

 魔族に劣らぬ商人として、立派に稼ぐことを実績というのだ! 無理だろうがな!」


 チョビ髭が笑う。

 嫌みったらしい奴だ。


 だいぶ機嫌を損ねたチョビ髭とクロアの間にまた別のスタッフが入り、手で追い払う仕草をされた。

 上司の機嫌をこれ以上損ねるな、出ていけの意味で間違いない。


(舐めやがって)


 腹が立つが、今はもうこれ以上に打てる手はない。


「行こう、みんな」


 クロアは皆を促し、商業ギルドを出た。

 追い払おうとしたスタッフがついてきて、警備員のように商業ギルドの入り口に立つ。

 どこか嘲笑じみた顔でこちらを見て、ふんと鼻を鳴らした。


「……ムカつくわね、あいつら」

「半獣族キライなだけじゃんね~」

「ブン殴りたいの我慢するの、大変だったわ」


 外に出ると、シルフェアナとルジィも口々に愚痴を漏らした。

 

「あんなのブン殴っちまえばよかったのに」

「バーチェーク、暴力は正当防衛以外ダメ」


 怒ってくれるのは嬉しいけれど、と諭してクロアも溜息を吐く。


「実績……ねー」


 売れる商品は既に全て売ってしまった。

 しかも魔獣素材に関しては、ちょろまかされて。


 魔族に劣らぬ商人として稼ぐ。

 その為に商業ギルドに登録させて欲しいとやって来たのに、奴らは商業ギルドの助け無しで、そこらの商人並に稼いでみろと言っている。

 無理難題もいいところだ。 


(すぐにさっと売れる商品なんて、街の外で魔獣狩るしかない……)


 ニャスタがいるので、ある程度効率よく狩りは出来る。

 戦闘員はバーチェークとクロアの2人だが、ある程度ランクの低くない魔獣が狩れるだろう。


 だがそれで得られる実績のジャンルは、商業ではなく冒険者だ。

 素材を加工した商品の販売や、素材をもとにした新規商売をしなければ商業ギルドに認められる実績にはならない。


(あと簡単なのは他の街から仕入れて転売、か……)


 幸いにもルジィがいるので、大量の品を仕入れることが出来る。


(でも需要も相場もわからないのに、あてもなく別の街に向かってもな……)


 時間をかければ魔族の同業より稼げるだろうが、そんな時間もない。

 というか、目当ての商売の手前でそんな無駄に時間を使いたくない。


 想像以上に、前途多難だ。


「…………寝たら3日くらい経ってて、その間の私がなんとかしてくれてたり、しないかなー……」

「クロアって、たまに頭悪いこと言うよな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ