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036 :// いざ、出発!

「いっくよぉー!」


 ルジィが両手の拳を胸の前でクロスさせ、ぐぐっと力をこめる。


「ヘンシーン!」


 両手を横に伸ばしたかと思うと右拳を空高く振り上げ、体が黄色く光り出した。


(変身ポーズって異世界でもやるのか)


 どこからか風も吹いてきて、木の葉を巻き上げる。

 光るルジィの体は形状を変化させながら膨らみ、建物のように巨大なドラゴンになった。


 この見た目の変化が、ルジィの獣化能力なのだそうだ。


「わぁ……」


 思わずペタペタとルジィの足を触ってみると、トカゲと彷彿とさせるひんやりした鱗がある。

 まるで最初からそうであったかのように、確かに生命体として存在している。


「質量保存の法則とは……」


 物質は化学反応の前後で総質量は変わらないというヤツだ。

 身近な例でいえば、コップに入れた氷入りのジュースがあったとして、氷が溶けても全体の量は変わらない。

 ルジィのドラゴンボディの質量は明らかに増えたように見えるが、一体どこから来たのだろうか。

 あるいは、普通の物質で構成されているように見えて、スカスカの質量で構成されているのだろうか。

 クロアはぐぬぬと唸った。


「アストラルで質量を増やしたのでは」

「あーそれかー」


 無表情なベルガミュアの言葉に、納得した。

 故郷の常識や法則をことどとく破ってくるので、ついミラクルを疑ってしまう自分に、クロアは反省した。


 太陽が穴だとか意味分からないことも多いが、魔法と魔術にもきちんとした理論と構造がある。

 ベルガミュアに言わせると、97%は科学に基づいたルールなのだそうだ。

 クロアに言わせれば3%もミラクルが存在することが恐ろしいが。


 人族はマナを持ち、自然現象に起因する原魔法を使う。

 これに対して魔族は原魔法を使用することが出来ない代わりに、一部の魔族は“血統術”と呼ばれる、遺伝性の特殊な魔法を使う。

 これは自然現象を超える不思議な術であることが多いらしい。

 そして半獣族は原魔法も血統術も持たないが、“獣化”という能力を持つものがいて、これが事実上の魔法であった。


 人族と魔族は体内に持つエーテルという半物質とマナを利用して魔法を使うが、半獣族はマナをほぼ持たない上に、エーテルに至っては完全に保有していないようだ。

 代わりに空気中にある半物質アストラルと、自然界にあるマナを利用して獣化を行っているらしい。


 つまりルジィは本来の質量に加え、空気中の半物質を魔法で自分の肉体組織・質量に変化させていると考えれば、質量保存の法則は成り立つということだ。

 相変わらず、微妙に夢のないファンタジー世界である。


「荷物持ってくぜ」

「ちょっとバーチェーク! もっと丁寧に運びなさいよ」


 荷車は積荷で山盛りになっているが、軽々と運ぶバーチェーク。

 この荷物はルジィの腹袋行きだ。


 ドラゴンボディのルジィの腹部には、巨大な袋がある。

 本来それはカンガルーと同じような子育て用の器官だそうだが、子のいないルジィは人と荷を運ぶ便利な倉庫にしている。

 これが半獣族界の運び屋、ガルゥ・ドラゴンという種族の特権だそうだ。


 非力なクロアは荷運びを任せ、見守る。

 手伝いたい気持ちはあるが、魔国に到着する前から筋肉痛になりたくない。


「クロア、ナイフ持った? あと、食料と水は……もうルジィの中? うん、ならいい。毛皮は? あっち寒くない?」

「シグ……このくだり何回目よ……」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ、クロアなら。なんかあっても、なんとなく強く生きるわよ」

「フォローが雑」


 初めてのお買い物をする幼い娘を心配する母親レベルに、クロアを心配するシグ。

 もうずっとそわそわと落ち着かない。

 母親感ある心配をしているが、シグ本人の様子は初めてペットホテルに預けられる犬そのものだ。

 手足の枷を外してからぐんぐん身長が伸びているシグだが、まだまだ子供である。


「クロア、ミスリルをどうか。ミスリルをお忘れなく」

「こっちも変な心配ばかり……」


 ベルガミュアも食い気味に心配してくる。

 だがこれはクロアの身の心配ではなく、将来の自分の魔導具(こどもたち)の心配だ。


「護衛騎士がいらないっておかしくないですか!? 魔国に行くんですよね!? どう考えても要りますよね!? ここで連れて行ってもらわないと、僕の立場が……!」

「こっちは立ち位置の心配かよ」

「にゃすぅぅ」

「ぐあっ」


 アストルの心配内容が一番ムカついたので、ニャスタを顔面に投げつけておいた。


 日が暮れ、夕飯を食べたあと。

 ルジィの飛行時間を考慮し、昼に魔国へ着くために今晩これから出発する。


「すまないね、アタシが着いていきたいとこだったけど」

「いいよー。ここの守りが薄くなるのは心配だからね。バーチィール、みんなを頼んだよー」

「ああ、任せな!」


 魔国行きメンバーは、クロアの他にバーチェーク、シルフェアナ。

 戦闘力としてのバーチェークと、布を売るための知識シルフェアナ、というメンバーだ。

 ちなみに売り物は布類の他にも魔獣の素材が多々ある。


 バリランにも来て欲しかったが、政治犯なので南の魔国でもトラブルに巻き込まれる可能性を懸念して断念。

 残念ながら、メンバー入り出来ず。


『早くいこーよー! ルジィちゃん、待ちくたびれちゃったー!』


 ルジィが退屈そうに欠伸する。

 ぐわあ、と小さな息なのにすごい風圧がクロアの背後に吹いてきた。


「荷物、積み終わったぜ~」

「行けるわよ」


 話をしている間に準備万端のようで、袋の中からバーチェークとシルフェアナが顔だけ見せてきた。


「準備ヨーシ。じゃあ行ってくるねー」

「にゃっす~」


 クロアもニャスタを定位置の頭と両肩に乗せて、皆に手を振る。

 ちなみに最近もニャスタは3体ずつ増え続けており、魔国に連れて行くのが本体含めた3匹、ここに残るのが何十匹といる。

 おそらく住人の数と仕事量に比例して増殖しているようなので、数えるのはだいぶ前にやめた。

 投影複製体は常時充填式で、本体からエネルギー源のマナを転送補充されており、本体がクロアと共にここから離れても問題なく機能するらしい。


 クロアは腹袋の中へそっと足を踏み入れる。

 ふわりとした巨大毛布のような感触が足を包み、ドキドキする。

 是非とも毛布として欲しい質感だ。


『袋とじるよん』


 ルジィの声が反響すると、入り口の袋がぴったりと締まる。

 つい気になって隙間に指を突っ込んでみるが、第一関節までしか刺さらないほど密封されているようだ。


(こんな締まってたら、酸素なくならない……?)


 嫌な想像をしてしまうが、今まで何度も半獣族が乗っているのだから、何かしらの理由で安全なのだろう。


 気を取り直して中を見渡した。

 意外と広い腹袋は、毛皮で出来たかまくらのようなつくりだ。

 持ってきたランタンの明かりがいい雰囲気を出している。

 ふわふわして暖かく、故郷のこどもの誰もが憧れた猫の乗り物のようでもある。


 詰んである荷物の横で、バーチェークは早くも横になっている。


「もうバーチェークったら、すぐぐうたらして」

「どうせ明日の昼まで着かねえんだから、寝るしかねーだろ? 体力温存だぜ~」

「私は魔術やってから寝るから、シルフェアナも気にせず寝なよ-」

「クロアはこんな時でも熱心ね」


 それから長いフライトが始まった。






 この世界は小さい。

 ベルガミュアの話ではかつてはXの文字に近い形の巨大大陸が1つあり、その他小さな島々が点在するといったところだったらしい。

 それからおそらく天変地異が多々あったようで、大陸は形を大幅に変えたと推測される。

 現在ではざっくり言えば、逆三角形の大陸だそうだ。

 地図を見せて貰うと、故郷の南アメリカ大陸のような形だった。


 その大陸のうち下側3~4割程度が呪われた地、つまりクロアたちのいるところらしい。

 人口密度の高い国生まれのクロアとしては、それだけの土地を放棄することが信じられなかったが、この付近一帯が呪われた地となってもう千年以上経つのだそうだ。


 残る部分はと言えば。

 呪われた地を除いて大陸を大まかに縦に半分に分け、右側が人族の領域で左側が魔族の領域だそうだ。

 人族と魔族の国境は、太い帯状の非干渉地帯(ホワイトライン)があるとのこと。

 この非干渉地帯(ホワイトライン)と呪われた地が半獣族の居住エリアとなっている。




 人族の国はフェルスタ王国、神聖国ダエアの2つに分かれている。

 元はフェルスタ王国が唯一国として栄えたが、何百年だか前に女神の加護を得たという神官が大きな権力を得て独立。そして生まれたのが神聖国ダエア。

 今でも女神の加護による祝福で、国として盤石な地位を築いているそうだ。

 人族の住む地域は、北側が王国で南側が神聖国らしい。


 一方魔国は、国名を魔国バルバジールという。

 東西南北の4つの領地にわけ、4人の魔王が支配している連合国。

 4人の魔王に地位の差はなく、魔国バルバジールと言っても実質は4つの合衆国のようなものだそうだ。




 魔族は人族のような原魔法が使用出来ないので、魔道具が流通しているらしい。

 バーチィールたちも金属の棒のようなもので火付けをしているが、それが魔国の魔道具だそうだ。

 それを見たベルガミュア曰く、それは『魔導具に満たない、原始的な魔道具』。

 魔術文字によく似た記号で発動させる仕組みだが、確かに火力調整もなければ個体差もあり、扱いづらい原始的道具と言える。

 しかし実際、火魔法が使えない者には画期的な利器だ。

 クロアはこれが、今後いい商売のネタになると考えている。


 ちなみにその魔道具を普及させたのが、現南魔王だそうだ。

 そして今向かっている、ルミナディアから最も近い国が南魔国。


 南の魔王はこれまでの魔王たちとは異なり革新的だと言うので、上手く行けばもしかすると、将来的にルミナディアと南魔国による国レベル規模の商売が成り立つ可能性がある。

 時間は掛かるだろうがそこまで行ければ、お金稼ぎ放題の豊かな生活まっしぐら間違いなしだ。


「フフ……ガッポガッポ……」

「クロア……なんて悪い顔なの……」


 魔術を構築しながらつい漏れてしまった、含み笑い。

 目撃してしまったシルフェアナには、ドン引きされた。

ネ◯バスは永遠の憧れですよね。

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