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035 :// 運び屋ルジィ

「お疲れー。差し入れだよー」

「焼きアレインじゃないか。わざわざありがとう、クロア」

「バーチャームたちには今んとこ一番手間かけさせてるからね」

「オヤツだ~」


 建築作業中のバーチャームとその甥、他に最近加わった半獣族たちがわいのわいのとクロアのもとへ集まってくる。

 1人1つ焼きアレインを受け取って、各々休憩時間に入った。

 バーチャームも1つ受け取り地面に腰掛け、クロアも隣に座り込んだ。


「進行状況はどう?」

「予定通りさ。この家も明日には完成する。ニャスタ、計画図を出してくれるかい?」

「にゃす~」


 ニャスタが魔導ディスプレイを出して、クロアとバーチャームの前に地図が表示される。

 これはクロアが作成した区画計画図だ。


 ルミナディア居住者は徐々に増えていて、これが想定よりも早く既に20人を超えている。

いよいよ小さな村と呼んでも差し支えない規模になってきた。

 このまま無作為に家を建てるとあとで面倒なことになりそうので、クロアは区画整理と建築計画を立てた。


 まずルミナスパレスとクロアが勝手に命名した、地下都市遺跡の上部にあたるルミナスの巨大群生地を村の中心とした。

 現在は碁盤の目状に仮想区画を作り、綺麗に家が並ぶように建築して貰っている。

 ファンタジーと言えば壁で囲われた円形の街があるあるだが、クロアは四角形を選択した。

 円形の街は夢があるが、絶対にデッドスペースが生まれるし、家屋を規格化しづらくなるので効率が悪いというのが理由である。


「この家がこれで、完成しているのはここまで」

「ニャスタ、実際のリアルタイム写真と重ねて」

「にゃす~」


 区画計画図に、綺麗に写真映像が重なる。

 拡大してみても重なりはブレない。


「誤差ほぼナシ。ホントすごいや、バーチャーム」

「ニャスタのお陰だよ」


 照れ笑いして頬をポリポリと掻くバーチャーム。

 確かにニャスタの機能は素晴らしいが、バーチャームの指揮による効率的な動き、工期予測、器用な加工技術があってこそだ。

 ルミナディア村づくりの最功労者と言っても過言ではない。


「来週には依頼の建築に入れるよ」

「助かるよ、ありがとー」


 既に居住している人々の家は完成しており、今は新規居住者用の空き家を制作中だ。

 クロアたちは例外として、ルミナディアに居住希望してくる人たちは単身者が多い。

 ルミナディア村を訪れる人族と魔族は、おおよそ追放者だからだ。

 よって一人暮らしに充分な6畳くらいの小さな家を先だって建てておけば、いつフラリと新たな居住希望者が来ても安心なのである。

 いずれは新規移住者専用住居として、家賃を徴収する予定だ。


 この居住区作りがもうすぐ一区切りつくので、その後は商業区に着手してもらう予定だ。


(バーチャームには、いつかホントにすごいお礼をしなければ)


 いくら感謝しても足りないほどなので、出世払いを心に誓った。


「あれ? そっちのヒトたちは……」

「彼らは家づくりの見学に来ててね」


 ふと見れば建築中の家の裏から半獣族が3人出てきて、建築サポート役のニャスタたちとつつき合っている。

 ニャスタが加工補助のナビである光を出すと、半獣族たちが歓声をあげ、ニャスタがドヤ顔をしてケラケラと笑い合う3人。


 この半獣族3人は、たまたまこのルミナディア村を通りがかった半獣族で、ここ数日ルミナディア近くで野営している。

 血縁関係ではないという3人は鹿系とネズミ系とたぬき系と、見た目はバラバラで不思議だが小家族(アム)であり、3人で放浪して生きているそうだ。


「おもしろいなぁ、ここの家づくり」

「だなぁ。精霊様の加護もすごいし」

「キミらも、もうここ住めば?」

「住みたいとこだがなぁ」


 クロアの誘いに、悩むように首をひねる3人。


「やっぱ同じところに住むって怖いよなぁ」

「うんうん、ティルナのこともあるしなぁ」

「ティルナってなに?」


 3人は不思議そうに顔を見合わせた。


「そっかぁ、クロアは人族だった。知らないのかぁ」

「昔、すごーく北の方で、半獣族が集まって村を作ったんだぁ。それがティルナ」

「でもあっという間に滅んじまったんだってさぁ」

「侵攻でもされたの?」

「そう、魔国が攻めてきたんだってさぁ」

「いや? オレは人族に惨殺されたって聞いたぞ」

「え? オレはなんか揉めて互いに殺し合ったって聞いたんだが」


 話が噛み合わない3人。

 半獣族同士の噂が時間をかけて伝わったせいで、事実が曖昧になっているようだ。


「とにかく、オレたち半獣族じゃ、一カ所に住むと危ないってイメージが強いんだぁ」

「なるほどねー。まぁ別に住む住まないは自由だからさ。住みたくなったらいつでも来てくれて構わないからねー」

「クロアはやさしいなぁ」

「歳とったら来ようかなぁ」


 ニコニコと笑う3人組。

 最近になって、ユガが言っていた『半獣族は多くは朗らかで気の良い者たち』という言葉がよく理解できる。

 魔獣との戦いは好むようだが、ヒト同士の争いは好まない者が多い。

 クロアも平和主義なので大変快い。


「いたいた! クロア!」

「ん?」


 おーいと呼び声がして見ると、バーチィールともう一人誰かが連れ立ってこちらに歩いてくる。

 見覚えのない人だが、角があるので魔族のようだ。


「やあやあ、キミがクロア!?」

「うん、そうだけど……?」


 見知らぬ女性はわくわくした顔でクロアの顔を覗き込み、ふんふんと鼻を鳴らす。


(ん、出た)


 半獣族は嗅覚が優れているので、大体初対面でニオイを嗅いでくる。

 最初はかなり嫌だったが慣れたものだ。


「こいつはユディ・ルジィ。例のドラゴンさ」

「ルジィだよ! よろしくね、クロア!」

「あー、あの運び屋っていう?」

「そそ! 半獣族御用達、運び屋ルジィちゃんとはアタシのこと!」


 テンション高いルジィがクロアの手を握ってぶんぶんと振った。

 クロアも物珍しさを隠しきれず、じっくりルジィを眺めてしまう。


 魔族のような角があるが、腰から爬虫類系のつるりとした尻尾が生えている。

 逆鱗はあるのか、冬眠はするのか、色々気になる。


「そんなに見つめられると恥ずかしいん」

「あ、ゴメン。つい」


 純度の高いファンタジー要素に動揺したが、クロアは頭をふって気持ちを切り替える。


 運び屋ルジィ。

 魔国に連れて行って貰う上で、必ず必要になる存在だった。

 ガルゥ・ドラゴンという種族で、ほとんど趣味で運び屋をやっている半獣族だ。

 遠い魔国へ半獣族を運び、日頃手に入らない穀物や金属類などを魔国で仕入れる手伝いをしてくれる。

 だから放浪民の半獣族が、鍋や武器などを豊富に持っているのだ。


 ここからでは最も近い南の魔国へ行くのにも馬車で3週間以上かかる距離を、一日かからずで飛んでくれるらしい。

 バーチィールと魔国に連れて行って貰う約束をしてから、ずっとドラゴンの到来を待っていたのだった。


「ルジィが来てくれたから、これでいつでも魔国に行けるよ! クロアの準備の方はどうだい?」

「準備バッチリだとも」


 魔国へ行ってしたいこと。

 まず第一に魔国の金銭を得ること。

 そして第二に農作物の種と金属類や道具の仕入れ。

 さらに出来れば、ミスリルの購入。


 難易度は高いが、これからの生活のための必須ミッションだ。

 既にバリランにも相談し、第一目標である魔国の金銭を仕入れる算段はついて、準備済みだ。


「じゃあ明日出発だ! ルジィ、頼んだよ」

「まっかせて! でもその前に~探検したいっ! この小屋入りたいっ! 小さくってか、わ、い~!」


 ルジィのキラキラが止まらない。

 高すぎるテンションに、クロアは若干引く。


(これはギャル)


 この世界にもギャルっているんだ、と思った。

ギャル。

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