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034 :// ルミナディアの日常

「【認識魔術アストラル・カリキュギア起動(ブート)


 視界に青い光が閃耀する。


「【戦闘魔術環境(バトルモード)有効化(アクティベート)———」


 視界に、細いグリッド線が走る。

 これはグローバル座標。

 簡単に言えば奥行きのある3D座標で、視界を数値的に把握することが出来る。

 まるで作りかけのゲームのような視界の中で、動くものをとらえる。


「目標捕捉。【固定(ロック)】」


 捕捉した目標に固定された証であるアイコンが表示される。

 目標の見た目は怖いがこれで問題ないはず、とクロアは自分に言い聞かせた。

 目標は全身に輝きのない銀色の鎧を纏って騎馬に乗り、立派な兜があるべき頭部は存在しておらず、騎馬も騎馬で銀色を塗りたくられた馬のような出で立ち。

 現実味のない見た目が恐怖を煽るが、耐えるようぐっと手を握って開く。


「【雷線砲(テイザー)】!」


 音声入力により魔術式が発動する。

 クロアが翳す手の前に魔術陣が出現して動き出し、真昼の日差しの中でも一際目映い紫の光を放つ。


 パァアアアアン!!


 一瞬の電撃。

 光は派手な音を立て、目標に当たった。

 頭部のない首無し魔獣、デュラハンの騎馬もろとも黒焦げになり、ぷすぷすと煙があげるその体が、よろけた。


「ヨシ! ビクトリー!」

「にゃす~!」


 新型の必殺技はいい出来だ。

 満足してニャスタとハイタッチする。


 戦闘時の常時発動型魔術式と、新技のコンボはいい出来だ。

 クロアは自分の動体視力や反射速度など、肉体能力が劣っていることをカバーするために常時発動型魔術式をいくつか組み上げた。

 今回使用したこの環境構築魔術式はbat、つまりスイッチ一つで複数の魔術を自動発動させる魔術式になっている。

 実行内容は【空間認識】【動体感知】【魔力感知】【獣核感知】など。

 この環境構築batを使用するだけで、格段に戦闘能力が向上した。

 まだ魔獣に対する恐怖心は拭いきれないが、距離さえあれば優位に立てることが確実になってきた。


「さてと……」


 ドヤ顔でクロアは標的の行く末を見つめる。

 よろけたデュラハンの体は力無く騎馬から落ち、


 ボゴオオオン!!


 大地を震わすように爆発した。


「うわァアアア!?」

「にゃすぅうう!?」


 突然の強風に顔を手で庇うが、体はついてこれず後ろに吹き飛ばされる。


(ヤバい、死ぬ!!)


 どっと冷や汗が噴き出したが、クロアの背中がすぐに硬いものに当たり、固定された。


「よっと。大丈夫か~?」

「ぐえっ」


 リス型の半獣族、バーチェークが脳天気な顔でクロアを覗き込む。

 その逞しさみなぎる太い腕で、吹き飛んだクロアをキャッチしてくれたようだ。

 ニャスタ3匹も泣きながらバーチェークの頭と体にしがみついている。


「だ……」


 口を開きかけたが、まずはきょろきょろと周囲を見て、安全確認。


「———だいじょばなーい! なんでアイツ爆発したの!?」

「デュラハンはダメージを受け過ぎると爆発する魔獣ですよ。ご存じないんですか?」

「オレだって知ってるっつーのに」

「爆発する魔獣!? ズッル!」


 アストルとラーシスの呆れ顔に、納得出来ないクロア。

 ウサギが跳ねるのが当たり前くらいのテンションで言ってくるが、そんな常識は聞いたことがない。


 デュラハンといえば故郷でもゲームなどで見知ったものだが、そんな生態はなかったはずだ。

 翻訳機能と一緒にこの世界の常識も装備させろよ、と誰にともなく心で悪態を吐き捨てた。

 いや、おそらく首のないモンスターをデュラハンと翻訳する、この謎機能が低性能なのが問題なだけなのだが。


「まぁよ、帰り道にいたからってだけで、デュラハンはオマケだからいーじゃねーか」

「素材にもならない魔獣なら、最初に教えてよねー」

「だはは、次からな!」

「クロアさん、今度僕が魔獣講義しましょうか?」

「うーん……お願いしようかなー」


 アストルの提案に、渋々頷くクロア。

 忙しいのでそんな暇はないと言いたいところだが、この世界、特に敵たる魔獣について無学なのはよくない。

 また睡眠時間が減りそうだと心配しつつ、帰路の道を歩き始めた。

 バーチェークが地面に置いていた、本日の食料という名の魔獣を抱え上げクロアの後に続き、皆帰り道を進み始める。


「いや、待てよ? 僕がクロアさんの騎士になるのだから、僕が護衛すればいいだけであって、魔獣知識は必要ない……?」

「雇用予定がないから知識超必要だわー勉強できないと困るわー」

「何故なんですか!? トップに立つ者には騎士が必要ですよ!」


 アストルは騎士になりたいと当初から熱望しており、クロアをリーダーと見てずっと護衛騎士になりたいと言い続けている。

 ルミナディアが今よりもっと大きくなり、他国や人から命を狙われるようなことがあるなら護衛は必要かもしれない。

 だが、SPはいてもいいと思うが、騎士は欲しくないとクロアは思っている。


 騎士といえば主従とか忠誠とか献身とか、なんとも言えず重いから嫌だ。

 例え自分がルミナディアを牽引し、将来的に国となろうとも、クロアは王になるつもりはなくそこまで慕われる人格でもない。

 職務として賃金を貰い、その対価として責任持って護衛を全うしてくれる、ドライで信頼できる職業護衛がいればいいと思う。

 裏切るような護衛は困るが、かと言って主従関係も嫌だ。

 関係性に精神的なものを含むような職業は、性に合わない。


「そんなポンコツ雇うより、ユガのジーサン雇った方がよっぽどいいぜ、クロア」

「確かにユガは欲しいよねー。いつになったら来てくれるんだろ」

「そんなっ」


 ユガにはクロアとラーシスが熱烈なラブコールを送っているが、未だ移住案に頷いて貰えていない。

 皆と関わること自体はやぶさかではないようだが、何故か共に暮らすことだけは避けたいようで、今でも時折訪問しあう関係性のままだ。


「僕はポンコツじゃない!」

「仕えたい主がいてこそ騎士を志すもんだろ。騎士になりたいから主を探すなんて、ただの飾りモンじゃねーか」

「ぐぬぬぬ……」


 何も言い返せず唸るアストル。

 アストルはマナが多く氷魔法に長けているが、オツムが比較的弱いのが残念なところだ。


(年下に口で負けるなよ、世紀末騎士……)


 剣士になりたいラーシスと、騎士になりたいアストルは仲がよくない。

 小さなコミュニティの中では年齢が比較的近いので、それ故のライバル心や小さな嫉妬心のようなものが原因と思われる。

 言い合いはするが派手に喧嘩もしないので、可愛らしい青春だとクロアたちオトナ組は生暖かく見守っている。


 こんな流れが、最近の日常である。






 アトラクとの戦いから、もう1か月以上経つ。

 バーチィールたちがクロアたちと共に暮らすようになり、それ以外の人員もさらに増えた。


 まずアストル。

 アトラク戦の時に現れた、若い人族男性だ。

 いつの間にかさも当然の如く居着いていて、いつの間にかバーチャームに話をつけてクロアたちの家の近くに小さな小屋を早々に作って貰っている。

 最初はラーシスを筆頭に警戒していたが、戦闘時以外はただの好青年のようなので、すぐに誰も気にしなくなった。


「ただいまー」

「随分遅いお帰りじゃねーか。お前のウンコはどんだけデカいんだ?」

「いーじゃねーかよ! オレは剣士になりたいの! 計算なんて出来なくていーんだ!」


 出迎えてくれたバリランの嫌味にだだをこねるラーシス。

 全てを理解してクロアはラーシスに拳骨を食らわせた。


「イッテ!」

「やっぱサボりだったなコイツ。ラーシス、計算出来ないヤツの行く末を教えてあげよう」

「なんだよ?」

「武器も防具もまともに買えないクソダサ剣士。世紀末騎士よりダサいよ」

「「なっ」」


 うしろでアストルの声も聞こえたが気のせいだろう。

 ちなみに“世紀末”は翻訳されず誰にも伝わらなかったが、あまりにクロアが言うので、大体“格好悪い”の意味で皆が覚えてしまった。


「か、代わりにリーシアが買い物してくれりゃいいんだ!」

「お兄ちゃん、私はお母さんじゃないのよ」

「うっ」


 リーシアの氷のような視線に凍るラーシス。

 ジト目のシグに無言で背中を押され、勉強会の輪に無理矢理ねじ込まれた。

 バーチャームの三つ子たちが、それを見てきゃいきゃいと面白がる。

 ちなみにシグは教師バリランの補佐として、教える側である。


「ったく、ガキんちょに教鞭をとる側の気持ちにもなれってーの。さっさと再開するぞ」


 バリランが座り込む子供たちの前に立ち、ごほんと咳払いを一つした。


 バリランは政治犯として追放されたとのことで、話してみると確かに政治や経済と知見が広い。


 クロアもバリランには自分が異世界人であること、ベルガミュアが古代人であることを明かして、この世界と社会について幅広く教えて貰っている。

 日頃はただのエロジジイだが、政治や商売の話はこのルミナディアに出来る人が他におらず、大変重宝している。

 バリランもバリランで異世界の話には興味津々で、盛り上がり過ぎて真面目な議論に発展することもあった。

 小娘、ジジイ、と罵り合うこともあるが、なんだかんだ互いに敬意を抱く間柄となった。


 現在のルミナディアには貴重な頭脳派なので、日頃は子供たちに文字や算数などの手習いを教えて貰っている。

 この非干渉地帯(ホワイトライン)を生き延びてきただけの戦闘力はあるが、適材適所というやつだ。


 ルミナディアが発展するには子供たちの教育が必要不可欠なので、大変助かる。


「クロア、戻ったのね! 例のアレが出来たわよ」

「おっ、待ってましたー」

「早速こっちで試着してみて!」


 ウサギのような耳を持つ半獣族の女性、シルフェアナ。

 半獣族の女性はほとんどが紡績や裁縫を生業としているが、彼女はその中でも一段と器用だった。

 デザインにもこだわる気質で、刺繍は機械織りでないのかと疑うほど美しい仕上がりを見せる。

 そこでクロアが個人的に自分の服を頼み、作って貰っていたのだ。


「サイズはピッタリ。いいわね」


 完成した服にさっと着替えれば、シルフェアナのチェックがすかさず入る。


「さすがシルフェアナ。ちょっと肌出るけど、動きやすーい」

「クロアがしつこいから、これでもかなり露出は控えたのよ?」

「むーう」

「でもね~。何も黒色にしなくてもよかったんじゃない?」

「いいのー。私の故郷じゃ黒って人気色だし、何より落ち着くから」


 クロアの要望は、『半獣族の服ほど露出しない、動きやすさのある黒い服』だった。


 半獣族の服は性別問わず、露出が多い。

 聞けば筋肉は誇らしいものであり、肌を隠すのは軟弱者という共通認識があるせいだとか。

 下着に鎧を着けているようなスタイルなので、筋肉も美しいボディラインも持たないクロアには遠慮したいものだった。

 シルフェアナの作った服はまだ露出があるような気もするが、無料で作って貰っているのでこれ以上文句は言えない。


 シルフェアナは色が気に入らないようだが、クロアには実に落ち着く色合いだ。

 これが何よりも良い点なので、露出に関しては妥協しよう。


 最近知ったのだがどの種族でも、黒色を忌避する世界らしい。

 バリランの話によると、呪石の色から始まった不吉の象徴らしく、黒髪すらちょっとした侮蔑の対象だという。

 この世界にも黒髪の人間が貴族も含め、一定数は存在する故に大っぴらに差別はされないが、陰口は言われるそうだ。

 なのであえて黒い服を着るのは奇人、といったイメージが一般的らしい。


 服を作る前に聞いていたが、それでも黒色を指定したのにはきちんとした理由がある。

 呪石と呼ばれるルミナスは不吉なものではないし、忌避するべき色でもない。

 そしてその黒すら自由に着られるこのルミナディアの地は、新しい価値観を持つ場所であるという、象徴となるためだ。

旗を持っているクロアにしか出来ないことである。


 既存の価値観を覆すには時間が必要なことなので暫くはあれこれ言われるだろうが、気にならないので問題ない。

 他の人に強要するつもりもないし、クロアが着ることで価値観の刷新につながればいいと思っている。


「たしかに嫌な色だけど、クロアに似合うわね」

「でしょー」


 シルフェアナが作ってくれた魔獣革のブーツを履き、大変満足だ。

 やっと森も歩きやすく、世界観的にも浮いていない格好になれた。


 これでついに、異世界での衣食住が整った。

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