022 :// 魔術講座開講 -1-
今日は朝から雨。
ということで、家作りはお休みだ。
クロアとベルガミュア、そしてニャスタたちで地下都市遺跡に来ていた。
「ここの空はなんで晴れてるんだろ?」
「あれは魔術立体映像ですよ。私の国テスカナでは地下には必ずあるものです」
「アレ、映像なんだ」
「疑似太陽光は植物も育ちますし、もはや本物ですよ」
「魔術の万能さ怖すぎ」
なんて話しながら、ベルガミュアの棺桶があった部屋までやってきた。
例の棺桶を中心に二人で地べたに座り込む。
今日はベルガミュアによる魔術講座の日。
ここでないと都合が悪いとのことで、場所はこの部屋となった。
「さて、早速始めましょうか」
「よろしくお願いしまーす」
「ニャスタ、説明用の映像をお願いします」
「にゃっすー!」
クロアの頭に腹で乗っているニャスタが返事をした。
「まず先に前提を確認しておきたいので、いくつか質問します」
「身長体重以外ならなんでもどうぞー」
「ではまず1つめ。魔覚確認をしたことは? マナ判定経験もあるとなおよいです」
スリーサイズはいいのかというツッコミ待ちだったが、ベルガミュアにはハイレベルだったか。
残念がりつつクロアは肩を竦めた。
「まかく? ってなに? のレベルです。魔法を初めて使ったのも、ラーシスたちに出会ってからだから」
「つい最近ってことですか?」
「うん。私の世界に魔法なんて無かったからねー」
「魔法がない?そんな世界が……。想像以上に違う世界から来たんですね」
ベルガミュアは元々クロアが原魔法の使い手だと思っていたようで、いつもの無表情ながらに驚いていた。
何故知らないのかと思ったが、改めて振り返ると説明することは他にも多々あったので、これに関して言ってなかったかもしれない。
今までクロアの魔法は暴発するから危ないということは話していたが、細かいところは言っていなかった気がする。
「では2つめ。世界には物質次元と精神次元がある、ということはご存じですか?」
「精神次元? って言葉も聞いたことないや。ワード的に、世界の構造的な……。
もしかしてこの世界って、世界の仕組みについて正確な事実が分かってたり?」
「ええ。物質次元と精神次元については遥か昔から観測されています」
「ほぁー」
改めて異世界なのだと実感し、間抜けな顔になるクロア。
一方ベルガミュアは始まったばかりだというのに疲れた顔をする。
「まだいくつか質問するつもりでしたが、大体わかったのでやめます。言葉が堪能な幼児に魔術を教えるつもりでやります」
「うっ……よろしくお願いします」
ベルガミュアの言葉がグサリと刺さる。
知らないものは知らないのだから仕方ない。
肩身狭い気持ちでクロアはぺこりと頭を下げた。
「魔術の話の前に、前提の話をかなり簡略化して話しますね。
この世界は、物質次元と精神次元の2層構造によって成り立っています。
私たちがいて、今見えるこの世界が、物質次元です。
精神次元はこの物質次元に重なって存在しますが、通常の状態では触れたりはおろか、見ることも出来ない世界です」
「そこにあるけど見えない世界ってこと?」
「ええ。精神次元は“存在”の世界で、あらゆるものにまつわる、あらゆる情報がある、と思って貰えれば大丈夫です」
イメージしたのは故郷にあった概念、アカシックレコードだ。
宇宙の誕生から未来まで、あらゆる全てのことが記録されている概念だとか、そういったものだったと思う。
あるいは、プラトンのイデア論なども近いかもしれない。
クロアは色々と想像してうーむ、と唸った。
「先日半物質というものの話をしましたが、覚えてますか?」
「ハイ! ミスリルとルミナスです!」
「それです」
知ってる知識が出てくるとここぞとばかりにピンと背筋が伸びる。
「その半物質こそ、精神次元に干渉出来る唯一の物質です。
物質次元にも精神次元にも同時に存在する、特殊な在り方をしています」
「同時に……? ってことは、二重に存在する?」
「いいえ。二重ではなく、跨って存在する、の表現が正しいです。
半物質という言葉は、もともと天秤を差す言葉でした。天秤ってわかります?」
「うちの故郷だと、皿を二つ吊るして重さを比較する道具だけど?」
「それで問題ありません。その天秤をイメージしてください。
天秤という道具が在り、皿には2つの別物が入っています。
片方は物質次元、もう片方は精神次元。両方が入ってこそ存在する天秤、これが半物質です。
どちらの皿がどれほど傾くかは、半物質の種類によって変わります」
「へえ……」
故郷では聞いたこともない、斬新な概念だ。
不思議な話に、シンプルに感心する。
「この半物質によって精神次元から存在の情報を引き出し、マナのエネルギーによって具現化する。それが魔法と魔術です」
「なるほど……?」
なんとなく分かるような、分からないような。
という顔をしたのがバレたらしく、ベルガミュアがふうと小さく溜息を吐いた。
「精神次元にまつわることは深掘りするとキリがないので、またそのうち話しましょう。
そういうもの、と覚えておいてもらえれば問題ありません。
それでは本題の、魔法と魔術の仕組みについて説明します」
世界の仕組み情報をもう少し深掘りしたいが、カットされてしまった。
仕方なく開きかけた口をチャックして、クロアは姿勢を正す。
横に座っていたニャスタたちが退屈そうな顔をして眠りはじめた。
「魔法は、詠唱によって人間の体内にあるエーテルという半物質を媒体に精神次元へ接続し、事象を具現化します。
一方魔術は、先日言った通り文字や記号によって、体外にある半物質を媒体として精神次元に接続するんです」
「それがミスリルとルミナス?」
「はい。あとはアストラルというものもあります」
「にゃす~」
クロアの頭の上のニャスタが半目で魔導ディスプレイを出し、表を見せてくる。
10個の単語が整列された表だ。
「ニャスタの表の通り、半物質は10種類あります。
そのうち人が認識できるものがこの4つ、ミスリル・ルミナス・アストラル・ハイグルです」
「ミスリルとルミナスだけじゃなかったんだ」
「魔導具に適した半物質がその2つ、ということですよ。
アストラルは目に見えない上に一部の人にしか認識出来ませんし、ハイグルは液体にしか存在出来ないので」
「そういうことかー」
確かに見えないものや液体状の魔導具は、非常に使い勝手が悪そうだ。
「ちなみに人に認識出来ない半物質は、どうやって発見されたの? 認識出来ないのに」
「認識できる半物質を介せば、認識も干渉も出来るんですよ。
カーバンクルも半物質のリキュボスが素材ですが、アストラルを介して製造されていると思います」
「そんなに高度な存在だったんだ。このやわらか生物」
「にゃ……すー……」
横で眠りこけるニャスタを指でポムポムとつつく。
幼い子供が描いた絵みたいな見た目のくせに、やたら上等な存在である。
「話を戻しましょう。ここからは具体的な魔術の使い方の話です」
「待ってましたー」
やはり実践、実行こそロマンがあるというもの。
クロアはわくわくとベルガミュアを見つめた。
「魔術の使用方法は大きく分けて2つ。
まず物理記述。
私がマニュピレーターを使用して魔導具を作っている方法です。
これはミスリルやルミナスに魔術文字と記号を刻印することを指します。
そしてもう一つは、認識記述。
これはエーテルを使用せず、都度アストラルに直接刻印します。
アストラルは空気中に無数に存在しますが、先程言った通り、誰にでも認識出来るものではありません。
認識出来る人でも、そこにあるのが分かるだけなので、酸素のようなものだと思って頂ければ。
この認識記述は魔術式を保存する補助魔導具が必要になる上に、魔覚、すなわち魔力や半物質を認識する知覚が鋭くなければ使えない方法です」
「第六感的なヤツってことか。てことはもしかして、認識記述は生まれつきで使える使えないが決まってる?」
「そうなります。魔覚は鍛えられるものではありません」
ベルガミュアが続ける。
「使用用途によっても、適した記述法は異なります。
物理記述によって魔術陣を刻印したものは、式を破損せずに必要なマナ供給が足りていれば、半永久的に効果を維持します。
よって一般に普及する魔導具は大多数がこの手法によって製作されています。
一方で認識記述。これはアストラルに直接記述するので、その状態での保存が不可能です。
空気中に描いた絵をそのままずっとは維持出来ないようなイメージですね。
刻印された半物質自体ではなく、式情報を補助魔導具に保存し、都度刻印して起動させる形になります」
「じゃあ認識記述なら手ぶらでいいし、物理記述だと刻印した、あるいはするモノが必要なんだね。
たとえば、魔獣と魔術で戦うとしたら…………認識記述だとニャスタみたいにぶわっと魔術を出して攻撃出来るけど、物理記述なら魔術式が刻印された武器が必要になる———ってこと、で合ってる?」
「そうです」
こくりと頷くベルガミュア。
「さらに情報を追加しましょう。
魔術の起動に必要なマナは、認識記述は基本的に自分のもつマナのみですが、物理記述だと外部保存マナ、バッテリーを使用出来ます。
ちなみにそのバッテリーの役目を果たすのがルミナスです。
よってマナ切れと、その充填にかかる時間と手間が変わります。
先程の魔獣との戦いの例えで言えば、認識記述だと自分のマナが尽きたら攻撃手段がゼロになります。
マナが切れれば何日も寝込むことになるので、もうこの時点で戦闘不能と言えますね。
一方、物理記述ならバッテリーがあればあるだけ武器を何度でも使用出来ます」
「なるほどなー、各々メリットとデメリットがあるってことか。ちなみにバッテリーは人体に対しては使えないの?」
「使えますが、専用の魔導具を神経に直接移植する必要がありますね」
「ヒエッ、神経に直接移植……」
言葉だけで痛いし、怖い。
クロアの背筋がぞってして震えた。
「医療型の超大型魔導AIが生きていれば可能性はありますが、流石に厳しいかと」
ベルガミュアが首を振った。
「なおどちらにしても、補助魔導具は基本的に必須です」
「基本的に、ってことは例外もある?」
「物理記述は補助魔導具なしは無理です。認識記述は出来るには出来ますが、補助魔導具なしだと意識のブレやノイズが生まれるので、完成度が極端に下がります」
「なるほどねー」
なんとなくわかってきた気がする。
するとベルガミュアが横で転がるニャスタの1匹を掴みあげた。
「ではやりましょう。ニャスタ、クロアの魔覚確認を」
「にゃす~」
「え?」
突如、頭の上のニャスタがずり落ちてきたかと思うと、ニャスタの目から目映い光が放たれた。
「ア゛ーー!? 目がぁ!!」




