015 :// 魔導AIのチカラ -1-
「クロア。朝だぞ……。やだァ! よだれェ」
「んー……どんだけー……」
どこかで聞いたことあるテンションだなと思えば、オルウェンが咳払いしていた。
夢うつつながら、この男は、と改めて思う。
大したことではないから、あえて突っ込まないけれど。
いつもながら朝が早すぎてうんざりするが、怒られるのでしぶしぶとクロアは起き上がった。
地下都市遺跡でベルガミュアと出会って数日経った。
ベルガミュアのことを皆には、ありのままに過去のすごい魔法で1万年眠っていた古代人だと伝えた。
本当か疑われたので地下都市遺跡に連れて行こうとしたら、呪石が怖いとのことで誰も来なかった。
地下の方が魔獣も来なくて安心だと力説したが、全力で拒否されてしまった。
なのでベルガミュアが古代人ということも、今のところは半信半疑のようだ。
ただ、世界や魔獣についての知識のなさ、生活力のなさ、これらからクロアに近い存在だとは認識されているらしい。
ラーシスが一緒に暮らすことについてうるさく言わなかったので、クロアの時も含めて力無き可哀想な人に彼は弱いのだと理解した。
当のベルガミュア本人は信用についてはどうでもいいらしく、何日も地下都市を探索していた。
滅びた自分の国ともなれば、思うところもあるだろうと思ったので、あえてクロアはついていかなかった。
満足なのか納得なのかわからないが、昨晩、収穫はなかったので探索をやめると宣言されたので、今日から本格的に行動を共にすることになる。
そして重大な変化がもう一つ。
拠点を地下都市遺跡の上に移動した。
つまり呪石の群生地のまわり、大きく開けた草原である。
呪石が怖いとの声が強かったが、この呪石、魔獣にも効くらしい。
むしろ呪石があることで魔獣も近付かない可能性が高く、これは安全性の高さに繋がる。
今まで魔獣に1度しか出会っていないのはただの幸運でしかないので、これを生かさない理由はない。
そして川も近く、果実の木も豊富だ。
主にクロアの説得により、拠点移動が決まった。
とは言え、この地下都市遺跡の上に家を作るまでは、近くの洞窟で寝泊まりをしている。
以前の木のウロよりは広さもあり、オルウェンとベルガミュアが増えても余裕がある広さでちょうど良かった。
この拠点を暮らしやすい居住地にするため、皆で計画を練った。
今日から本格的に動く予定である。
基本的に大人組が居住地作りを行う。
その間、子供組が食料調達を行い、時間が余れば大人組に合流してもらう流れだ。
子供たちには忙しくさせて申し訳ないが、自分の住む家を作るのを手伝うのは当然だと、子供たちも意欲を見せてくれている。
この良い子さんたちめ、とラーシスの頭を犬のように撫でまくったら、頭を殴られた。
「さーて、早速やりますかー。皆のもの、準備はいいかー?」
「「おー!」」
朝の食事を片付け終え、仕事開始の雰囲気なのにラーシスとリーシアしか乗ってくれないのが切ない。
ちょっとだけ傷ついた。
「クロア。その前に試してみたいことがあるのですが、いいですか?」
「なになにー?」
ベルガミュアがクロアの横に立ち、ラーシスとリーシアがわずかに引いた。
子供たちはベルガミュアが気になっているものの、まだ上手く馴染めていない。
ベルガミュアは集団にいると饒舌な方ではないし、容姿は切れ長の目が涼しげで彫刻のように美麗だ。
そして常に無表情。
端的に言えば冷たく、怖く見える。
しかも気軽に話すように言ったところ、丁寧語が慣れているのでこのままがよいとのことで、ずっと一人だけ他人行儀な喋り方。
だからだろう、なんとなく気軽に話しかけづらいようだ。
ちなみにクロアは全く気にしていない。
直感だが、他人と距離感が近すぎるのが苦手なタイプだと思うので、適度な距離なら大丈夫だし、不機嫌そうに見える時も実はそうでもないことを数日で掴んだからだ。
子供たちにもそれとなくそのことを伝えているが、まだピンと来ていないらしい。
ベルガミュアはクロアの周りをふよふよと浮かぶニャスタのうち、1匹を捕まえた。
ちなみに遺跡からついてきた、というか。
投影複製体なので、“新たに増えた”の方が正しいのかもしれないのだが、とにかく最近はニャスタが3体となってクロアの周りをうろついている。
「ニャスタ。周囲をスキャンしてください」
「へ?」
「これくらいは簡単に出来るはずです。むしろ何故今まで自発的に機能していないのか不思議です。
カーバンクルの銘は“人に寄り添うもの”……個人補佐の魔導AIなのに」
そういえばイニティムスもそんなことを言っていた気がする。
しかしこれまでニャスタが積極的に動いたのは、クロアの命の危機だった時だけである。
「やはり都市が滅んだので……初期化……いや、言わば疑似初期化でもしているのかもしれませんね」
「疑似初期化?」
また不思議なワードが出てきて、クロアは首をひねる。
「根本的な知識面はさすがにデリート出来ないはずなので、完全には初期化していないと思われます。
疑似的に既存の学習データを初期化して、新しい時代の人々と世界を学習している段階なのかと」
「なんとなーく、わかるような?」
1万年前の地下都市では環境も人も全く違うので、元の行動パターンをやめて、新たに学習して、最適化する。
その学習の途中なので、人をサポートする魔導AIとしてはまだ未熟な状態。
そんなところだろうか。
「それか悪性進化しているか……」
「デプラカ?」
「魔導AIは常に学習しています。そのうち人的有害行為を成したり、社会的逸脱行動をするようになる進化を遂げてしまうことがあります。それが悪性進化です。
そうならないために超大型魔導AIはオペレーターがついて調整しなければなりません」
「……この子、1万年調整されてない?」
「ですね。いや、そういえばカーバンクルのオペレーターなんて聞いたことがないような……」
「真相は闇の中かー」
ベルガミュアが考え込むが、すぐに諦めたようだった。
「ひとまず、ニャスタ。お願いします」
「にゃーす」
完全にヤダのテンションで、ニャスタはクロアの後ろに隠れた。
他の2体も同じようにいじけ顔でクロアの後ろにいそいそと入る。
「……ユーザー登録もしていないので、私のオーダーは聞きたくないみたいですね。
クロア、今言ったことをニャスタに言ってみてくれませんか?」
「ニャスタ。周囲をスキャンして」
「にゃっす~」
肯定っぽく鳴く(?)が、特に何かするわけでもなく、ニャスタはそのままだ。
「今までの食事履歴から不足栄養素と必要量を演算して、食料調達のナビゲートをするよう言ってください」
「今までの食事の履歴から? 不足した栄養素と、必要量を演算して? 食料調達のナビして?」
突然の、長文を復唱するミッション発生。
油断していたクロアは疑問符を交えながら復唱した。
「にゃす!」
ピョンという謎の音とともに空中にディスプレイが現れ、地図が浮かび上がる。
地図のところどころに点が書かれていて、その上には立体的な方位磁針らしきものと距離らしき数値が浮かんでいる。
点が目的地で、方位磁針がナビということのようだ。
ふと地図の点に指で触れてみると、ポップアップのように別の小さなディスプレイが現れる。
そこには果実の立体画像と名称、採集予定個数が記載されている。
「おおー! これはハイテク!」
「なんかニャスタすっげー!」
「妖精さま、かっこ、いい」
「この棒の指す方に向かえばいいの?」
「これが古の魔法なのか……?」
「にゃすん」
クロアを筆頭に皆が各々驚くと、ニャスタがドヤ顔をした。
点と線で描いたようなシンプルな顔の癖に、意外と表情豊かである。
「そーだ。もしかして、魔獣も検知出来たりする?」
「にゃす!」
「ヨシ、いいぞ! じゃあ魔獣を検知し次第、警告出すようにして。出来れば常時」
「にゃす!」
ピョンという音と同時に鳴くニャスタ。
この音はどうやら肯定の意味らしい。
要求はちょっとした閃きだったが、問題ないようだ。
なるほど、魔導AIはまさに未来的テクノロジー。
オーバーテクノロジーなことを要求しても、割と何でも対応してくれるのかもしれない、と感動した。
「よかったらベルガミュアもニャスタの管理者登録しない? 私より扱い上手だよね、絶対」
「クロアがいいのなら、お願いします」
「ニャスタ?」
ビー、という否定感ある音がして、ニャスタはどこかムッとした顔でクロアを睨んでいた。
「いやなの?」
登録を拒否するAIとはこれ如何に。
「……ニャスタ。私の管理者登録が嫌なら、使用者登録はどうですか?」
ニャスタはチラチラとベルガミュアとクロアを見比べた。
うーん、と考えるように渋い顔をしたのち、仕方なさそうに頷いた。
短い手をベルガミュアの額に当てると、一瞬小さな魔法陣が光る。
「使用者登録出来たみたいです」
ぽぽぽん、と空中にニャスタが3体新たに生まれた。
「ニャスタが増えたぞ!」
「かわいい!」
新たに生まれたニャスタがベルガミュアの周りを飛び、ふわふわ浮かぶ。
「じゃあニャスタ。さっきの地図使って、子供たちを案内してくれる?」
「にゃっすー!」
ぽぽぽん。
また新たにニャスタが3匹生まれた。
そのうちの1匹が、ふよふよと飛んでリーシアの頭の上に乗った。
その他2匹は空を漂っている。
理由は謎だが、3体1組で行動するのは基本スタイルらしい。
そういえば地下都市にいた大量のニャスタたちも、3体ずつ動いていた気がする。
選ばれたリーシアが喜び、ラーシスと口喧嘩し始めたがシグになだめられて、本日の食料調達に出発していった。
子供たちを見送ると、ベルガミュアがニャスタに目を合わせた。
「では、私たちにできる家作りのアイディアを出してください」
「にゃす~」
「処理速度の速さよ……」
「そんなことも出来ちゃうのか? オレも見たい」
「本来なら私たちの話の流れから、自分で発案してくるはずなんですがね」
空中に魔導ディスプレイが現れ、家の間取り図が立体映像で浮かびあがる。
図式変更とベルガミュアが言うと、3D間取り図は2Dになったり、家具配置されたカラーのイメージ図になったりした。
別の魔導ディスプレイが追加で現れて、丸太で出来たログハウスが表示されたので外観までしっかりイメージできる。
「この技術、故郷にも欲しかったわー」
「今日、何回すごいって言えばいいんだかなぁ」
クロアとオルウェンがしげしげとディスプレイを眺めた。
「候補はまだありますね」
ベルガミュアがスワイプすると、また別のログハウスが表示された。
合計6つのアイディアがあるようだ。
「こーゆーの、ワクワクしちゃう! 間取り図っていいよねー」
「オレらでこんな立派なの出来るのか?」
「私たちの能力も見越して提案しているはずなので、問題ないでしょう」
言われてみれば二階建てや大き過ぎるものがないので、考慮されているのかもしれない。
ニャスタが出してきたアイディアの違いは、主に広さと立て付けだ。
1部屋が大きいタイプや2部屋の連結タイプが主軸で、あとはキッチンの有無と、トイレの有無。
それが選択肢だった。
「調理場は火事が怖いが、雨の日苦労したくないな」
「私も同意。トイレはうーん。水洗じゃないし、外がいいかな……臭いキツそう」
「排水処理の魔導具が作りたいですが、すぐはムリですね」
あーだこーだと話合い、その結果2部屋でキッチン有り、トイレ無しとなった。
トイレは外に別の小屋を建てることで決定。
ちなみにオルウェンに聞いてみたところ、人族の国ではトイレは汲み取り式だそうだ。
ツボに座って用を足し、2日に1回くらいの頻度で、街や村の隅の専用捨て場に捨てるらしい。
衛生的に問題がありそうな上に、気持ち的にもよろしくない。
人族の国には住みたくないと心から思った。
「ではニャスタ。家作りをナビゲートしてください」
「にゃっすー!」
いよいよ、家作りスタートだ。




