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000 :// とある冒険者は、かく語る

「よっ、フュリー。今日2回目じゃねーか? すっかりギルドの常連だな」

「バーチェークか。朝受けた依頼が片付いたからよ、追加でもう一丁やっとこうかと思ってな。借金もあることだし」

「特殊案件以外じゃ、8時間以上の労働すると怒られるぜー」

「そういやそうだったな。仕方ねぇ、簡単なやつにするか」


 “体力の規格が異なる半獣族以外は、仕事時間を長くしてはならない”。

 聞いたこともない不思議なルールだが、この習慣に慣れてきてその理由がわかってきた気がする。

 疲れすぎないから翌朝の体の軽さが断然違うし、仕事以外の時間がとれることで充実した日々が送れるようになった。


 ここにはこういったぶっ飛んだルールや仕組みがいっぱいあって、色んなヤツが教えてくれる。

 出会った頃の自分が恥ずかしくなるほど、気の良い連中ばっかりだ。


 バーチェークに軽く挨拶をして、仕事依頼の一覧をチェックする。






 オレはフュリー。神聖国ダエア出身の冒険者だ。

 貧民街で生まれ天涯孤独の身の上だったから、剣を振るえる体格になるとすぐに冒険者になって国中を巡った。

 獅子奮迅の勢いでAランクパーティー“銀色の両翼”のメンバーになり、それなりに名の知れた冒険者になれたと我ながら思っている。


 可愛い後輩たちには尊敬され、強い仲間と高め合う日々。

 ずっとこのまま冒険者として危険な魔獣を狩って人々を護り、時に貴族や商人の護衛をし、いつかは弟子をとって、そのうち嫁が出来て、子供が出来て。

 そんな風に生きていくのだと思っていた。


 転機が来たのは、聖王からの勅命がパーティーに下った時だった。


 冒険者パーティーへの勅命はそうあることでなく、とても名誉なことだ。

 実際に勅命を下されなかったライバルパーティーは、随分悔しい思いをしていたようだった。

 オレたちのパーティーは意気揚々と旅立った。


 行き先は“呪われた地”。

 任務は、煎じて飲めば不老不死になれるという、伝説のエリクサーの入手。


 本当に実在するのか、それともただの伝説なのかもわからないエリクサー。

 その発見は難しい目標だが、途中帰還も許可されていたし、2年探して見つからなければ発見に至らずとも高い報酬を約束されたので、時間が掛かるだけの仕事だと思っていた。


 そう思っていた、あの頃の自分を殴りたい。


 呪われた地。

 それはどこの国も滅多に手を出さない、手つかずの荒野。


 ずっと共に戦ってきた神聖国最強クラスのAランクパーティー“銀色の両翼”は。

 その呪われた地で、見たこともない巨大魔獣を前に、オレを残して全滅した。


 笑っちまうだろ。

 オレたちなら呪われた地で2年戦う程度のこと、当然出来ると信じ切っていた。


 それが現実は、5か月で全滅だ。


 自分の未熟さを思い知った。

 Aランクパーティーの冒険者なんて、ただの自惚れでしかなかった。

 オレは命からがらで、惨めにも魔獣から逃げ続ける日々を過ごした。


 逃げるうちに荷物を失い、国に戻る方向すら分からなくなり、そうしてオレはどんどん呪われた地を進んでしまった。

 大地から生える黒い呪石を見かける頻度が高くなったのがその証拠で、その黒さを見る度にココロは絶望に染まっていった。


 もう駄目なのだと、死を覚悟していた。


 しかしその後ほぼ死にかけていたところを拾われて、なんと呪われた地にある街にたどり着いてしまった。

 まさか呪われた地に街があるなんて、知らなかった。


 ここに住むのは人族だけじゃない。

 魔族も、幻と言われた半獣族もいる。

 正直言って最初かなりビビってしまった。

 異種族なんて、初めて見たぜ。


 魔族の、頭から生えた角。

 半獣族の、獣のようなふさふさの耳と尻尾。

 

 オレら人族は生まれた時から、異種族は汚れた憎むべき存在と教えられてきた。

 ハッキリ言って、抵抗感と嫌悪感があった。


 だがこの街の中では、人族は異種族がまるで同じ種族のように言葉を交わし、共に食事をし、仲間となって仕事をしている。


 目の前の光景が信じられなくて、オレはもうとっくに死んじまってるのかと何度も疑った。

 世界中のどこに行ったってこんな国はねえ。


 街に辿り着くとすぐに魔族の医者を名乗るオッサンが治療してくれて、街の説明を受けた。

 国の補助? よく分からんが、とりあえずその日は無料で食っていいってんで、飯屋の食事を口にして。


 オレはまだ生きているんだと実感して、気付いたら涙が溢れていた。

 食ったものは初めて見るものばかりだったが、こんなに美味しい飯は初めてだった。

 男なのに泣いたりして恥ずかしい限りだが、本当に生きていることと、この街に感謝した。


 そして反省した。

 見たこともねえもんばかりの街で困ったことやわからないことを教えてくれたのは、汚らわしい存在と信じ込んでいた異種族だった。


 それから数週間、怪我は良くなったが帰るつもりはない。

 オレはここに永住しようと思っている。


 元の国よりも便利なものがあって、飯が美味くて、住んでる奴らも強者ばかり。


 どこに行っても、水道ってやつから綺麗な水がわんさか出てくる。

 普通、毎朝井戸から汲んできて瓶に貯めておくだろ?

 足りなくなったら井戸や川へ汲みに行くなんて仕事、ここじゃ必要ないんだとさ。


 あと便所もすごい。

 オレたち平民は、家の便所桶に用を足して、貯まったら汲み取って街外れまで捨てに行くだろ?


 ここは用を足す度に、汚物はどこかに消えちまう。

 だから驚くほど臭くない。

 信じられないだろ?


 他にも見たことのない便利なもんが山ほどある。

 説明出来ない不思議ですごい技術が、街中に溢れてるんだ。


 仕事もたくさんあって、賃金も安定してる。

 出来たばかりの街らしいが、ここは最高の街だ。


 ルミナディア。

 それがこの街の名前だ。






「にゃす?」


 掲示板を眺めるオレの横に、ふよふよと白い小さなケモノが飛んできて、ちょこんと首を傾げた。

 まるでまだ決まらないのか? とでも言いたげにオレと掲示板を交互に見る。


 こいつはニャスタ。

 ルミナディアのそこいらにいっぱいいて、愛玩動物(ペット)のように皆から可愛がられている。


 手乗りサイズの白い体は寸胴で、手足は短い。

 三角の耳とシンプルな顔立ちはどこか愛らしい。

 額には謎の赤いホクロがある、不思議なヤツだ。


 道端で寝てたり、踊ってたり、通りがかったヤツからオヤツを貰ったり、ただ怠けるだけのケモノなのかと思ったら、なんとその正体は精霊様だという。

 獣と違って言葉を理解しているらしいし、重大な加護を皆に与えているらしい。

 無下に扱えば住人皆が怒るのに、しかし精霊様として崇拝されている雰囲気ではない、どちらかと言えばみんなの友達みたいな、妙な存在だ。


「おう、ニャスタ。まだ悩んでるんだ。夕方までに終わりそうな軽めなやつは、どれかねぇ」


 後半は独り言のつもりだったのだが。


「にゃす~」


 ニャスタが鳴くと、掲示板に貼られたいくつかの仕事依頼が光る。

 見れば、どれもまさに“夕方までに終わりそうな軽めなやつ”。


「お前……こんなことも出来るのか……」


 額を変な汗が垂れた。

 ルミナディアでは戸惑ったら負けだ。


『———ます。レッド———るため、住民は———に、———さい』


 ギルドの外で、何か声が聞こえる。

 疑問に思って外へ出ると、さっきとは別のニャスタが3匹、隊を組んで路地をふよふよと進んでいく。


『こちらはルミナディア意思決定評議会です。

 まもなくレッドウェイブボア殲滅作戦を開始します。

 レッドウェイブボアが大量発生するため、住民は街の外に出ないでください。繰り返します———』


 ニャスタは日頃にゃすにゃすとしか鳴かないが、どうやらこの声はニャスタから出ているようだ。


「レッドウェイブボアだと!?」


 色々と気になるところがあったが、レッドウェイブボアに注意を持って行かれる。


 レッドウェイブボアは、Cランクモンスター。

 敵を見つけると、とんでもない速度で突っ込んでくる。

 しかし走り出すと真っ直ぐにしか進まないので、単体ならオレくらいになると朝飯前のモンスターだ。


 が、複数になると厄介だ。


 多ければ多いほど、こちらの逃げ場がなくなるように連携して動き、連なることで威力を増す。

 その異名は“村潰し”。

 小さな村くらいは一晩で更地にしてしまう、群れならばAランク相当になる魔獣だ。

 群れになるとチームワークを発揮する知能があることに加え、その猛威は巨岩すら打ち砕く。


 10頭に対応するなら、Aランクパーティーが1つか、Bランクパーティーが3つくらいは欲しい。

 少なくとも凄腕の魔法使いが数人必要だ。


 それが大量発生だと?


「こんなことしてる場合じゃねぇ!!」


 オレは慌てて街の外へ出るべく、走りだした。

 レッドウェイブボアの大量発生とあらば、一人でも戦力が必要なはずだ。

 これでも元Aランクパーティーの冒険者で、レッドウェイブボアの群れ討伐経験もある。

 オレがいれば、必ず力になれる。


「それにしても、どいつもこいつものんびりしてるな……!」


 駆けていく道中、すれ違う人々は皆まるで何事もないかのように普通に過ごしていることに少しの苛立ちを覚える。

 ニャスタの声が聞こえていないわけでもあるまいに。

 きっと彼らはこの緊急性が理解出来ていないのだ。

 それを誰かが説明して、避難させるには時間がいる。


 オレが速く行かなければ。


 心臓が弾むほど、走った。


「あれは———自警団の連中か!」


 やがて街の境界へ辿り着く頃、外を見据えた自警団が陣取っているのが見えた。

 5人もいない。

 その程度の人数で、レッドウェイブボアの大量発生に対応するつもりなのか。


「自警団! 助けに来たぞ!」

「助け? いや、いらねーぞ?」

「何を言っている! レッドウェイブボアの大量発生は、かなりの人数揃えないと厳しいぞ!」

「危ないから戻って戻って~」


 自警団の連中は、何故かオレを街に戻そうと押してくる。

 何故か、話が通じない。


「どーしたの?」


 自警団の連中の奥から、女の声がした。

 背の高い自警団の連中の隙間を縫って、ぴょこりと一つの顔が出てくる。


「あー。もしかして、最近新しく来た神聖国のヒトかな?」

「お前は……?」


 黒い髪に、黒い瞳。

 オレは貧民街生まれだから気にしないが、全身忌み色の女だ。

 何故か服に至るまで、不吉と嫌われる忌み色で揃えている。


「私はクロア。ルミナディア意思決定評議会の議長だよ。よろしくー」


 顔立ちを見るに歳は若く、まだ成人したかしてないかくらいではないだろうか。

 それにしてもルミナディア意思決定評議会とはどこかで聞いた単語だが、何だったか?


「…………クロアはルミナディアのトップだぞ」


 理解が及ばなかったオレに気付いたのか、隣の自警団員が口を挟んだ。


「こんなチ———若い娘が!?」

「今言いかけたやつ、チビかちんちくりんか賭けようぜ。オレちんちくりん」

「チビにベットベット~」

「あんまり言ってやんな。アタシは乳がないに一票」

「やかましいわ! 博打風悪口はやめなさい!」


 自警団の連中はふざけて笑い合っている。

 今はそれどころじゃないってのに。


「と、とにかく聞いてくれよ! レッドウェイブボア討伐ならオレも手伝える、使ってくれ!」


 クロアと名乗った女は不思議そうに首を傾げた。


「手伝いならいらないよ」

「しかし!」

「これはねー。私が計画してレッドウェイブボアを呼び寄せてるんだよ。ちゃんと全部討伐出来るからダイジョーブ」


 本当にレッドウェイブボアの群れを理解しているのか疑わしい。

 魔獣と戦ったこともなさそうな、日焼けのない貧相な体。

 ユルい喋り方が、余計に胡散臭くて信用出来ない。

 それにそもそも。


「呼び寄せるなんてこと、出来るのか? 聞いたこともないが」

「簡単だよ。あそこにニャスタがいるでしょ?」


 クロアが指差す先を見ると、街の外の先に白い塊が浮いている。


「レッドウェイブボアの子供の悲鳴を録音して、ニャスタに流させてる。見えないけど森の奥にも何体もニャスタがいるよ。

 んで、怒ったレッドウェイブボアたちが大群になってこっちに押し寄せてくるってワケさ」

「ろくおん……?」

「エグい方法だけど仕方なし。レッドウェイブボアは人間食うのに、この前の繁殖期で異常に増えちゃってさー」

「だからって、わざわざ呼び寄せなくても!」

「どーせ死体は運んできて処理するんだから、あっちから来てもらった方が楽じゃない?」


 ユルい話し方だが、淡々としている。

 本当に討伐出来るのか、未だ信じられない。


「まぁまぁ。そこで見ててー」


 クロアはオレに背を向け、街の外へ向けて数歩進んで立ち止まる。


「ニャスタ。レッドウェイブボアの指定箇所到着時刻は?」


 クロアの前に光る文字が浮かぶ。

 6つの光る数字が横並びになって、瞬く間に数字が右から順に回転?していく。

 あれは時刻を表示しているのか。


「そろそろだね。やろっかー」


 ニャスタが1匹、クロアの頭の上に乗る。

 もう1匹は左肩に乗った。


「にゃすぅ~~~!」


 遠くでレッドウェイブボアをおびき寄せていたらしいニャスタもクロアのもとに来たいようで、こちらに向かって慌てて空を泳いでくる。


「…………!」


 ドドドドドド———


 大地が揺れる。

 近付く轟音。

 もうレッドウェイブボアは近い。


 クロアが手を前にかざすと、その手元が青く光り始める。


「【戦闘魔術環境(バトルモード)有効化(アクティベート)。該当魔獣、確認。【固定(ロック)】」


 その手元から青い光の文字と図形が生まれ、踊るように形を成していく。


「な、なんだそりゃ……!?」


 その文字が一つの円に纏まり、光る。


「おい、来たぞ! 本当に大丈夫なのか!?」


 森の中から、赤褐色の巨大な獣がいくつも激しい鼻息と共に飛び出してきた。

 その数は20や30じゃない。

 このルミナディア程度、簡単に踏み潰す数だ。

 恐ろしい光景に、オレは拳を握りしめた。


 長年培った冒険者の勘が、警鐘をうるさいほど鳴らしてくる。

 緊張に心臓が弾けそうになる。


 そのオレの横で、クロアが静かに口を開いた。


「【雷線砲(テイザー)】、実行」


 ドオオオオオン!!


 たったの一瞬だった。

 閃光と、炸裂音。


 何が起きたか分からなかった。

 クロアの手元から、紫の雷のようなものが出た、ように見えた。

 それが枝分かれして、おそらく全てのレッドウェイブボアに当たった。

 その瞬間に、ドラゴンが咆哮したかのような音が耳を貫いたのだ。


 見たこともない魔法。

 詠唱もないし、魔法なのか?


 人を有に超えるサイズのレッドウェイブボア全てが、黒焦げになってばたばたと倒れていく。


 1秒とない出来事だった。


「完了っと。んじゃ死体の回収、よろしくねー」

「あいよ、力仕事は任せな」

「今日も夕飯はレッドウェイブボアのステーキステーキ~」

「最近そればっかりだったからよー。バーグってやつにしてくれよクロア」

「いいよー」


 手元の光が消えたクロアは、何事もなかったかのように踵を返してきた。

 代わりに自警団の連中が森へ、いやレッドウェイブボアの死体に向かって歩き出す。

 誰も殺し漏れを心配するどころか、すでに夕飯のことについて話をしている。


 オレはやっと理解した。


 ルミナディアではこの程度のこと、日常の一端でしかないのだ、と。


 ここに来るまでの住民たちののんびりさも、雑談しながら死体処理に向かう自警団も。

 クロアが簡単に一掃してしまうことを知っていたのだ。


「クロア……さん?」

「呼び捨てでいいよ。みんなそうしてるし」

「クロアって……そうか。あんたが“最も低い志でルミナディアを作っている”って噂の……」

「誰だーそれ言ったの」


 大体予想つくけど、と言うクロアは不満げだ。

 オレはこのルミナスに来たばかりの頃、街についての説明の中で聞いたことを思い出していた。


 クロア・ルミナディア。

 この街で最も軟弱で、最強の人間。

 そして驚くような手法で金を稼ぐ、魔王にも一目置かれる商人。


「悪いけど、最も崇高な志だと訂正させてもらおう。

 なんてったって、私は———」


 それが———


「早期引退して、余生を不労所得でダラダラ快適に生きるための街を作ってるんだからねー」


 この、チビでちんちくりんの、乳がない女らしい。

タイトルの読み方は「まほうドットエグゼ」です。よろしくお願いします。

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