過去の因縁
「旦那様と言われる筋合いは無い。お主が儂に仕えていたのはもう10年前の話じゃろうが。儂はかえ──」
「ご隠居様、せっかくだから寄っていきましょう」
「ぜひ、こちらへどうぞ!」
「お、おい!」
流石にそのまま帰られたらあから様に怪しい貴族にマウントを任せることになり、それを避けたい一心で勇気を絞ってそうゴージャスにユーデリカが申し出ると身なりのいい店主がゴージャスを引きずり始めた。
グイグイ引っ張ってられているがゴージャスが為すがままになっており、押されると案外弱いんだなとユーデリカが思うと完全に店の中にゴージャスが飲み込まれた。
意外な一面であるがユーデリカにとっては欲しい結果を引き寄せる形となったので僥倖と思いゴージャスに続いて店の中に入っていく。
店内は店主と同じような雰囲気で豪華ではないが品のいい木製の調度品で揃えられており、美味しそうな匂いがする。
「今は宿屋を営んでいまして、ぜひご馳走になってください」
「平民の飯など食わんわ」
「市井で商いをすれど旦那様にお仕えした時から全く変わりはありません」
「学園長に出されているものより栄養価と旨みどれも高いです。つまり学園と本邸で料理長をしている今のシェフ──テヌーキー兄弟は手抜き料理か、単純に無能かのどちらかになります」
店主が語気を強くするといつの間にか食べたのか、口をハンカチで軽く拭いながらミユキがそうゴージャスに進言する。
「き、貴様、なぜ食べている?」
「毒味のためです。毒の種類にもよりますが揮発したものを吸い込んだだけでも緩やかに死に至るものもあります。護衛であれば食べ物が近くにあれば調べるのは当たり前かと」
「く、生意気な小娘が! 儂の家の飯が平民の飯以下だと! ふざけるな!」
説明されて今度は手抜き料理だと言われたことが勘に触ったのか、ゴージャスは勝手に厨房に侵入すると皿にスープを注いで飲み始めた。
「まずい! 儂の家の飯の方が! まずい……」
「すいません」
「あなたが謝る必要はありません。謝るのはそこの老耄です」
知り合いとはいえ勝手に人の店でやりたい放題やり始めた二人に流石に店主を不憫に思ったユーデリカが頭を下げるとミユキが止めた。
「あなたもですよ」とユーデリカが思うと「グっ!」とゴージャスがうめいた。
「謝る必要はありません。ただあの頃から道を違えた今でも旦那様や若旦那様を軽んじるような気持ちなどないとお伝えしたかっただけですから。その代わりと言ってはなんですがメイドリアンに顔を見せてやってくれませんか?」
「わかった。本当に顔を見せるだけだがな」
「こちらに来てください」
このまま不貞腐れて帰るのもメンツが立たないのか、はたまた流石に方々から否定されて参ったのか素直に頷くと店主が奥に案内し始めた。
「メイドリアン」
突き当たりの部屋の扉をノックしてから店主が開けるとベッドに臥している痩せこけた女性の姿が見えた。
「貴様……」
隣から掠れた声が聞こえたと思うとゴージャスが目を見開いているのが見えた。




