鈴鹿サーキット 決着!
残り10分、6位争い――伸一、ピットアウト。
周りの音が消えたような感覚。
目の前の風景だけがやけに鮮明だ。
(この10分、全てをかける)
――1コーナー進入。
伸一はクラッチを使わない。
アクセルを少し戻し、右足でスパッとシフトアップ。
「……決まった!」
クラッチレスアップ――
**“コンマ数秒の短縮”**が、積み重なっていく。
ダウンシフトは、別だ。
「ここはまとめて……落とす!!」
一気に2速落とし、その間ずっとクラッチを握りっぱなし。
マシンのエンジンブレーキを使わないようにして――
“ジャイロ効果”を殺す。
倒し込みは、まるで自転車のように軽く――
マシンが“吸い込まれるように”コーナーに入っていく。
(これだ……!これが、俺の走りだ!)
タイヤの限界を感じながら、
エンジン音と振動と呼吸が完全に同期していく。
残り5分。あと1台で3位――表彰台。
後方から伸一が迫る。
ピットクルー全員が固唾を飲む中、
無線が静かに鳴る。
『伸一、次のラップで仕掛けろ。お前ならいける』
ファイナルラップ――
ホームストレート。
伸一は前のマシンのスリップに入った。
タコメーターが跳ね上がる。
空気の壁を切り裂いていく――
「……決まった!!」
ブワッッッッ!!!
前車を抜き去る――3位浮上!!
スプーンカーブ。
前を走る2位マシンがタイトにインを締めてくる。
でも、もう恐怖はなかった。
(転んでもいい――勝つために、行く!)
ブレーキをほんの一瞬だけ遅らせて、
伸一はマシンをねじ込むように突っ込んだ!
「あああっ!!!」
ガシッッッ!!――軽く接触。
だが絶妙に押し返しただけ。わざとじゃない。
審議も問題なし――
「抜いたァ!!伸一、2位ィィ!!!」
バックストレート――残るは、トップ。
しかしその瞬間、
「……あれ?なんだこの軽さ」
エンジンが軽く吹け上がる。
トルクが乗る、回転が合う――まるで、マシンが“お前なら行ける”と言ってるみたいだ。
「今までより……速い!!」
伸一の瞳に、トップマシンのリアカウルが映る。
そして、距離が――縮まっていく!!
130R――もう恐怖は無い。
今度はリアが踏ん張る。
グリップの限界ギリギリ。
でも、スロットルは戻さない。
「行くぞ、最後のバトルだ!!」
ファイナルラップ、130R手前――
伸一はトップマシンのスリップストリームにぴたりと付く。
息も、鼓動も、もう音じゃない。感覚だけが研ぎ澄まされている。
(ここだ――ここしかない!!)
「今だあああ!!!」
スリップを抜けてアウトから飛び出す!
トップマシンと完全に並んだ!
アウト側――不利。
でも伸一は減速しない。
130Rに、全開で突っ込んだ。
-
マシンはギリギリで踏ん張っている。
リアが微かにスライドしてる――
だが、カウンターは必要ない。伸一の体がそれを吸収していた。
前車がわずかにビビった。その瞬間、
「抜いた!!!」
だが、まだ終わらない――シケインが迫る!
2台が並んだまま突入――!
カウルが擦れる!肘がぶつかる!
「絶対に譲らない!!」
ブレーキングは限界。
だが、伸一はコース幅すべてを使い、
“最高のライン”を選んだ。
立ち上がり――
伏せる。
身体を、できるだけ小さく。
風を、殺す。抵抗を、消す。
「いけえええええ!!!」
2台が並んだままホームストレートを駆け抜ける――!
ゴールライン――
――ッ!!
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ピットモニターが表示した。
1位:#33 小野寺伸一 +0.027秒差!!!!
「やった……やったあああああ!!!!」
ピットが、爆発した。
仲間たちが叫び、柚葉が泣きながら叫ぶ。
「伸一ぃぃぃぃっ!!!!」
伸一のマシンは煙を吹いて止まった。
「ご苦労様」伸一は呟いた。
あの最後加速は限界の合図だったんだな。
マシンを止め、ヘルメットを脱ぐ。
陽炎の向こう、拍手がこだまする。
佐久間が駆け寄る。
「お前……バケモンだな……」
伸一が笑って、肩を叩いた。
「お前が託してくれたから、勝てたんだよ、相棒。」
空は、眩しいほどに晴れていた。