伝説の一族
【前回の登場人物】
「カルマ」
(種族)スシ・ダーク
(年齢)18
(能力)闇を纏ったイカ
(概要)カビ助が脱獄させ、命を救ってくれた男性。"真実"を伝える機を見計らっている。
カルマさんの一撃により、八岐大蛇の二本の首が消滅。
「ジャアアアアッ⁉︎」
絶叫と共に、巻きついていた蛇の力が緩んだ。
ドサッ、と僕は地面に落ちた。肺が一気に空気を求めて膨らむ。
カブ太も、モグドンさんも、解放される。
二人の石像を締めていた尾も外れ、亀裂は止まっている。
助かった——!
「カルマさん、本当に、ありが……」
その時。
黒い光が、再び走った。
カルマさんは片手を掲げ、指先から“闇”を放っている。
それは濃縮されたイカ墨の奔流。だが、闇の力であることに間違いはない。
粘り気のある黒が、一直線に蛇の首を撃ち抜く。
本当に、彼は味方なのか……?
「カルマさん……その力は……!」
闇の力。
憎しみから生まれ、人々を蝕むもの。
僕の問うたが、
振り返らずに、彼は言った。
「説明は後だ。今は、こいつを倒す」
短い。だが、迷いのない言葉。
——確かに、今はそんな場合じゃないか。
八岐大蛇が怒り狂う。
「返セ!」
「許さナい!」
「殺ス!」
残る六つの首が、同時に襲いかかる。
牙が地面を砕き、石化光線が校庭を覆う。
カルマさんは一歩踏み出した。
「『黒舎利弾』」
黒い米粒のような弾丸が2粒、曲線を描く。
それらは、再生しかけていた首の断面に、爆風を塗り込んだ。
ジュゥウウ……ッ!
肉が、煙を上げる。
再生が、止まる。
それを見て、ギザンが目を見開いた。
「その技……。مش معقول!」
古代語の響きが混じる。
「汝……『リーラッシャイ』の血筋か」
その言葉に、僕らは驚く。
「ええ⁉︎」
「リーラッシャイ⁉︎」
DR星を創ったとされる、原初のスシ族。
引きこもっていた僕ですら知っている、伝説の名だ。
——なるほど、道理で。
脱獄の時、あのスライム博士が敬語になったわけだ。
カルマさんは答えない。
ただ、大蛇の懐へ滑り込む。
「『トライアングル』の血が泣いている——」
ギザンは低く呟く。
「幾千の時は、我を鈍らせた。汝らは我を"英雄"と言ったが……結果はこの様よ」
その横顔に、悔恨が滲む。
石化から解かれた“英雄”は、時代に置いていかれていた。
村人達の犠牲を厭わず、魔王を倒したギザン。
彼のことを一瞬憎んだが、結局のところ彼も同じ人間だった。
——ただ、時代の価値観が違っただけ。
自分が犯してしまった罪に気づけば、悔いる。
目の前にいる強大な力に対して、無力感を感じる。
「本調子なら、負けなかったんですよね?」
僕は呟いた。
「まあ……そうだが」
「なら、僕より立派ですよ」
僕も、罪のない子熊を殺してしまった。
なのに尚、何も成せていない——。
「若き者よ——」
「カビ助、です」
本名じゃないが。
まあ、その件はもういい……。
今は、少しでも役に立たなくちゃ。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
闇を纏いながら、静かに戦う男。
カルマさんの足元に、影が広がる。
「俺も一度、飲まれたから分かった」
戦いながら、低く言う。
「……我を失った暴走は、“強く願った目的”しか残らない」
彼の語りを遮るように——
八岐大蛇が、咆哮と共に突進する。
「殺ス!」
だが、語りは止まらない。
「だから想定外には弱い」
カルマさんの瞳が、細くなった。
彼の周囲に、黒い霧が渦巻く。
——イカ墨。
だがそれは、ただの視界妨害じゃない。
蛇の断面へと染み込む。
「俺の闇は、再生を許さない」
ズバァンッ!
一つ、首が落ちる。
宣言通り、再生しない。
八岐大蛇の目が、困惑に揺れる。
「……ジャ?」
再生する"はず"だった。
その前提が崩れる。
——想定外。
カルマさんは間を与えない。
黒い閃光が、また一つ。
また一つ。
首が落ちるたび、再生は止まり、地面に崩れ落ちる。
僕は拳を握る。
無力感が胸に刺さる——けど。
今は、見ているだけじゃ駄目だ。
「モグドンさん! 霧を散らしてください!」
僕は少し離れた、彼に向け叫んだ。
「……っ! 任せろ!」
彼のドリルの回転で、空気が巻き上がる。
それにより——
ゴハートと土台モン。二人の石像の位置を把握。
「カブ太! ギザン! 手伝って……!」
一人じゃ持ち上げれないから……。
カブ太は、震えながらも土台モンの石像へと走ってくれた。
僕も立ち上がる。
ギザンは、やる気に満ちた目でゴハートの石像を目指す。
「我は一人で十分なり。的確な指示、感謝する。カビ助」
カルマさんは僕らをチラリと見ると——
すぐに振り返り、最後の首を見据える。
八岐大蛇が倒れる衝撃で、石像が潰される心配がなくなったからだ。
「よし、終わらせる」
彼の『黒舎利弾』が、一直線に走る。
ドォンッ!!
最後の首が、空中で断たれた。
八岐大蛇の巨体が揺れる。
「……ジャ……ア……」
崩れる。
八つの首を失った胴体が、ゆっくりと倒れ込む。
地響き。
砂煙。
そして……黒い鱗が、ほどけるように溶けていく。
やがて、巨大な姿は縮み——
地面に横たわるのは、メドゥーサ。
「暴走は、解けたか」
気を失っている。
脅威は、消えた。だが——
「げ、裸…………」
そういえば、八岐大蛇への変身過程で、衣服が破けていたな。
いくら見た目が絶世の美女とはいえ、僕らを苦しめた外道だ。
——僕は、興奮より見苦しさが勝つけど。
「先生じゃないって、分かってる。でも……」
カブ太は、焦って目を逸らしていた。
まあ、腐っても見た目は"初恋の人"だから仕方ない。
メディ先生——
利用されていただけの、メドゥーサの複製体。
彼女は、もう戻らないのだろうか。
このままでは、あまりにも彼が不憫だ。
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