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無力

【前回の登場人物】

「八岐大蛇」

(種族)ダーク

(年齢)35

(能力)石化光線・八つの首

(概要)メドゥーサが「闇の暴走」を使用した姿。

 八つの影が、地を薙いだ。

「ジャアアアアッ!!」


 空気が裂ける。

 さきほどまで理性を帯びていた女の面影は、もうない。


 そこに立っているのは、巨大な蛇の怪物。

 黒と紫の鱗に覆われた胴体がうねり、八つの首がそれぞれ別の獲物を睨み据えている。


「「殺ス!」」

 濁った声が、同時に四方から響いた。


 ギザンが一歩踏み出す。

「恐れるでない、若き者ども。蛇は頭を落とせば——」


 ——だが。

 言い終わる前に、三つの首が同時に噛みつく。

 石畳が粉砕され、爆風が校庭を削る。


 ギザンは回転して躱していた。だが、先ほど魔王を討った時の鋭さはない。

 肩で息をし、足運びがわずかに重かった。


 ……石化から解かれたばかり。完全ではないんだ。


「ジャアッ!」


 一つの首が、僕に迫る。

 そして、それと同時に横から別の首がカブ太を弾き飛ばした。


「カビ助……っ! 危ない!」


「僕の事はいい……。お前も危ないんだ!」


 そして二人共々、蛇に巻きつかれる。


「うわっ……!」

 冷たい鱗が、腰、胸、腕へと這い上がる。


 締まる。肋骨が軋む。


「オェ……カ……ビ……助ぇ!」

 カブ太も、別の首に締め付けられている。


「が……は」


 視線を変えると、モグドンさんも尾に巻き取られ、地面に叩きつけられた。

 ギザンすら、二体の蛇に押さえ込まれている。


「ぐ……っ!」


 瞬時に締め上げられる。

 巨大な鱗の輪が、胴を圧迫する。


 冷たい。

 生き物の温度じゃない。墓標みたいな冷たさだ。


「殺ス」

 耳元で囁かれた。


 振り解こうとするが、力が違いすぎる。

 だったら——


 『ツルピカフラッシュ』


 ピカっ!

 咄嗟に思いつき、閃光を放つ。


 ——光は蛇の目を焼くが。

 それは、ほんの一瞬。締め付けは止まらない。


 骨が、きしむ。


 ギザンが吼える。

「絶命の危機! 余力を考慮する場合ではない、か!」


 決死の踏み込み。


「『王生穿(セケム・アンフ)』」


 彼は核を見抜いたのだろうか。

 蛇の首元を的確に狙い、回転を生み出す。


「此の技は必殺必中。抗っても無駄なり」


 彼がそう言うと——

 回転が首を裂き、1匹の蛇を穿った!


 流石は英雄……だが。


「ジャアアア!!」


 怒号と共に、もう1匹の首がギザンを襲った。

 彼の技で仕留められるのは1匹のみだったのだ。


「ぐ……無念……!」


 重撃。彼の体が吹き飛ぶ。

 崩れた住宅の瓦礫に叩きつけられ、膝をつく。


 ……まずい。

 頼みの綱の英雄が、やられてしまったら——


「許……さナい!!」

 大蛇は調子付き、さらに暴れ始める。


 先ほどギザンが貫いたはずの1匹も、肉が再生している。

 血は黒く煙り、だんだんと塞がっていく。


 だが。

 ——奴らが狙ったのはギザンではなかった。


 二つの首が、同時に別方向へ伸びる。

 僕らを締め付けたまま——


 その視線は。


 ゴハートと土台モンの石像へ……。


「っ、やめろ!」


 その時、僕は理解した。

 言葉は失われても、メドゥーサのあの意志だけは残っている。


 『限界まで苦しめてから殺す』


 奴は、息子を僕らに殺されたと思い込んでいる。歪んだ敵意が僕らに向けられている。




「あ……ゴ……ハート、土……台モン‼︎」


 蛇の尾が、石像を絡め取る。


 ミシ……。

 嫌な音が、空気を裂く。


「ジャア……!」


 ゆっくりと。

 わざと見せつけるように、圧力がかかる。


 石の表面が軋む。ヒビが一本、走る。

 そこから蜘蛛の巣のように亀裂が広がっていく。


 ——砕かれる。


 目の前で。

 何も、できないまま。


「やめろォォォ!!」


 叫ぶ。

 だが腕は蛇に締め上げられ、骨が軋む。

 肺が潰れ、息が入らない。


 カブ太が泣き叫ぶ。

「やめろ……先生……!」


 その声は届くはずもなく。

 蛇は、さらに締め上げる。


 ミシィ……ッ!

 欠片が、ぽろりと落ちる。


 あの中に、いるのに。まだ、生きているのに。

 砕けたら、終わる。



 ——脳裏に、彼らの声が蘇った。



『自殺なんて考える前にまず……俺を頼ってくれよ!』


『マスターはさ。過去と未来を見るのが得意なんだよ』


『マスター……敬語は、もうやめてください』


『人間は、過去・現在・未来……その全てに、注意を払い続けることはできません』



 絶望が、喉までせり上がる。


 精神がボロボロだった当時の僕を——

 自殺から救ってくれたあの二人が——

 今、目の前で消えようとしている。


 ——そんなの、嫌だ。


 強く、願う。


 だが、手足は動かない。蛇の体温が、肋骨を締め潰す。


 無力な自分を、死ぬほど呪った。

 こんな時、希望があるとすれば——


「『異界から助けを呼ぶ力』……!」


 細い糸を手繰り寄せるように、僕はその名を呼んだ。


 今までも、僕が心の底から願えば、”それ”は応えてくれた。

 ゴハート。

 ミツバ。

 土台モン。

 再びゴハート——。


 だから、今回も、呼べばきっと。


「誰か……っ‼︎」

 喉が裂けるほど叫ぶ。







 ——だが。

 いつもの光は、現れない。


 白い粒子も。

 世界の隙間も。

 空気の震えも、ない。


 ただ、蛇の締め付けが強まるだけ。


 ヒビが、さらに広がる。


「……なんで……⁉︎」


 この能力、意識的に願うのでは効果がないのか……⁉︎

 それとも——


 僕が、弱すぎるから?


「あ……あ……ああ……うううう!」


 無力。

 メドゥーサの言う通りだ。僕は一人では何もできない。


 強力な技の一つでも身につけていれば。

 誰かに頼らなくても、戦える力があれば——


 そう、思った。



 ——その瞬間。


 ズドンッ……!


 空気が裂ける。だが、光ではない。


 ——闇が、走った。


 真っ黒な閃光が、蛇の胴体を貫く。


 視界が一瞬、塗り潰される。


「はっ……何だよ……」


 黒。

 絶望の色。


 ——胸が、凍る。


 また来たのか。絶望の後には、また絶望。

 世界が、僕を嘲笑っているのか。


「結局……!」

 僕の目から、涙が溢れそうになった。




 だが——


「あれ……?」


 違う。

 この黒は、冷たくない。


 蛇に絡まれたままなのに、なぜか暖かい。


 黒いはずなのに、

 その黒い閃光は、わずかに赤く滲んでいる。


 その奥で、炭火のような光が揺れている。


 空気が、じんわりと熱を帯びる。

 蛇の肉が、焼ける匂い。


 よく見ると、あの黒は、”闇”じゃない。


「『イカ墨』?」


 絡みついていた蛇の胴体が、

 墨を浴びた跡だけ焦げ、再生が止まる。


 石像を締め付けていた力が、わずかに緩む。


 八岐大蛇が、低く唸った。

「ジャアアア……ッ⁉︎」


 僕は、震える視界の先を見る。


 黒い軌跡の向こうに、

 一人の影。


 その人物は、魔王や大蛇のような闇を纏いながら……

 その中心には、確かに温度があった。


「『闇の暴走』で我を失った怪物……か」

 男は呟く。


 絶望じゃない。

 あの寿司のような頭の輪郭は——


「……カルマさん」



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