犠牲と暴走
【前回の登場人物】
「ギザン・トライアングル」
(種族)ドリル・スシ
(年齢)42
(能力)構造を見極め、回転させる
(概要)約三千年前の英雄。石化した姿がドドリ学園に残されてきた。
瓦礫の中から、魔王が立ち上がる。
砕けた外殻の隙間から、黒い光が脈動している。
その目が、ゆっくりと動いた。
——村人たちへ。
「…………」
魔王の口は、動いていない。
だが……村人たちの身体が一斉に反転する。
ずらりと、前へ並ぶ。
老人も、子どもも、若者も。
無表情のまま。
「盾……に」
カブ太が震える。
魔王の黒い波動が、村人たちの背に糸のように絡みつく。
——洗脳が、再び……!
ギザンは目を細める。
「なるほど、心を操る術か」
「そうです。僕らはあれに苦しめられて……」
魔王が一歩踏み出す。村人たちも同時に歩く。
完全な肉壁。
「どうします?」
メドゥーサが嗤う。
「英雄様なら、民を巻き込むのは躊躇うでしょう?」
静寂。
僕らは怒りの目でメドゥーサを見る。
それはギザンも同様……と、思っていた。
彼がメドゥーサの方を見たのは一瞬だけ。
——ギザンは、迷わなかった。
「戦場に立つ者は、覚悟を負う」
彼の腕が、上がる。
「操られし民であろうとも」
——まさか。
僕の背筋が凍った。
「待って——」
だが、遅い。
螺旋が、圧縮される。空気が一点へ。
「王は、情で刃を鈍らせぬ」
ドン——ッ‼︎
衝撃波が一直線に走る。
村人たちを、貫通。想定外の事態に驚くメドゥーサ。
そして、衝撃波は……背後の魔王へ到達。
石片と血が舞った。
「あ、ああ……」
一瞬、僕の時間が止まった。
魔王の近くに配置されていた数人の村人たち。
彼らの身体が、糸を切られたように崩れ落ちる。
「英雄様……?」
モグドンさんも、カブ太も、呆然としていた。
だが、魔王の胸部も、完全に穿たれている。
真っ黒な心臓が露出。
まだ死んではいないようだが——
ギザンの目が鋭く光る。
「終いだ」
ドン——ッ‼︎
第二撃。
心臓へ直撃。
魔王の身体が内側から砕ける。
黒い波動が、霧散する。
——再び、静寂。
風が吹く。
校庭には、倒れた村人たち。
二撃目により、さらにその数は増えていた。
誰も、動かない。
カブ太の声が、掠れる。
「勝った……のか?」
いや……喜ばしい状況ではない。
僕の視界は揺れ……足が勝手に動く。
倒れた子どもの肩を掴む。
「……起きて!」
だが、反応はない。
——血が、掌につく。
「……なんで」
振り返る。
ギザンはその場に、静かに立っていた。
「最善であった」
その言葉が、胸を刺す。
どこが、最善だよ——!
「これが『覚悟を示せ』ってことですか⁉︎」
叫びが、校庭に響く。
「失ってでも、倒す覚悟⁉︎ 馬鹿馬鹿しい!」
だが、ギザンの目は揺れない。
「王とは、決断する者」
低い声だった。
「多数を救うため、少数を切る」
「これは少数じゃない!」
僕の声が震える。
ざっと数えて……三十人ほど。
しかも、今回死んだのは悪人ではなく……何も知らない田舎村の人達。
ギザンは一歩近づく。
「ならば、問う。汝は、あの魔物を止められたか」
「う……」
言葉が詰まる。
僕らの力では、止められなかった。
——現実が、胸を締める。
「情は尊い……。だが、情のみで国は守れぬ」
「…………」
沈黙。
答えに迷っていた——
その時だった。
「「あああああああああああああああああ‼︎‼︎」」
絶叫。
メドゥーサのものだ。
膝をつき、砕けた魔王の残骸を抱えている。
「ダクト……ダクト……!」
彼女の指が血で濡れる。
そして、僕らに向け、目が見開かれる。
「返しなさい……返しなさいよ……!」
空気が、変わる。
大地が、震える。
彼女の背から、蠢く蛇のような、禍々しいオーラが溢れ出ている。
髪が……暴れ狂う蛇たちが、次々と巨大に変わる。
「わたくしの、愛する息子を……!」
「いや……元々亡くなってたんだろ⁉︎ それをお前が複製——」
僕は咄嗟にそう叫んだ。
——クローンは所詮、偽物。
いくら遺伝子が一致していようと、ただ命令を聞くだけの命は……
「「……っ黙れ‼︎」」
再び、絶叫。
——僕の言葉は、遮られる。
メドゥーサの丁寧な言葉遣いが、初めて崩れた。
「『闇の暴走』発動」
奴は低く重い声でそう呟いた。
その次の瞬間——
ビカッ‼︎
奴の身体が膨張する。
洒落た衣服が裂けていく。
不気味にも美しかった、人の形が崩れる。
骨が軋む音。
地面を突き破り、巨大な影が立ち上がる。
——八つの首。
巨大な悍ましい八つの蛇から、八つの咆哮。
校舎よりも高い影。
「許さない……許さない……許さない……!」
怒りと狂気が、校庭を覆う。
ギザンが初めて、眉を動かした。
「これは……『八岐大蛇』か」
僕は、倒れた村人たちの中で拳を握る。
——犠牲を出してなお、絶望?
八つの首が一斉にこちらを向く。
夜のような影が落ちた。
「ふフフ……アナタ……まタ、私を愛シて……クれた……」
「ジャアアアアアア‼︎‼︎」
大蛇が吠える。
奴の頭は、もう破壊しか考えてなかった。
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