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寿司は回転し、穿孔する

 

 ドリルが、石像へと突き進んだ。

 彼のドリルの大きさは、とても石化を解除するものではない。


 ——石像そのものを、破壊してしまいそうだ。


 ギュイイイイイイン‼︎

 衝撃が校庭を震わせた。


「壊れるだけですよ」

 メドゥーサは、引きつった笑いを浮かべる。


 お願いします……!

 僕は、ただ願うことしかできなかった。


 世界は、これまで僕に絶望ばかり与えてきたから。


 ——石片が飛び散る。

 白い粉塵が舞う。


 だが、

 次の瞬間——


 キン、と。

 金属を弾いたような、硬質な音が鳴った。


 モグドンさんのドリルの回転が、少しずつ鈍る。


「……?」

 彼の目が見開く。


 石像の表面に、一本の亀裂。

 だがそれは、外側から与えられた割れ方ではない。


 内側から、押し返すように。


「これは⁉︎」


 ピシ。

 ピシ、ピシピシッ!


 蜘蛛の巣状に走る亀裂。

 石の隙間から、光が漏れ出す。


「……馬鹿な。地中班長のドリルは、出来損ないのはず——」

 初めて、メドゥーサの声が揺れた。


「それに、私の石化は外からの衝撃でしか——!」


 言い終わる前に。

 ガギィン‼︎


 ドリルが弾かれた。

 モグドンさんも、吹き飛ばされる。


 同時に。

 石像の胸部が、内側から爆ぜた。


 石片が四方に弾け飛び——


 粉塵の中、人影が立っている。


「英雄……?」

 僕は期待を込めてそう呟いた。

 やっと……やっとだ。諦めなければ、報われるんだ。


 粉塵の中から現れた男は、ゆっくりと周囲を見渡した。


 その足取りは重くない。

 むしろ、地面が彼を支えているかのようだった。


「……長い、眠りだった」


 低く、乾いた声。

 粉塵が晴れ、彼の容姿が太陽に照らされ、色づく。


 鋭い三角の紋章が胸元に輝く——ドリル族だ。


「内側からも、核を見抜き、対策することくらいできるのだ」


 その瞳が、メドゥーサを捉える。

 ——空気が変わる。


「名を聞こう。石化の魔女よ」

 静かだが、揺るぎない声音。


 メドゥーサの口元から、完全に笑みが消える。

 彼女は初めて、一歩下がった。


 校庭の中央に立つ男。

 それは飾りの石像ではない。知らない人でもない。


 ——目の前に、生きている。


 男は、わずかに顎を上げる。


「我の名は『ギザン・トライアングル』。ドリル族にして、寿司を極めし者なり」


 ドリル族——!

 石化を、解くことができる希望‼︎


「〜〜……っし!」

 僕らが歓喜の声を上げると、カブ太も顔を上げた。

 先程まで塞ぎ込んでいたが、雰囲気が変わったことで気持ちが切り替わったのだ。


「カビ助、あの人は……?」


「ああ、英雄像を壊したら中から出てきた『トライアングル』さんだよ!」


「トライアングル⁉︎」


 え? 知ってんの⁉︎

 ……まあ、そうか。授業を受けてない僕の方がおかしいんだ。


「確か——三千年前に栄えた、砂漠の王家だ。あの『ピラミッド』を作らせたとか何とか……」


 三千年前……⁉︎

 数十年や、数百年どころじゃなかったようだ。


 カブ太の解説に、ギザンは微笑む。

「それは、我の九代前の王の話だな。なるほど、石化からは其れ程の年月が——」


 ギザンが話を続けようとした時、モグドンさんが前に出た。


「英雄殿、話は後ほどお聞きします。今は——」


「ああ、そうであったな……。若きドリルの者よ、今は汝らを助けよう」


「——っ!」

 メドゥーサは、まずい雰囲気を感じ取ったのか、背を向けた。


「忌々しい石化能力者め!」

 ギザンはその背に狙いを定める。


 ——次の瞬間。


 校庭の砂利が、彼の足元へ吸い寄せられる。


 渦。螺旋。

 砂が巻き上がり、腕に絡みつく。


 それはただの土ではない。

 精密に制御された、回転。


「馬鹿な……ドリルを使わずに回転を……?」

 モグドンさんが息を呑む。


「寿司を極めることで、見える事実もある」

 ギザンは静かに言った。


「『穿つ』とは、破壊ではなく——」


 次の瞬間。

 地面が沈んだ。


 いや、沈んだように見えた。

 メドゥーサの足元が、盛り上がる。


 その地面から、極小の螺旋圧が奴を目掛けて集中する。


「構造を見極め、操ることなり」


 ドンッ‼︎

 遅れて衝撃が炸裂。


 空気が爆ぜる——


 だが。

 横へ弾き飛ばされたのは、魔王の巨体だった。


「庇ったのか……!」


 校舎の壁に叩きつけられ、石材が砕ける。

 ガシャァンッ‼︎

 轟音。


 村人たちの動きが止まる。洗脳が解けたのか?

 いや、具体的な指示がなくなり……虚になっただけか。


 土煙から出てきた、メドゥーサの瞳が、大きく見開かれている。

「……あり得ない!」


 ギザンは、一歩も動いていない。

 ただ腕を下ろしただけ。


 僕らは、その場に棒立ちしたまま見上げていた。


 胸の奥が熱い。

 震えているのは、恐怖じゃない。


 ——希望だ。


 ギザンが、こちらを一瞥する。

「若き者よ」


「あ……僕、ですか?」


「汝が我を呼び覚ましたのだろう?」


 その視線は、責めるものではない。

 確かめるような眼差し。


「ならば、その覚悟——示してみせよ」




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