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制御された感情

 土煙が視界を覆う。

 叫び声が、次々と途切れていく。


 村人たちが押し寄せる。

 さっきまで暴れていたはずの人々が、無表情のまま刃を振るう。


「左だ、マスター!」


 ゴハートの声。


 反射的に身を引く。

 鍬が頬をかすめる。本来は、人を傷つける道具じゃないのに……!


「許せない……、けど」


 振り返りざまに魔王に狙いを定めるが、それは別の村人に防がれる。

 ……倒しても倒しても、次が来る。


 統率されている。

 先程までと違って、無駄がない。


 ーー魔王の圧が、空間そのものを重くしていた。


 土台モンが地面を隆起させ、壁を作る。

「マスター……一度引きましょう!」


 だが、壁はすぐに崩される。

 ピクコノさんのシャベルが、岩を粉砕する。……核を見抜く、ドリル族の力。


「くそ……!」


 カブ太が飛び出すが、村人の波に押し戻される。


「どうすれば……?」


 そんな時……

 ゴハートが宙に浮かび、洗脳の流れを読んでくれた!


「隊列に隙が出た……! あそこだ!」


 彼はメドゥーサを指す。


 よし、希望が見えた……

 その瞬間。


 メドゥーサの視線が、ゆっくりと動いた。


「やはり、耳障りな幽霊さんね」


 空気が、凍る。

 ……禍々しい光。


「ゴハート、避け——」


 間に合わない。

 ……石の色が、彼の足元から這い上がった……。


「マスター! まだ……」


 それが最後の声だった。

 ゴハートの体が、静止する。霊体も、関係ないのか。


 ……石像。


 指先が、何かを掴もうとしたまま。


「ゴハートォ……!」


 胸が、締め付けられる。


 ——守れなかった。

 まただ。


 魔王の波が、さらに広がる。


「では、次」

 メドゥーサが、微笑む。


 視線が土台モンへ。


「あ……やめろ!」


 走る。

 だが、村人が立ちはだかる。


 刃が腕を裂く。

 血。


 振り払う。

 ……届かない。


 土台モンが叫ぶ。


「マスター、信じてます!」


 石化光線。

 ……彼の体も、ゆっくりと灰色に変わる。


 腕を広げたまま、固まる。


 音が消える。

 呼吸が、浅くなる。


「守れなかった……」


 膝をつく。

 視界が、揺れる。


「……強すぎる」

 モグドンさんが、低く呟いた。


 あの陽気な人までが……絶望の声を出した。


 そんな中でも、魔王は無言のまま圧力を放ち続ける。

 メドゥーサはただ、笑い続ける。

 ピクコノさんの一撃が、豊かだった村の地面を砕く。




 カブ太は、動けずに……立ち尽くしていた。


「どうしてだよ……」

 彼の視線は、メドゥーサから離れない。


「先生……なんで……」


 メドゥーサは、穏やかに首を傾げる。

「先生?」


 くすり、と笑う。

「私はメディではない。"存在しない"と言ったでしょう?」


 その声は冷たい。


「メディは感情を移植された"新型複製体"。清らかな女を連れ去り、その感情をボスが『私の複製体』に搭載し、この村に潜伏させていただけ」


「なんだと……⁉︎」

 見た目も身体も美しい、完璧な女性。

 自然と周囲に溶け込み、情報を記憶させるには最適というわけか。


 ……それで、あの時、学園の情報を、正確に。

 ……それで、村の住人数、地形の優位、ドリル族の所在を!

 

「もう、用済みですからね。先日情報を調達するため、素体である私に融合して頂きました」


 ということは、先生は何も知らずに利用されていただけ……⁉︎

 僕らに疑われた時点で、"完璧"ではなくなったから、用済み……?



 ——全ては、探検隊を罠に嵌めるため。



「だから、もう先生は"存在しない"と……⁉︎」


 カブ太の瞳が、空になる。

「——嘘だ」


「いいえ。優しさも、笑顔も、叱責も。全てはデータ」


 一歩、近づく。


「あなた含め、住人達が恋慕するのも、油断を誘うべく設計されたもの」


 そして、彼女の口角が一瞬、吊り上がる。

「メディを装い、誘惑し、連れ込み、この子に洗脳をかけさせる……。あの瞬間は格別でした……!」


 ——やはり、外道。

 先生の正体は悪人じゃない。彼女の優しさは本物だった……そこまでは良い。

 でも……その蜜の先に、こんな恐ろしい蛇が住んでいたなんて……!


 この事実を受け、カブ太の呼吸が止まる。

「そんな……」


 僕は歯を食いしばる。


「——黙れっ!」


「事実です」

 彼女は微笑みを絶やさない。


「感情は、移植できる。再現できる。制御できる」


 石化したゴハートと土台モンを、ちらりと見る。


「今の貴方達のように」


 ……胸の奥が、焼ける。


 守れなかった。

 見抜けなかった。

 勝てると、思っていた。


 何もかも、遅い。


「終わりですね」


 その声が、やけに澄んで聞こえた。


 遠くのモグドンさんが、ドリルを地面に落とす。


 キィン……。

 金属音が、虚しく響く。


「……カビ助」

 力の抜けた声。


「救えないのに、砕けない力なら……俺ァ……」


 だが、言葉が続かない。






 ——カブ太は、ただ呆然と立っている。


「先生は……本物だったんだよな……?」


 その問いに、答えはない……。

 故に、誰も答えない。


 メドゥーサは微笑んだまま。


 村人たちが、包囲を狭める。

 魔王が、一歩踏み出す。


 膝が、震える。


 でも。

 心の奥で、何かがまだ折れていない。


 ——まだ、終わらせてはいけない。


 そう思ってしまう自分がいる。


『マスター! まだ……』


『マスター、信じてます!』


 ……確かに、絶望はした。

 それは仕方ない感情……だけど。


 僕を信じて着いて来てくれた、彼らのために。


「いつまでも、落ち込んではいられない……!」





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