始まりの村。魔王襲来。
【前回の登場人物】
「メドゥーサ・レイブン」
(種族)ダーク
(年齢)35
(能力)石化光線
(概要)「ダークスター団」の幹部。メディ先生と酷似している。
「魔王」
(種族)ダーク
(年齢)?
(能力)?
(概要)ドドリ村を襲撃した怪物。
「ディグ・ピクコノ」
(種族)ドリル
(年齢)50
(能力)弱点分析
(概要)ドドリ村の農家で、旅の元保護者。今は敵側に堕ちている…?
広場の空気は、張り詰めていた。
洗脳された村人たちが、ぎこちない足取りでこちらに向かってくる。目は虚ろで、呼吸は荒い。誰一人として、こちらを攻撃することに躊躇いがなく、痛々しい。
「……あ、あのさ」
震えた声で、カブ太が呟く。
「カビ助……あの人……」
彼の視線の先。
魔王の隣に立つ、あの女。悪の組織の幹部の、メドゥーサ。
「……メディ先生に、そっくりじゃないか?」
誰も、すぐには否定できなかった。
白衣を思わせるシルエット。背筋の伸びた立ち姿。
そして、あの……人の心を緩ませる、丁寧すぎる微笑み。
「…………」
胸の奥が、嫌な音を立てる。
カブ太は先生に恋をしている。こんな時なんと答えればいいのだろうか。
「似てる、じゃない。同一人物だろ? ……どう見ても」
ゴハートが低く言った。
ああ、そんな正直に!
ゴハートは病みへの対処は上手くとも、恋心は分からないようだ。
カブ太の反応は……?
大丈夫だろうか。僕が彼の立場なら……
「おい! 答えろよ、カビ助⁉︎」
ーーあ。ゴハートの存在を感じられていないのか。
「ええと……どうしたものか……」
僕はゴハートの代わりに、必死で言葉を探す……
その瞬間。
「……来ます!」
土台モンの声と同時に、村人の一人が走り出した。
「っ!」
咄嗟に構えたが、足が動かない。殴れない。
相手は――よく挨拶をくれるお爺さんだ。
「……どうしましょうか」
土台モンが歯噛みする。
だがーー次の瞬間。
ドォン!
地面が、鳴った。
「下がれ!!」
モグドンさんが、前に出ていた。
村人達の前に穴を掘り進めていたのか! いつの間に⁉︎
彼の動きは、速くて、正確で、迷いがなかった。
ーー腕で村人を受け止め、地面に転がす。
致命傷にならないよう、細心の注意を払って。
「気を抜くな! 意識を失わせるだけでいい! 下手に当てるな!」
簡単に言ってくれる。
でも、それがどれだけ難しいか……!
殴れば、血が出るかもしれない。突き飛ばせば、骨を折るかもしれない。
――それでも、やらなきゃいけない。
「っ……ごめんなさい……!」
僕は歯を食いしばり、襲いかかってきた村人の腕を掴んで投げた。
すると、彼は地面に倒れ、動かなくなる。
ーー胸が、ひどく痛んだ。
そんな時……また一人の村人が突進してきた。
「まずい……っ!」
僕は痛みを覚悟した……が。
「『隆起』‼︎」
ボコっ!
目の前の地面が突然盛り上がり、その村人は跳ね飛ばされた。
土台モンの能力か。
「大丈夫ですか。マスター!」
「ありがとう……!」
「気を抜くなって言われたろ。ほら、モグドンさんを見ろよ」
ゴハートの指摘。
僕は視線を動かす。
村人の足元に、彼の掘った巨大な穴が現れる。
――ズゥンッ!
地面が突然沈み、村人は宙を舞う。
「大丈夫か……?」
だが、勢いは殺され、彼らは受け身を取るように転がるだけだ。
「傷つけてねぇ。それにこれなら、しばらく上がって来れない」
モグドンさんは、低く言う。
その時……別の村人が、彼の背後から殴りかかる。
「あ……危ないです!」
だが、彼は振り返らない。
肩を引き、肘で受け流し、体勢を崩したところを……地面に座らせる。
「探検隊じゃよくある話だ。『暴動は丁寧に止めろ』」
彼は、淡々と動き続ける。
その背中を、僕たちは食い入るように見ていた。
ーー強い。でも、丁寧だ。
迷いがないのに、冷酷じゃない。力の加減ができないと言っていたけど、それと丁寧は別なのか。
「これが、歴戦の対応……」
それを見ているだけで、心が少しずつ、定まっていく。
初めてのことに不安定な心で、決断するのは難しい。それでも村人たちは次々と襲いかかる。
――今は、手本が目の前にある。学ぶことができる。
「ふふふ……」
その時。
場違いなほど、穏やかな声が響いた。
「流石は地中班長。筋力のみで、制圧するとは……」
「メディ先生⁉︎」
カブ太がそう叫んだが、彼女は返事をしない。
違うんだ、カブ太……いや、違くはないけど……あいつはメドゥーサだ。
……先生じゃなく、悪人だ。
彼女は一切、戦闘に介入していない。高みの見物ってやつか……?
「許せない……」
だが魔王も、ピクコノさんも、村人たちも……何も話していない。
語れるのは、彼女だけだ。
「これは、クローンではなく『洗脳』か? まあ何でもいいが……彼らを解放しろ!」
モグドンさんが吐き捨てる。
だが彼女は気にした様子もなく、ゆっくりと手を胸に当てた。
「誤解なさらないでください。彼らを洗脳したのは、わたくしではありません……」
ーー何だと?
まあ確かに、石化の力と洗脳の力は分野が違う。DR星の法則的にはあり得ない、か。
だとしたら……
彼女の隣で、魔王が僅かに動く。
その動きは、命令を待つ獣のようだった。
「この子の能力です」
メドゥーサは、優しく魔王を見る。
「……この子、だと?」
ゴハートが低く呟くと、彼女は微笑む。
「ええ。可愛い可愛い私の子……」
あの魔王のように恐ろしい怪物が……メドゥーサの、息子…………?
「ああ、正確にはーー」
戸惑う僕らに構うことなく、彼女は続ける。
「死んだ息子の、クローンですね」
……空気が、凍った。
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