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初めての愛情

【前回の登場人物】

「ミツバ」

(種族)フルーティア

(年齢)13

(能力)クラブアップルの生成

(概要)カビ助の気持ちが増幅して召喚された女の子。

********************************************



「ま、すたぁ? 起きて? 二人きりだよ?」

 まぶたの裏に、柔らかな声が触れた。


 ……またか。

 最近、本当に気絶が多い。


 旅に危険はつきものだと言うけど、これはさすがに酷すぎる。


 石化されて終わりかと思えば復活し、

 敵のアジトに連れてこられ、

 ここから反撃の流れかと思えば——謎の少女に攫われる。


 ——展開が、急すぎる。


 探検隊に入ったはずなのに。

 本来の目的——"父さんの遺骨探し"から、遠ざかっている気がする。


「ミツバ……君は一体、僕をどうしたいの?」


 身体を起こしながら尋ねる。


 ここは小さな石室。

 牢獄の一角のようだが、先ほどの大部屋とは明らかに違う。


 二人きり。見張りもいない。


「そもそも……なんで僕のことをそこまで——」

 僕は呆れたように言った。


 彼女が"使い魔"とはいえ、僕を無断で攫った。

 ——疑いは、消えない。


 ミツバは笑う。

「そんなの、決まってるじゃん」


 一歩、近づく。


「あたしは情報屋の一族。あなたのことを、遠くから、ずっと見てて……それで、大好きになったから召喚されることを望んだの」


 その瞳は冗談じゃない。

 彼女は本気で、僕のことを見てきたようだ。


「ゴっさんが“仲間”なら、あたしは“恋人”」


「え……ええ……?」

 正直、嬉しくないと言えば嘘になる。


 でも。やはり、信じられない。


「僕なんかの、どこがいいんだよ」

 自然と口から出た。


「僕なんかより、隊長のほうが、ずっとすごいよ。強いし、優しいし」


 照れ隠しのつもりは……ない。

 僕は本心でそう言った——次の瞬間。


 ぎゅっ、と抱きしめられた。


「え……?」


「そんなことない」

 ミツバの声が、優しいまま、真剣になる。


「マスターは、何もなくても頑張ってきた。絶望の中で、ちゃんと光を探してきた」


「え……」

 胸が熱くなる。

 そんな風に言われたのは、初めてだった。


「それに比べて、あの隊長は……ずるい奴なんだよ」


 だが、その言葉で空気が変わる。


 僕は反射的に言い返す。

「隊長の悪口はやめて。僕の憧れの人だから」


 自分でも驚くほど、はっきりと。

 

 先程まで顔すら合わせれず、腑抜け顔だった。

 そんな僕が急に真剣になったものだから、ミツバも驚いて真面目な顔になる。


「……マスター」

 そして、静かに言った。


「前に『力が欲しい』って願ったよね」


 ——あの時。

 隊長が斬られた瞬間のことか。


「……うん」


「あたしはそれを提供できる」


 そういえば、違和感があった。

 あの、博士すら出られない頑丈な牢獄。そこからこんな場所まで、彼女はどうやって移動したんだ……?


 全部、彼女が絡んでいるのか?


「まさか、『力』って……⁉︎」


 ミツバは微笑む。

「そう、()()だよ」


 その一言が、やけに重い。


「どんな猛者も弱点を突けば倒せる。どんな牢獄も、仕組みを知れば抜けられる。どんな聖人も、本名を知れば——」


 ゴクリ、と唾を呑む。

 聖人……? 隊長のことか?


「裏が見える」


 その重い言葉に、僕の背筋が冷えた。


 ミツバはニコリと微笑み、語りかける。

「知りたい?」


 喉が乾く。

 もちろん彼女を完全に信じているわけではないが。


 気になって仕方がない。

 僕の憧れは、本当に正しい存在であるのか。


 ……裏の顔?

 隊長は、僕を騙していたっていうのか?


「教えて、ミツバ。隊長のことは……全て知りたいんだ」


「もちろんだよ、マスター」




◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎




 ミツバは語った。


 隊長こと……『ジェム・カブリ』の過去を。


 四年前のある日、「伝説の一族」と出会って旅に出たこと。「ダーク族」になって仲間に迷惑をかけたこと。大半が仲間の力による功績なのに“英雄”のように扱われたこと。

 三年前、地球に旅立ったこと。好意を抱いていた女子の気持ちに全く気づかず傷つけたこと。

 二年前、力を使い果たした「ドラゴン族」の弱みに漬け込んで力を得たこと。石になった「伝説の一族」を見捨てたこと。

 一年前、本名を誰にも言わずに「探検隊」の隊長に成り上がったこと。


 そして……何より。


「彼は、あなたのお父さんの弟子だった」


「はっ——」

 呼吸が止まる。

「なのに、父さんを事件に巻き込んで……見殺しにした?」


 頭が真っ白になる。


「これが、あなたの尊敬する人物の真実。疑うかもしれないけど、“あたしの一族”の情報は正確だよ」


 信じたくない。

 でも……初対面で僕の名前を知っていたこと。あの不自然なほどの配慮。謎の種族と、仮面。若くして城を借りれる立場。


 ——点が、線になる。

 確かに、何らかの闇があっても、不思議ではなかった。


「うん……信じるよ」


 声が震える。

 そんな僕に、ミツバがそっと顔を寄せる。


「じゃあ、一つだけお願い」


 顎をすくわれる。

 これは……まさか……!

 

 ——唇が重なる。

 甘い果実の香りが一瞬で全身を回った。


「ん…………っ!?」

 一瞬、思考が止まる。


「……あたしのこと、『愛してる』って言って?」


「え……?」


 僕に恋愛は一生無縁だと思っていた。


 しかもこんな他種族の、少し頭のねじの外れた子が、初めての相手だなんて——

 あの頃の僕に言っても、信じないだろう。


 だが不思議と悪い気はしなかった。

 今まで、家族を失ってから、誰にも認められずに、一人ぼっちで生きてきた。


 最近になってからようやく、僕のことを認めてくれる人達と出会えた。

 だけどそれは“友情”や“信頼”というものであって“愛情”ではない。それに「探検隊」との関係は、取り繕われたものだと知った。

 物心つく前に母親を失った僕がずっと求めていたものは、異性からの愛情……? いや、甘えられる相手だったのかもしれない。


 ——無条件の“愛”。


「……う、ん」

 声がかすれる。


「『愛してる』」


 その言葉を口にした瞬間。

 ——胸の奥の空洞が、埋まった気がした。



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