初めての愛情
【前回の登場人物】
「ミツバ」
(種族)フルーティア
(年齢)13
(能力)クラブアップルの生成
(概要)カビ助の気持ちが増幅して召喚された女の子。
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「ま、すたぁ? 起きて? 二人きりだよ?」
まぶたの裏に、柔らかな声が触れた。
……またか。
最近、本当に気絶が多い。
旅に危険はつきものだと言うけど、これはさすがに酷すぎる。
石化されて終わりかと思えば復活し、
敵のアジトに連れてこられ、
ここから反撃の流れかと思えば——謎の少女に攫われる。
——展開が、急すぎる。
探検隊に入ったはずなのに。
本来の目的——"父さんの遺骨探し"から、遠ざかっている気がする。
「ミツバ……君は一体、僕をどうしたいの?」
身体を起こしながら尋ねる。
ここは小さな石室。
牢獄の一角のようだが、先ほどの大部屋とは明らかに違う。
二人きり。見張りもいない。
「そもそも……なんで僕のことをそこまで——」
僕は呆れたように言った。
彼女が"使い魔"とはいえ、僕を無断で攫った。
——疑いは、消えない。
ミツバは笑う。
「そんなの、決まってるじゃん」
一歩、近づく。
「あたしは情報屋の一族。あなたのことを、遠くから、ずっと見てて……それで、大好きになったから召喚されることを望んだの」
その瞳は冗談じゃない。
彼女は本気で、僕のことを見てきたようだ。
「ゴっさんが“仲間”なら、あたしは“恋人”」
「え……ええ……?」
正直、嬉しくないと言えば嘘になる。
でも。やはり、信じられない。
「僕なんかの、どこがいいんだよ」
自然と口から出た。
「僕なんかより、隊長のほうが、ずっとすごいよ。強いし、優しいし」
照れ隠しのつもりは……ない。
僕は本心でそう言った——次の瞬間。
ぎゅっ、と抱きしめられた。
「え……?」
「そんなことない」
ミツバの声が、優しいまま、真剣になる。
「マスターは、何もなくても頑張ってきた。絶望の中で、ちゃんと光を探してきた」
「え……」
胸が熱くなる。
そんな風に言われたのは、初めてだった。
「それに比べて、あの隊長は……ずるい奴なんだよ」
だが、その言葉で空気が変わる。
僕は反射的に言い返す。
「隊長の悪口はやめて。僕の憧れの人だから」
自分でも驚くほど、はっきりと。
先程まで顔すら合わせれず、腑抜け顔だった。
そんな僕が急に真剣になったものだから、ミツバも驚いて真面目な顔になる。
「……マスター」
そして、静かに言った。
「前に『力が欲しい』って願ったよね」
——あの時。
隊長が斬られた瞬間のことか。
「……うん」
「あたしはそれを提供できる」
そういえば、違和感があった。
あの、博士すら出られない頑丈な牢獄。そこからこんな場所まで、彼女はどうやって移動したんだ……?
全部、彼女が絡んでいるのか?
「まさか、『力』って……⁉︎」
ミツバは微笑む。
「そう、情報だよ」
その一言が、やけに重い。
「どんな猛者も弱点を突けば倒せる。どんな牢獄も、仕組みを知れば抜けられる。どんな聖人も、本名を知れば——」
ゴクリ、と唾を呑む。
聖人……? 隊長のことか?
「裏が見える」
その重い言葉に、僕の背筋が冷えた。
ミツバはニコリと微笑み、語りかける。
「知りたい?」
喉が乾く。
もちろん彼女を完全に信じているわけではないが。
気になって仕方がない。
僕の憧れは、本当に正しい存在であるのか。
……裏の顔?
隊長は、僕を騙していたっていうのか?
「教えて、ミツバ。隊長のことは……全て知りたいんだ」
「もちろんだよ、マスター」
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ミツバは語った。
隊長こと……『ジェム・カブリ』の過去を。
四年前のある日、「伝説の一族」と出会って旅に出たこと。「ダーク族」になって仲間に迷惑をかけたこと。大半が仲間の力による功績なのに“英雄”のように扱われたこと。
三年前、地球に旅立ったこと。好意を抱いていた女子の気持ちに全く気づかず傷つけたこと。
二年前、力を使い果たした「ドラゴン族」の弱みに漬け込んで力を得たこと。石になった「伝説の一族」を見捨てたこと。
一年前、本名を誰にも言わずに「探検隊」の隊長に成り上がったこと。
そして……何より。
「彼は、あなたのお父さんの弟子だった」
「はっ——」
呼吸が止まる。
「なのに、父さんを事件に巻き込んで……見殺しにした?」
頭が真っ白になる。
「これが、あなたの尊敬する人物の真実。疑うかもしれないけど、“あたしの一族”の情報は正確だよ」
信じたくない。
でも……初対面で僕の名前を知っていたこと。あの不自然なほどの配慮。謎の種族と、仮面。若くして城を借りれる立場。
——点が、線になる。
確かに、何らかの闇があっても、不思議ではなかった。
「うん……信じるよ」
声が震える。
そんな僕に、ミツバがそっと顔を寄せる。
「じゃあ、一つだけお願い」
顎をすくわれる。
これは……まさか……!
——唇が重なる。
甘い果実の香りが一瞬で全身を回った。
「ん…………っ!?」
一瞬、思考が止まる。
「……あたしのこと、『愛してる』って言って?」
「え……?」
僕に恋愛は一生無縁だと思っていた。
しかもこんな他種族の、少し頭のねじの外れた子が、初めての相手だなんて——
あの頃の僕に言っても、信じないだろう。
だが不思議と悪い気はしなかった。
今まで、家族を失ってから、誰にも認められずに、一人ぼっちで生きてきた。
最近になってからようやく、僕のことを認めてくれる人達と出会えた。
だけどそれは“友情”や“信頼”というものであって“愛情”ではない。それに「探検隊」との関係は、取り繕われたものだと知った。
物心つく前に母親を失った僕がずっと求めていたものは、異性からの愛情……? いや、甘えられる相手だったのかもしれない。
——無条件の“愛”。
「……う、ん」
声がかすれる。
「『愛してる』」
その言葉を口にした瞬間。
——胸の奥の空洞が、埋まった気がした。




