永遠の眠り
僕の投げたダガーは、ジャックの心臓を貫いた。
小さな可愛らしい熊から吹き出される赤い液体。だが僕は強い怒りに呑まれているからなのか、その光景をおぞましいと思えなかった。
「自業、自得だな」
これは、かつてのゴハートの台詞だ。はは……一度言ってみたかったんだよね。
ドリあえず、これで厄介な空間転移持ちの敵幹部を倒したわけだ。これはもう「一人前の探検家」でいいんじゃないか。
「マスター……お義父様が……っ!」
ミツバが僕の背後にいる、お父さんのクローンを指差した。
読み通り、止まってくれたのか⁉︎
「…………」
目を閉じて身体の動きが止まっている。立ったまま寝ているみたいだ。
「良かった……。あのままだと、確実に殺されて………………あ?」
バタッ。
僕の視界は突然90度回転した。体の限界……ってやつか。
まあ……憎きジャックは殺したことで、増援は来ない。
このまま父と彼女と共に……一旦眠りにつくのも悪くはない、か。
「じゃあミツバ……おやすみ…………」
僕は目を閉じ、そのまま仰向けの態勢をとる。何度も意識を失った日に、皮肉にも僕は、自ら視界を閉じることとなった。いやぁ……壮絶な一日だった。ようやく楽になれる……!
そうして眠りに着く直前、ミツバの声が聞こえた。
……なぁに? おやすみのキスでもするの? むにゃむにゃ。
だが……聞こえてきた台詞はとても「彼女」のものとは思えないものだった。
「そのまま永遠の眠りにつくんだな。殺せ、おっ3!」
ドガっ!
隣で感じていた父の温もりは、突如として冷酷な殴打へと変わる。彼の拳は無防備な僕の腹にぶつかった。
は………………?
「ゲホっ!!!! ぐ…………おえ……ガハッ!」
吐き出た液体は痰ではなく、血だ。
やめて、お父さん。なんで? ミツバ、敵だったの? あの言葉は嘘だったの?
言いたい言葉はいくらでもある。だが痛みで喋ることなどできない。
今の僕には、塞ぎ込む態勢をとって自分の身を少しでも守ることだけだった。
「ギャハハ! 油断したな。あの程度でやられる程、幹部ってのは甘くねぇよ!」
この台詞……ジャックのようだ。あの時死んだはず……? いや、違う。
この声は、子熊のものではなくミツバのものだ。
「ゲホっ、ゴホッ、カハっ! m……ばざが……⁉︎」
声がうまく出せない。塞ぎ込んでいるせいで目の前の光景も見えない。
僕が言いたいのは……こんな台詞じゃない。だが、目の前は……絶対に、見たくない。
僕の読みが正しければ……目の前には最悪の絶望があるはずだ……ううう!!
「ハハ……。敵に回すとウザかったがこの女……中々いい身体じゃねぇか。能力は使えねぇが……新たなオレの器として申し分ない」
ああ……! 耳も塞ぎたい。だがお父さんの暴行は止まらない。この態勢は崩せない。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!
身も、心も。病気などよりずっと。
絶望……希望……絶望……希望……その次はやっぱり、絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望!!
「マスター?笑 気分はどう?」
もう黙れよ。それ以上彼女を汚さないでくれ。
「ゲホっ、ゴホッ、カハっ! ケホっ、コホッ、ハっ!」
惨めでもなんでもいい。わざと咳をすることで、聴覚を紛らわせるんだ。
この後こいつが何を言うのか知らないが、どうせ碌なことではない。
どうせ……
「お前がさっき殺したのは…………純粋無垢な、未来ある子熊だぜ? 犯罪者さん」
これが、耳元で初めて囁かれた異性の声。
殺人はしないと誓っていた僕が初めて殺したのは、操られていただけの子供。
父さんとの久しぶりのやり取りは……一方的な暴力。
神様……本当にいるのなら……希望を僕に……
いや……駄目だな。どうせすぐに……塗り替えられる。だったら……
「この腐った世界に、絶望を。」
誰だこんな展開書いた奴。
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