混同する道筋
【前回の登場人物】
「みかん隊員」
(種族)フルーティア
(年齢)9
(能力)みかんの生成
(概要)りんご隊長の仲間。汚染により凶暴化してしまった。
「ピーチ兵長」
(種族)フルーティア
(年齢)10
(能力)桃の生成
(概要)りんご隊長の仲間。汚染により凶暴化してしまった。
*******************************************
「はぁ、はぁ……。どこだ、元凶……!」
ガスマスクの内側は、自分の荒い呼吸で曇っている。
吸うたびにゴムの匂いが鼻を刺し、吐くたびに視界が白く濁る。
それに、やはりと言うべきか。森はさっきまでの穏やかな緑ではなかった。
果実の甘い香りは、どこか酸っぱく腐った臭気へと変わり、木々の葉はわずかに黒ずんで見える。
霧は地面すれすれを這い、足元を覆い隠していた。
「早く見つけないと」
僕が無事に済まないのはもちろんだが——
りんご隊長の苦しそうな姿が、脳裏に焼きついている。
あの無鉄砲で、うるさくて、でも意外と律儀で仲間思いな子供が、仲間の姿をした“何か”に毒をかけられた。
こんな惨いことがあるか。
博士は三分と言ったけど——
その三分の間襲われない保証なんて、どこにもない。
僕の元凶探しの迅速さに、全てがかかっている。
「でも……どうしたもんかな……」
森の奥は静まり返っている。
さっきまでの喧騒が嘘のようだ。
——枝がきしむ音。
どこかで果実が落ちる、鈍い音。
人の気配はない。
「なんの手がかりもなく、人探しなんて……」
僕は頭部に光を集め、小さな灯りを生み出す。
白い光が、暗がりを淡く照らす。
——本当に、どうすればいい?
焦りが喉を締めつける。
そのとき、不意に、父さんが昔言っていたことを思い出した。
『道に迷った時はな、足跡を照らすといい』
いつだったか、迷子になった日。まだ小さかった僕の手を引きながら、笑って言った言葉。
『他人の足跡と混同してなければ、ちゃんと帰れるさ』
——他人の足跡と、混同。
その言葉が、胸の奥で小さく反響する。
でも、今の目的は“帰る”じゃないのに?
「あ……逆にすればいいのか」
僕はくるりと振り返る。
さっきまで走ってきた道。自分の足元を、光で丁寧に照らす。
すると。
霧の中、土の上に刻まれた跡が浮かび上がる。
自分の足跡。焦っていたせいで、少し乱れている。
その隣に——
「……っ!」
二つ。
明らかに僕のものではない、深い足跡。
それは森の奥から、左へ向かっていた形跡がある。
「ありがとう、お父さん……」
喉の奥が、少しだけ熱くなる。
「あなたとの短い日々は……無駄じゃなかった」
迷ってはいない。目的ははっきりしている。
ならば、混同している他人の足跡を辿ればいい。
僕は息を整え、慎重にその跡を追い始めた。
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
森は次第に開けていく。
木々の間隔が広がり、霧が濃くなる。
足跡は途切れない。
焦りはあるが、不思議と足取りは安定していた。
——絶望は、見えないときが一番怖い。
父さんが旅立った理由が、今なら少しだけ理解できる。
やがて、視界が開けた。
小さな広場。
地面は踏み荒らされ、草は枯れ、空気は他よりも濃く淀んでいる。
——足跡が消えた。ここだ。
「いるんだろ⁉︎ もう観念しろ!」
声が、霧の中に吸い込まれる。
返事はなかった。
だが——
コツ。コツ。
乾いた足音。
霧の向こうで、何かが動く。
僕は構え、光を強める。
白い光が、ゆっくりと二つの影を浮かび上がらせた。
……二人!
一人は、巨大な帽子をかぶった子熊。
丸い耳。小さな体。
だがその目は、愛嬌のかけらもない冷たい光を宿している。
もう一人。
黒い博士帽。丸いジェル状の身体。
心臓が、強く跳ねる。
「え……」
霧の中、こちらを見つめるその姿。
その輪郭は、あまりにも見覚えがあった。
「スライム……博士……?」




