基本戦術
【前回の登場人物】
「スライム博士」
(種族)ライトモン
(年齢)22
(能力)体の変形
(概要)探検隊の地上班長。自称マッドサイエンティスト。
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——僕たちは、博士の案内のもと、無事に目的の森へと辿り着いた。
道中、何もなかったわけじゃない。
もちろん、旅人狩りの山賊に襲われたりもした。
だが——正直、博士とゴハートの敵ではなかった。
博士の拘束術と、ゴハートの人魂であっという間に制圧。
今思えば、あれはちょっと可哀想だったかもしれない。
そして、目の前に広がる「フルーツの森」。
想像していた通り、鬱蒼とした、どこか不気味な森だった。
依頼人のいる集落は、まだ先にあるらしい。
僕らは今、そこを目指して森を突き進んでいる――!
「なあ、マスター。さっきからちょっと臭わねえか?」
ゴハートの一言で、僕は足を止めた。
「え……? ああ、ほんとだ。なんか……甘い匂いに混ざって、変な……」
鼻をくすぐるのは、熟れた果実の香り。
でもその奥に、わずかに腐ったような臭気が混じっている。
——道の脇には、小さな果樹が並んでいた。
枝には実がなっているが、そのいくつかは、黒く変色している。
「森の外れにしては、妙ですねぇ」
後ろから、ぬるりとした声。
振り向くと、スライム博士が地面に手をつけていた。
そのまま腕がとろりと溶け、土の中へと染み込んでいく。
「「うわぁ……」」
思わず引いた声が出る。
「大丈夫なんですか?」
僕らは心配したが——
数秒後、博士は何事もなかったかのように腕を元に戻した。
やっぱり、この人はイカれてる。……良い意味で。
「ふむ……やはり。これは自然の腐敗ではありませんね」
「えっと……?」
「自然的要因じゃねぇってことは……!」
「ええ。外部から混入された、何らかの物質です。しかも――」
博士は何かを説明しようとした。
——その時だった。
ガサッ。
茂みの奥で、何かが動いた。
「……来るぞ!」
ゴハートが低く言う。
僕も博士も、遅れて構える。
次の瞬間、飛び出してきたのは――
「なっ!?」
小動物……だと思った。
しかし、違う。ひとりでに動く『柿』……?
丸っこい身体に、へにゃりとした口元。
博士と同じ『ライトモン族』のように可愛らしい——のだが。
どこか、様子がおかしい。
体の一部が黒ずみ、目は濁り、動きはぎこちない。
そして何より――
「グルァ‼」
明らかに、敵意を向けている。
可愛い見た目とは裏腹に、凶暴な性格のようだ。
「うそだろ……!?」
「逃げろ、マスター!」
そいつは、一直線に僕へと飛びかかってきた。
「『ツルピカフラッシュ』!」
反射的に光を放つ。
白い閃光が弾け、敵の視界を奪う。
「今だよ、ゴハート!!」
「任せろ。くらえ『人魂シュート』!」
彼の手の甲に、熱が集まる。
そして、次の瞬間——
ゴハートの人魂が、一直線に突き抜けた。
チュドンッ!
衝撃とともに、化け柿は地面に叩きつけられる。
これが、今の僕らの基本戦術。
二人の得意技を合わせれば、安定して敵を倒せるまでに成長した。
だが――
「まだ来るぞ!?」
気づけば、もう二体。
いや……三体……四体!?
同じように黒ずんだ個体が、こちらを取り囲んでいた。
「くっ……!」
うち二体が横から飛び込んでくる。
「「グルァァッ‼」」
どちらかは、避けきれない――!
「下がりなさい」
その声と同時に、目の前に壁が現れた。
——いや、違う。
スライム博士の体が、一瞬で盾のように広がっていた。
ベチョッ!
粘体が弾ける音と共に、攻撃が弾かれた。
「ふむ……攻撃性が極端に増していますね」
博士は、まるで実験結果を確認するかのように呟いた。
「ちょ、ちょっと博士! 危ないですよ!」
「問題ありませんよ。君たちが倒せる程度の相手では、ワタシは傷つきませんから」
君たち程度って……。
その言い方、なんか引っかかるけど……今はそれどころじゃない、か!
「やるよ、ゴハート!」
「ああ。後掃除だな!」
僕は再び光を放つ。
『ツルピカフラッシュ』で視界を奪って――そして!
「『人魂シュート』!」
ゴハートの弾丸が、まとめて吹き飛ばした。
ドンッ! ドンッ! ドドォンッ!
土煙が上がり、静寂が戻る。
「はぁ……はぁ……」
なんとか、倒した……のか?
しばらく待っても、もう動く気配はない。
「やった……」
「倒せた……」
そう呟いた瞬間。
「ほう……?」
背後から、楽しげな声が聞こえた。
振り向くと、博士が倒れた柿たちをじっと見つめている。
「これは、先程の物質……ですね」
「え……?」
博士は、ためらいなくその体に触れた。
ジェル状の腕が、黒ずんだ部分を包み込む。
「やはりそうだ。この物質……調査対象のサンプルと一致しますね」
「ちょっと……それ、触って大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。ワタシの体は多少の毒では変質しません」
ん……多少?
結構な量を取り込んでいた気がするけど?
博士はそのまま、物質の一部を切り離し、自分の体内へ取り込んだ。
「これで解析が進みます。探査機なんかも作れそうですね」
その表情は――どこか、嬉しそうだった。
「……」
僕は、言葉を失う。
「博士……これ、森の中でも起きてるのか?」
ゴハートが真面目な声で尋ねる。
「ええ。むしろ、本番はこれからでしょうね」
博士はさらりと答えた。
「この物質……気体化すれば、広範囲に影響を及ぼします」
「気体……? じゃあ、いつかは森全体を……?」
「ええ。不可能ではないでしょう。だからこそ、早めに潰さねばなりません」
――その言葉に、背筋が冷えた。
森全体が、ああなる……?
この森に住んでいる生き物たちの気持ちを考えると、胸が痛む。
「まあ、仮定の話ですがね」
博士はくすりと笑う。
最後に謙遜を挟むところが、実に博士らしい。
でも……本当に、仮定なのか……?
「では……行きましょうか。立ち止まっている理由はありません」
そう言って、博士は先へ進む。
僕とゴハートは顔を見合わせ、黙って後を追った。




