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基本戦術

【前回の登場人物】

「スライム博士」

(種族)ライトモン

(年齢)22

(能力)体の変形

(概要)探検隊の地上班長。自称マッドサイエンティスト。

************************************************



 ——僕たちは、博士の案内のもと、無事に目的の森へと辿り着いた。


 道中、何もなかったわけじゃない。

 もちろん、旅人狩りの山賊に襲われたりもした。


 だが——正直、博士とゴハートの敵ではなかった。


 博士の拘束術と、ゴハートの人魂であっという間に制圧。

 今思えば、あれはちょっと可哀想だったかもしれない。


 そして、目の前に広がる「フルーツの森」。

 想像していた通り、鬱蒼とした、どこか不気味な森だった。


 依頼人のいる集落は、まだ先にあるらしい。

 僕らは今、そこを目指して森を突き進んでいる――!





「なあ、マスター。さっきからちょっと臭わねえか?」


 ゴハートの一言で、僕は足を止めた。


「え……? ああ、ほんとだ。なんか……甘い匂いに混ざって、変な……」


 鼻をくすぐるのは、熟れた果実の香り。

 でもその奥に、わずかに腐ったような臭気が混じっている。


 ——道の脇には、小さな果樹が並んでいた。


 枝には実がなっているが、そのいくつかは、黒く変色している。


「森の外れにしては、妙ですねぇ」


 後ろから、ぬるりとした声。


 振り向くと、スライム博士が地面に手をつけていた。

 そのまま腕がとろりと溶け、土の中へと染み込んでいく。


「「うわぁ……」」

 思わず引いた声が出る。


「大丈夫なんですか?」


 僕らは心配したが——

 数秒後、博士は何事もなかったかのように腕を元に戻した。


 やっぱり、この人はイカれてる。……良い意味で。


「ふむ……やはり。これは自然の腐敗ではありませんね」


「えっと……?」

「自然的要因じゃねぇってことは……!」


「ええ。外部から混入された、何らかの物質です。しかも――」



 博士は何かを説明しようとした。

 ——その時だった。


 ガサッ。

 茂みの奥で、何かが動いた。


「……来るぞ!」

 ゴハートが低く言う。


 僕も博士も、遅れて構える。

 次の瞬間、飛び出してきたのは――


「なっ!?」


 小動物……だと思った。

 しかし、違う。ひとりでに動く『柿』……?


 丸っこい身体に、へにゃりとした口元。

 博士と同じ『ライトモン族』のように可愛らしい——のだが。

 どこか、様子がおかしい。

 体の一部が黒ずみ、目は濁り、動きはぎこちない。


 そして何より――


「グルァ‼」


 明らかに、敵意を向けている。

 可愛い見た目とは裏腹に、凶暴な性格のようだ。


「うそだろ……!?」

「逃げろ、マスター!」


 そいつは、一直線に僕へと飛びかかってきた。


「『ツルピカフラッシュ』!」


 反射的に光を放つ。

 白い閃光が弾け、敵の視界を奪う。


「今だよ、ゴハート!!」


「任せろ。くらえ『人魂シュート』!」


 彼の手の甲に、熱が集まる。

 そして、次の瞬間——

 

 ゴハートの人魂が、一直線に突き抜けた。


 チュドンッ!

 衝撃とともに、化け柿は地面に叩きつけられる。


 これが、今の僕らの基本戦術。

 二人の得意技を合わせれば、安定して敵を倒せるまでに成長した。


 だが――


「まだ来るぞ!?」


 気づけば、もう二体。

 いや……三体……四体!?


 同じように黒ずんだ個体が、こちらを取り囲んでいた。


「くっ……!」


 うち二体が横から飛び込んでくる。

「「グルァァッ‼」」


 どちらかは、避けきれない――!



「下がりなさい」



 その声と同時に、目の前に壁が現れた。


 ——いや、違う。


 スライム博士の体が、一瞬で盾のように広がっていた。



 ベチョッ!

 粘体が弾ける音と共に、攻撃が弾かれた。


「ふむ……攻撃性が極端に増していますね」


 博士は、まるで実験結果を確認するかのように呟いた。


「ちょ、ちょっと博士! 危ないですよ!」


「問題ありませんよ。君たちが倒せる程度の相手では、ワタシは傷つきませんから」


 君たち程度って……。

 その言い方、なんか引っかかるけど……今はそれどころじゃない、か!


「やるよ、ゴハート!」


「ああ。後掃除だな!」


 僕は再び光を放つ。

 『ツルピカフラッシュ』で視界を奪って――そして!


「『人魂シュート』!」


 ゴハートの弾丸が、まとめて吹き飛ばした。


 ドンッ! ドンッ! ドドォンッ!


 土煙が上がり、静寂が戻る。


「はぁ……はぁ……」


 なんとか、倒した……のか?


 しばらく待っても、もう動く気配はない。


「やった……」

「倒せた……」

 そう呟いた瞬間。


「ほう……?」


 背後から、楽しげな声が聞こえた。

 振り向くと、博士が倒れた柿たちをじっと見つめている。


「これは、先程の物質……ですね」

「え……?」


 博士は、ためらいなくその体に触れた。

 ジェル状の腕が、黒ずんだ部分を包み込む。


「やはりそうだ。この物質……調査対象のサンプルと一致しますね」

「ちょっと……それ、触って大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。ワタシの体は多少の毒では変質しません」


 ん……多少?

 結構な量を取り込んでいた気がするけど?


 博士はそのまま、物質の一部を切り離し、自分の体内へ取り込んだ。


「これで解析が進みます。探査機なんかも作れそうですね」


 その表情は――どこか、嬉しそうだった。


「……」

 僕は、言葉を失う。


「博士……これ、森の中でも起きてるのか?」

 ゴハートが真面目な声で尋ねる。


「ええ。むしろ、本番はこれからでしょうね」

 博士はさらりと答えた。


「この物質……気体化すれば、広範囲に影響を及ぼします」

「気体……? じゃあ、いつかは森全体を……?」

「ええ。不可能ではないでしょう。だからこそ、早めに潰さねばなりません」


 ――その言葉に、背筋が冷えた。


 森全体が、ああなる……?

 この森に住んでいる生き物たちの気持ちを考えると、胸が痛む。


「まあ、仮定の話ですがね」


 博士はくすりと笑う。

 最後に謙遜を挟むところが、実に博士らしい。



 でも……本当に、仮定なのか……?


「では……行きましょうか。立ち止まっている理由はありません」


 そう言って、博士は先へ進む。

 僕とゴハートは顔を見合わせ、黙って後を追った。


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