暗躍するものたち
【前回の登場人物】
「みかん隊員」
(種族)フルーティア
(年齢)9
(能力)みかんの生成
(概要)りんご隊長の仲間。汚染により凶暴化してしまった。
「ピーチ兵長」
(種族)フルーティア
(年齢)10
(能力)桃の生成
(概要)りんご隊長の仲間。汚染により凶暴化してしまった。
ついに汚染の元凶を追い詰めたと思った。
しかしそんな僕の目の前に現れたのは、どこからどう見ても博士。
「どういうことですか……? 博士は集落に残ってくれていたはずじゃ……」
「…………」
僕が問いかけても博士は何一つ返事をしない。
代わりに話したのは隣にいる謎の子熊だった。
「ガキたった一人か……。お前だけで十分そうだな。オレは定時であがらせてもらう」
見た目通りの可愛らしい高い声……。しかし話す内容は随分と大人びているな?
こんな小さい子がどうして……?
いや、今はそうじゃないだろ。
僕は黙り込む博士ではなく、子熊へと再び尋ねる。
「ちょっと待て、質問に答えろ! この汚染ガスを撒いたのはお前か⁉︎」
「うるさいガキだ……『ディメンジョン』」
質問に答える気はこいつもないようだ。
僕はとっさに手を前に出し、防御体制をとる。
「何をする気だ……?」
しかし子熊がとったのは攻撃ではなかった。
巨大な帽子がぐにゃりと変化し、その中に子熊は入っていく。
そして……
「消え……た?」
そう。歪んだ帽子の中に小熊が入り込んだ瞬間、そのどちらもが場から消えたのだ。
どういうことだ……?
スライム博士も、子熊も、謎が多すぎる。
僕は防御体制を崩し、頭をかかえる。
しかし、悩んでいる暇はなかった。
パリィン!
「うわぁぁぁぁぁあああああ!」
博士が……僕に向けて、ガラス瓶を投げつけてきた⁉︎
これは、明確な敵対だ。やはり汚染への問いはYESということなのか。
幸い、中の毒らしき物質はガスマスクのおかげで無効化できているが……普通に痛い。
「博士は……探検隊を裏切っていた、ということなのですか⁉︎」
「…………」
相変わらず無言を貫く博士。
これは……流石に異常じゃないか?
それに、自分でガスマスクを渡しておいて、毒の攻撃を仕掛けるのも不自然だ。
考えられる可能性としては、何者かに操られている……または、ただのそっくりさん……ん? そっくりさん……どこかで聞いたことのある話だ。
その時、僕は以前に隊長が言っていたことを思い出した。
『ダークスター団。目的は不明だが、各地にクローン人間を送り込んでいる』
クローン人間……。確か、遺伝子が全く同じで記憶が乖離した存在。
先程まで一緒にいた博士と、この博士との間では明らかな違和感がある。
つまり、ここにいる博士は「ダークスター団」に作られたクローンということ⁉︎
本当にそうなら、辻褄が合う。スライム博士は確かに性格の悪い変人だが、探検隊を裏切るようなひとじゃないはずだ。
「そういうことか……。じゃあ、容赦はいらないですね?」
僕はクローンに対しても自然に敬語を使ったことに苦笑いした後、攻撃を仕掛ける。
もしクローンなら……見た目と能力は完全に同一人物のようだが、言葉を使えなくてよかった。
不安定な僕の心ではおそらく、惑わされて一方的にやられてしまうところだった。
「うぉぉおおお!」
僕は博士のクローンを緊急用のダガーで切り刻む。
しかしこれで終わりではないだろう。スライムの身体は散り散りでも生き延びるのだ。
予想通り、クローンは僕を嘲笑うかのように分裂していく。
確かに厄介な能力……だがな。
「お前が博士のクローンならば、僕は強みも弱みも知っている!」
どんな形にも変形でき、分裂もできる変幻自在な博士の能力。一見チート級だ。
しかし、その弱点とは分裂しても目や鼻、耳などの重要な部位は一箇所にしかないということ。
僕は博士が毒霧の方角を探知したときに気付いたんだ。
彼の能力はスライム。分裂システムは授業で知った「プラナリア」とは違っていた。
プラナリアにはどんな種類の細胞にもなれるオールマイティな「新生細胞」がいて、これが分裂・増殖して、必要に応じて筋肉やら神経やらに変化して再生を実行するそうだ。つまり分裂したら別れた方にも目玉が生える。だがスライム博士の能力は身体の細胞すべてに脳で指令を出すことができるだけ。意識は一つだけなのだ。
「『ツルピカフラッシュ』!」
つまりこの攻撃で……ひるんでいない分裂体たちは全部倒しても意味がない!
それ以外の1つを倒せば、全てのスライムが機能停止するはず。
僕はただ一人、身体にまとわりついて来ないミニスライムにダガーを投げつける。
「本体は、お前だ……!」
◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎
僕は気絶させた博士のクローンを抱え、集落に帰還した。
「ゴハート、博士! お待たせしましたー‼︎」
僕が村に戻ると、彼らは凶暴化したフルーティアを撃破していた。
……流石だ!
「おお、マスター。元凶を捕まえたのか! 早かったな……って、えーっ⁉︎」
ゴハートは博士の姿をした元凶に驚くが、スライム博士本人は冷静だった。
彼は僕から自身のクローンを受け取ると、即座に汚染物質の解析を始める。
…………流石だ……。
「見事です。カビ助くん、では後はワタシに任せて休んでください」
「わかりました。後はお願いしますね」
僕はさりげなく返事をしたが、時間が経つとあることに気づき喜ぶ。
あれ……? そういえば博士が僕の名前を呼ぶのは初めてじゃないか……⁉︎
どうやら僕のことを、ただのモルモットではないと認めてくれたようだ。
……それから三分後、博士は宣言通りに解毒剤を作り上げた。
そして一番症状の進行が遅い、りんご隊長に薬を投与する。
「よし、これでりんごは凶暴化することはないでしょう。ですが……」
博士は気絶中のフルーティア達の方に目を向け、つぶやく。
「彼らは、症状が進行しすぎていますので……このまま、病院まで送らないとですね」
素人目でも分かる。彼らの暴走を抑えるくらいなら可能だが、完全に救うにはゆっくり時間をかけて治療しなければならないだろう。早急に病院へと運びたいだが、問題は山積みだった。
「とはいえ……この人数を三人で運ぶのは大変なのでは?」
「それに、博士もどきの元凶もどう扱ったらいいか分からねえぜ……!」
僕とゴハートも必死に考えた。
宿屋のスタッフさんも、警官さんも村長さんもみんな汚染を受けている。頼れるのは自分たちしかいないのだ。
そして悩みの末、街に残る探検隊メンバーに報告して彼らを運んでもらうことにした。
スライム博士が手当たり次第に電話をかける。
プルルルル……プルルルル……
プルルルル……プルルルル……
プルルルル……プルルルル……
「ダメです、誰も出ません。この場所は圏外のはずないのですが……汚染ガスの影響でしょうか?」
それを聞いてゴハートはため息をつき、提案する。
まあ、機材の問題ならその方法しかないだろう。
「だったら、直接ラッシャイタウンに帰って伝えるしかねぇな」
ついに敵組織の本格登場です。
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