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翌日、彼は朝の九時にトレーニングルームへ向かう。例によって、部屋には彼と緑の二人しかいない。
訓練の前に、彼は緑へ質問をする。
「なんでお前は来てくれたんだ? 昨日もそうだし、今日もそうだけど」
「え?」彼女は不思議そうな顔をする。
「いやほら、俺って嫌われてるだろ、人間から。だからなんでかなって」
「それは、えっと」
「正直に言っていい。人間側の気持ちが知りたいんだ。他の四人を呼び集めるためにも」
「わかりました。ええっと、確かに私も悪の怪人のことが嫌いでした。現れるたびに避難しなきゃいけなくて、そのたびに授業が止まるから帰るのが遅くなったり、土曜日も学校に来なきゃいけなくなったりして本当に嫌でしたし、仕事してたときだって、忙しい時に避難しなきゃいけないってなると、終電がなくなるまで会社に残らなきゃいけなくなったりして、あの時は本当にぶち殺そうかと・・・・・・あ、すみません。今はそんなこと思ってないです」
「いや、それは俺が悪かった。でも、それならなんで来てくれたんだ?」それがわかれば、他の魔法少女たちを呼び集める方法もわかるかもしれない。
「それは会って聞きたいことがあったからです」
「わざわざ歳を聞くためだけに来たのか?」聞かれたことといったら、それぐらいしかなかったような気がする。
「いやほら、何も知らない状態で悪い人だって判断するのってよくないじゃないですか。だからちょっと話を聞くために会ってみたいなって。でもあの答えを聞いて、話してるうちになんとなくいい人だなって思ったから、もういいかなーって」
「ああ、そういうことか」つまるところ、彼女が来た理由は彼のことを自分の目で判断したかったからというわけだ。これは他の魔法少女には適用できそうにない。それでも、そんな気持ちを持ってくれた彼女に彼は感謝の念を抱く。
「お前、やっぱいいやつだな」
「そんなことないです」
「そんなことあると思うけどな。まあ、とにかく来てくれてありがとな。さて、そろそろ始めるか」
その日は二人だけで午後三時まで訓練をした。それから午後五時に桃子の家へ行く。彼は家のチャイムを押すが、期待はしていない。どうせ居留守を使われるだろうと思っていたからだ。
ところがインターホン越しに、答えが返ってくる。
「何しに来たの?」桃子の声がインターホンから聞こえてくる。
「いろいろと話したいことがあって来たんだけど、まずは謝りたい。今まで、お前たちに迷惑をかけて悪かった。もう、地球を侵略するのはやめる。許してもらえないかもしれないけど、それはそれで構わない」
ホワイタチに指示されてやったことなんだ、とは言わない。やつが黒幕だったのだと彼女たちが知られたら、やつと彼女たちの関係は悪化するだろう。混乱を招かないためにも、ここでホワイタチの印象を悪くしてしまうのは避けなければならない。
「だめ、許さない」彼女の返答は冷たい。「今、サトウと話しているのはホワイタチに言われたからってだけ。昨日やって来て、せめて会話ぐらいはしろって言われた」
どうやら、やつなりにこちらを助けになろうとしてくれてはいるらしい。ついでに俺の好感度があがるようなことを言ってくれているといいんだが、と彼は思う。
「そうなのか。じつは俺も、みんなとちゃんと会話をしたほうがいいと思ってたんだ。今までは傲慢だったけど、これからはちゃんと信頼されるようなやつにならないといけないからな」
彼女から返答はない。もう聞いていないのかも、とは思いつつも話し続ける。
「お前さ、アニメ好きだろ? ほら、最初の顔合わせの時にホワイタチが言ってただろ、二次元が嫁だとかどうとか」
仲良くなるための近道はやはり、共通の趣味を持つということだ。そして幸いなことに、桃子の趣味だけは知っていた。それで彼は攻略しやすいであろう彼女のところへ、一番最初に来たわけだ。
「覚えてたの?」彼女は言う。
「覚えてたさ、もちろん。なあ、桃子はなんのアニメが好きなんだ?」彼は尋ねる。
「教えない。どうせ、アニメに興味なんてないんでしょ?」しかし彼女は冷めた声で返答する。
「いや、そんなことはない」
「二次元が嫁とか言ってるって聞いて、内心笑ってたんでしょ?」
「そんなことない。憶測で話すのはやめろ」実際、彼はそんなことを思ったことは一度だってない。
「悪いけど、あなたを信頼する気になれないし、あなたに私の好きなアニメを見てほしいとも、好きになってほしいとも思わない」
そこで彼は、作戦が失敗したことに気づく。
「もう帰って」彼女は言う。