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 訓練が終わって緑と別れたあと、彼は火蓮の家へと行く。なぜ彼女たちがトレーニングルームへ来なかったのか、聞きだすために。


 彼女がいたのは学校のテニスコートだった。そこには紫音の姿もあった。彼女たちは部活の最中みたいだった。彼は練習が終わるまで、フェンスの外で彼女たちの練習を見て待つことにした。


 しかし練習が終わるまで待つ必要はなかった。休憩時間になると、火蓮と紫音たちのほうから彼のもとへやってきたからだ。


「どういうつもりなの?」火蓮は彼を睨みつけながら言う。


「それはこっちのセリフだ。なんで基地に来なかった?」


「テニスなんかより地球の危機のほうが大事だって言いたいんでしょ。わかってる、魔法の練習はちゃんとするから」


「練習するのはいいが、基地に来てくれないと困る。俺たちはもう、仲間なんだからな」


「あんたなんか、仲間じゃない! 私はあんたとの共闘は認めたけれど、仲間だって認めた覚えはないから」火蓮は言う。


「なに?」


「いい、私は悪の怪人が大嫌いなの! ていうか、なんで勝手に来てるの、まじできもいんだけど。もう二度とここに来ないで。次来たら、追い出すからね」彼女は怒鳴る。


「嫌いとか、そんなくだらないことを言ってる場合じゃないだろ。なあ、紫音、お前は来てくれるだろ?」彼は紫音のほうを見る。


「ごめん、ちょっとパス」紫音は言う。


「パスってなんだよ」


「やっぱり、いくらなんでも悪の怪人をいきなり信用するのはちょっと無理かなって。だって、地球を侵略しようとした悪党なんでしょ? それを急に信じろって言われても無理かなーって」彼女は言う。


「お前ら、ふざけんなよ。俺がこうやって協力してやってるのに」


「あの、どうかしましたか?」彼は男の声がしたほうへ振り向く。気づけば、コート内にいたテニス部顧問が彼のそばまでやってきている。


「うちの生徒になんか用ですか?」テニス部顧問は重ねて尋ねる。


「先生、この人変なんです! 自分のこと、悪の怪人とかなんとか言って、私たちにあんなことやこんなことをしろって」紫音は顧問に言う。


 途端に、顧問の目つきが険しくなる。「君たち、後ろにいなさい」彼は火蓮と紫音を後ろにかばう。「あなた、警察を呼びますよ。いったい、誰なんですか?」


「いや、違うんです」彼は弁明しようとするが、それ以上言葉を続けることができない。魔法少女は自分の正体を他人に明かしてはいけないというきまりがある。それを破らずに事情を説明するのは困難を極める。


 やむを得ず、彼は何も言わずに逃げ出すという選択肢をとる。顧問は彼を追わない。しかし不審者認定されたのは、間違いない。


 火蓮と紫音のところから逃げ出したあと、今度は水華のところへ向かう。彼女は家にいて、部屋のチャイムを押すと出てきた。


「何しに来たんですか?」彼女は尋ねる。


「なんで朝、基地に来なかった?」


「それを聞くためだけにここに来たんですか? え、きもっ」そう言って彼女はドアを閉めてしまう。


「待てよ。俺のことが信用できないから、行きたくなかったってことなのか?」


「信用できないっていうのもありますけど、あなたのことが嫌いだっていうのもあります」


 嫌い、という言葉を投げつけられた彼は、ショックのあまり言葉を失う。だが、うなだれている場合ではないということを思い出して、なんとか言葉を口にする。


「いやでもお前、俺が仲間になるって言った時はそんなこと言わなかったじゃないか」


「それはホワイタチさんが必要だと言ったからです。あと、私はあなたを仲間だと認めた覚えはありません。ていうか、地球侵略を企む悪の怪人を仲間だと思う人間なんているわけないって、冷静に考えたらわかるでしょ? わかったらもう二度と家に来ないでもらえますか? きもいんで」


 つまるところ、力は借りるが仲間だと認めるつもりはないし協力するつもりもない、というわけか。これ以上話を聞くのは不可能だと諦めて、彼は水華の家を去る。


 断られるかもしれない、とは思いながらも桃子の家にも行ってみる。家のチャイムを押してみたが、家の者は誰も出ない。どうせ居留守だろう、という気がしたが念のため確認してみることにする。もし留守だったら、まだチャンスがあるかもしれない。


 彼は魔力を練って、地面に流す。魔力が波のように周囲へ広がっていって、エコーのような働きをする。その結果、家の中に一人、人がいることがわかる。やはり居留守だったのだと、彼は知ることになる。


 せっかく協力してやっているのに、この仕打ちはいったいなんなのか。ひどすぎる。まるで俺が悪役みたいだ。と、そこで彼は、自分が悪役だったことを思い出して、ため息をつく。

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