プロローグ
きらきら、きらきら。光に透けて輝く、アイスシルバーの髪が風になびくのを見て、ぼくはなぜか息を呑んだ。
「おやまぁ、まさかエイケン家と被るとは」
「それはこちらの台詞ですよ。その子が?」
「ええ、メイラー家はこの子を神殿に」
大人がふたり、話し込んでいる。それを聞きながら、ちらりとアイスシルバーの髪を持つ、ぼくと同じくらいの子を見ていると、視線に気付いたのか首を傾げた。
「なぁ、何歳?」
「ご、五歳……」
「ふぅん。じゃあ、オレのほうが一歳年上だ。オレはレイモンド。レイで良いよ」
「ぼ、ぼくはトレヴァー。えっと、レイ……?」
名乗ってくれたので、自分の名を告げる。レイは白い歯を見せて、ぼくの頭に手を伸ばしくしゃくしゃと撫でる。髪の感触が気に入ったのか、撫でるのを止めない。
「はは、ひよこみたい」
「ひよこじゃないよぅ……」
くしゃくしゃにかき混ぜられたぼくの髪は、きっとぼさぼさになっている。そのうちに神官らしい人が来て、「おや、もう仲良くなったのですね」と微笑ましそうに目元を細めた。
その言葉に、エイケン家の当主と、恐らくメイラー家の当主がこちらに視線を向ける。
彼らは後ろに控えている護衛たちに合図し、神官にどっさりと――宝石を差し出した。
「ありがとうございます。では、お子さんたちは神殿が責任を持って育てましょう」
「ええ。成人後はこちらに関わらなければ、どう過ごしても構わないので。どうかよろしくお願いいたします」
「こちらも同じ気持ちです。やりたいことをやらせてください」
そう言い残して、エイケン家とメイラー家の当主は去っていく。
――ぼくは、エイケン家の私生児だと自分で知っている。最初はそのことを知らなく、お母さんと平和に暮らしていた。だけど、お母さんが病気で苦しんでいるときに、エイケン家の当主がぼくと引き換えに、お母さんの病気を治した。
今よりも幼い頃の話だ。お母さんとは、その日以来会っていない。これからも会わないようにと言われている。
エイケン家には兄や姉もいたけれど、私生児のぼくには辺りが強かった。だからなのか、当主は神殿で暮らすことを提案してきた。
味方がいないエイケン家よりも、神殿で暮らすほうがまだ心が楽になると思い、その提案に乗った。貴族には子どもが多ければ神殿にひとり、預けないといけないという決まりがあるらしく、私生児のぼくにはピッタリだと思ったのだろう。
もしかしたら、この子もそうなのかもしれない。
「どした?」
「あ、えっと……なんでもない」
視線がパチッと合って、慌てて逸らす。
ぼくがエイケン家の子息だということは、この天然パーマとハニーブロンド、青っぽいグレーの瞳を見れば、すぐにわかる人はわかる。
だけど、レイは……アイスシルバーの髪に、ガーネットのような赤い瞳で、噂で聞いていたメイラー家の人とは容姿がまったく違う。ぼくが耳にしたメイラー家の人たちの特徴は、赤毛で黒目だったから。
「ま、これからよろしくな、トレヴァー」
「う、うん。よろしくね、レイ」
目の前に差し出された彼の手をぎゅっと握る。その手がぽかぽかと温かくて目を丸くした。――まるで、太陽のよう。そう、思ったんだ。
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