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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 七章
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20話

「やっぱり帰るって選択肢は」

「ない。いつまでも引きずってんなよ」

「はーい……」


 十組の教室の扉の前。

 左右をエルとディル、前をハルマが固めるという、俺の対脱走の並び。


 口では言いつつも、さすがにここまできて一人で帰ろうなんて思わないんだけどな。

 信用ないのか?


 口をとがらせる俺に見向きもせず、ハルマが扉を引く。


「誠意が足りてないんですって何回言えば分かるんですか! はいもう一度!」


 突然たたき出された怒号に、ぽかんと口を開けて中の光景を見る。

 後ろのほうに、傍観してる一年三年のみんな。


 アドニスにアネモス先輩が土下座してる……?


「この度は誠に申しわけありませんでしたあああ!」

「もっと頭下げてください! 人を殺しかけたんですよ!? 本当は謝ることくらいでは、到底許されるものではな……」


 アドニスがふと俺らのほうを向き、動きを止める。


 ガンッ!


「よし、見なかったことにしよう」

「何してるのコア……」


 足で思いっきり扉をけって閉めると、エルがあきれたようにつぶやく。


 だって! アレはないだろ!


 アネモス先輩がアドニスに土下座って意味が分からないし、アネモス先輩はちょっと嬉しそうでヤバい感じだったし!


「うん。とりこみ中は邪魔しないのが一番だよな」

「とってつけたように言うな。入るぞ」

「え。まだ心の準備が……!」


 慌てる俺をムシして、ハルマはもう一度扉を引く。

 と、そこにはハルマの爪先の距離に、アドニスとアネモス先輩の頭があった。


 俺らに向かってダブル土下座?

 え、ホントに何……?

 怖いんだけど……。


「コア、今回のこと、本当に申しわけありませんでした」

「スマナカッタ」


 アネモス先輩の棒読みに、アドニスが横顔にバシッと手をたたきつける。


 今回のことって、アネモス先輩が俺を殺しにきたこと?


「いやまあ、たしかに死ぬところだったけど、エルたちが助けてくれたから……。それより、なんでアドニスまで謝ってるんだ? やっぱりアネモス先輩と知り合いなのか?」


 真っすぐに誠意を向けて謝られることに慣れていない俺は、わき腹がむずがゆく感じてたじろぐ。


 アドニスとアネモス先輩のやりとりを見るに、一方的なストーカーではないみたいだ。

 失態を一緒に謝るなんて、ホントにどういう関係……。


 一向に話し出さないアドニスたちを不思議に思っていると、エルが水平に立てた人さし指を、くいくいと上に曲げる。


「あー……。その、頭上げろよ。居心地悪いから」


 ゆっくり遠慮がちに頭を上げたアドニスに対し、アネモス先輩は待ってましたとでもいわんばかりに、シャキッと姿勢を正す。


 なんでだよ。逆だろ。


「許して……くれるわけないよね。殺されかけたんだから、もっと怒っていいのに」

「いいんだよ。俺は生きてるんだから。……許しはしないけどな」


 俺がキッとアネモス先輩をにらむと、彼はぷいとそっぽを向いた。


「ちょっと姉さん、ちゃんと反省してくださいよ」

「は?」

「本当にごめんね。僕がもっとしっかり注意していれば……」 


 ……今なんて?


 俺がハテナを浮かべると、ぶふっと耳元で誰かが吹き出した。


「ごめ……っ。いや、ホントに気づかないんだなぁって……っ」


 腹を抱えて笑いをこらえるエルに言い返したかったけど、頭が混乱しすぎて言葉が出ない。


 いや別に、性別で対応が変わるわけじゃないんだけどさ。

 姉さんって……女!?


 フリーズした俺に、アドニスがぱちぱちと目をしばたかせる。


「えっと、どうかした?」

「……いや、なんでもない」


 ほぼ無意識にアネモス先輩をじっと見つめていると、アネモス先輩は思い当たったような顔をして立ち上がった。


「私が男なのだと思っていたんだろう? 私もこんな見目だからね、中性的だといってよく間違えられる。気にするな」

「はあ」


 アネモス先輩は俺の前で立ち止まると、エスコートするようにそっと俺の手をとる。

 そのままごく自然に俺の手を引き、自分の胸に近づけ――。


「っ!?」

「おっと」


 頭の中で警戒音が鳴り響き、全力で手をほどいてエルの背中にとびずさる。


 なっ、なんなんだ……!?

 急にそ、そんなところ触らせようとしてくるとか、セクハラだセクハラ!


「姉さん!」

「違うんだアドニス。言っても信じてもらえなさそうだったから、実際にたしかめてもらったほうがはやいと思って……」

「だからってそんなことしていいわけないじゃないですか! ただでさえ警戒されて当然のことをしたのに、さらに信用を失ってどうするんです!?」

「しかし……」


 ガミガミと説教するアドニスに、しゅんとうなだれるアネモス先輩。

 助けを求める視線を向けてきたけど、こっち見るなという念をこめて威嚇する。

 エルもディルもそんな俺らに苦笑し、ハルマは額をおさえてため息をついた。


「ここで立ち話もなんだし、とりあえずみんな座ろうか。待ってるのも退屈だっただろうし、積もる話もあるみたいだから、今日の一時限目は談笑会にしよう。妖倒大会の反省もかねてね」


 ディルの言葉に、わっと教室内で歓声が上がる。


 きびきびと机や椅子を円状に並べ始めた彼らは、あっという間に完成させ、俺らを手招く。


「行こうか、コア」

「あ、ああ」


 教室に入るには、アネモス先輩を横ぎらないといけない。


 アドニスがちょうどアルトに呼ばれて走っていき、アネモス先輩の視線が俺を向く。


 謝ってこいとか言われたのか……?

 もう今はいいそういうの。悪いと思ってるなら、とにかく近づかないでほしい。


 ふーっと毛を逆立てる俺の手をエルがつかみ、ぐいっと引っぱる。

 俺をアネモス先輩からかばうように、自分を間に入れてすれ違う。


「コア……」

「すみません、通ります」


 話しかけるなオーラをさりげなく出して通りすぎると、先に座っていたハルマの隣の席を引いて、俺をうながす。

 そして、エルは反対の俺の隣に座った。


 ……え、紳士?

 流れるような気づかいマックスのエスコートだったんだけど。


 しょぼんと肩を落としたアネモス先輩は、アドニスとボム先輩の間に腰をおろした。

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