19話
冬休み明け初日の登校日。
俺がアネモス先輩と決闘してから、もう一ヶ月が経とうとしている。
妖倒大会は結局、クラス対抗の部は十組の圧勝で、一、二年生の部も問題なく行ったそうだ。
あのときの俺は、魔力不足やら大量出血やらで本当に危ない状態だったらしく、七日間は寝たきりだった。
起きたら病院じゃなくて俺の部屋のベッドだったことには驚いたけど、俺は妖力を持ってるからな。
検診やらなんやらって、バレるリスクが上がるし。
ディルに診てもらうのが一番安全ってことなんだろうな。
「行くぞってば⋯⋯!」
「いやまだちょっと背中痛いかも? あー、腕また折れた気がするー」
「なわけあるか! 完治してるってディルも言ってただろ!」
「嫌だー。あと十時間くらいぃ⋯⋯」
「行く気ないだろ、それ!」
今俺はというと、すでにムリヤリ着がえさせられたにも関わらず、未練がましく部屋の扉にしがみついているところだ。
ハルマが俺の襟首をつかんで引っぱっていて、エルとディルは困ったようにそのやりとりを見ている。
⋯⋯あ、ちなみに、前の戦闘服は穴だらけのボロボロだったから、この機会に新しいデザインで発注中。
今着てるのは予備だ。
「離せよ。扉が壊れるだろ!」
「それはこっちのセリフだ! コアが離せ!」
「嫌だって言ってるだ、ろっ!」
服とハルマの手の間に魔力を膨張させ、物理的にすき間を作る。
十分に離れたところでパッと消すと、ハルマが勢いあまってよろけ、俺はニヤリと笑ってみせる。
「今日の俺は一筋縄じゃいかないぞ。なんたって気まずい⋯⋯うわっ!?」
タッと地面をけったハルマが、扉にしがみつく俺の手首をつかむ。
ゴオッとハルマの手から火柱が上がり、俺は思わずのけぞってしまった。
「しまっ⋯⋯! っておいっ、どこから縄なんか出して⋯⋯!」
「⋯⋯」
抵抗する間もなく、ハルマがプロもびっくりの早業で、俺を縄でぐるぐる巻きにする。
「一筋縄でいけたな」
縄だけに?
いやうまいな⋯⋯って、ふざけるな!
「まったくコアは⋯⋯」
「子犬がいくらほえても変わらないのにねー」
子犬!? まさか俺のこと!?
変わらないって⋯⋯さっきまでそんなふうに見てたのか!?
「当たり前だ。俺は能力を伸ばすために、稽古つけてもらってるからな。コアとはまず、練習量が違う」
ハルマは俺をわきに抱えると、エルとディルが待つ窓へと歩いていく。
「んーっ! んぅー!」
「はあ? 何言ってるか、全く分かんないなあ」
ハルマは俺の顔をのぞきこんで、口の端を上げる。
くっっっそ⋯⋯!
ハルマが魔力の扱いをこんなまで上げてるなんて⋯⋯!
ギリギリと歯を食いしばってハルマをにらむと、ハルマは楽しそうに笑って窓枠に足をかけた。
俺、行くなんて言ってない!
アドニスとも先輩たちとも、どんな顔して会えばいいか分からないから!
「んーー⋯⋯っ!」
俺の抵抗もむなしく、ふっと風が吹いたと思うと、まばたきの間に枯れ木の景色へと移り変わる。
体の芯まで一瞬で凍らせるような風がビシビシと額につき刺さり、俺は首を縮ませる。
寒すぎだろ⋯⋯。
戦闘服って、普通の服よりあったかいんだけどな⋯⋯。
「あ、変装しないと」
ふと思い出したようにディルが空中で刃物をとり出すと、躊躇することなく腕につき刺した。
何やって⋯⋯。
エルたちが獣型と人型を行き来するときみたいに、白黒のノイズがディルをおおう。
ランダムに穴があくみたいにノイズが晴れると、そこにはディル先生がいた。
ディルのヤツ、やっぱり能力で身長を⋯⋯!
「今の、誰かに見られてたらマズいんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。能力だって言っておけば、使い魔のうちはどうとでもなるよ」
「そうだといいけどな。⋯⋯そういえば、コアがうらやましそうにしてたぞ。こんどやってやったらどうだ?」
「コアが? でもコレは、慣れてないとけっこう体に負担がかかって⋯⋯」
エルたちがわいわいと話しながら、何度か着地してとび上がり、あっという間に学校へのワープ地点に到着する。
あーあ、もうムリだ。
俺が抵抗をあきらめると、ハルマは満足そうに息を吐き、エルとディルが苦笑した。




