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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 七章
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18話

「モック⋯⋯!?」


 なんでこんなところに寝転がってるんだ!?

 俺が気絶させた生徒はドローンが払ってくれたのに⋯⋯まさか、人数が多すぎて!?


「グルル⋯⋯」


 低いうなり声に、バッと振り返る。


 妖虎⋯⋯!


 魔力の壁じゃ受け止めきれなかったし、ここはよける選択肢以外はない。


 けど⋯⋯でも⋯⋯!


 一番モックに恨みがあるはずのハルマが手を出さなかったんだ。

 一番辛いはずのハルマが、攻撃されても傷つけなかったんだ。


 俺が妖虎をよけたら、モックに当たる。

 無防備だし弱いから、即死は確実だ。


 タタタッと俺をロックオンしたまま、妖虎が駆け出す。


「ガァアッ!」

「〜〜くそっ!」


 前足を振り上げた妖虎に背を向け、モックをかばうようにしゃがみこむ。


「カ、ハ⋯⋯ッ」


 背中の肉をえぐりとられる感覚に、目の前がチカチカと白く光る。

 ボタタタッと薄暗い草の上に重い液体が降り、それが俺の地だと認識するのに一瞬の間があった。

 足の力がぬけて膝をつくと、かすむ視界にしたたる血が映る。


「⋯⋯まだ生きているのか。やはり妖の体質を引きついでいるからか、しぶといね」


 ザクザクと落ち葉を踏みしめる音に、とびかけていた意識をなんとか保つ。


 ⋯⋯やっばり、気づいてたか。


 どうして分かったとか、俺らをどうするつもりだとか、聞きたいことはたくさんあるのに⋯⋯ダメだ、もう全く動けない。


 アネモス先輩はモックに視線を落とすと、ふっと鼻で笑った。


「人をかばって死ぬなんて、くだらない。散々手こずらせてくれたのに、これでは報われないね? ⋯⋯今度こそ、消してあげよう」


 後頭部で妖虎がうなり、首筋に生温い息がかかる。


 首か。これは死ぬな。


 折れた骨が変なところにでも刺さってるのか、ズキズキと痛む腕。

 痛いというより、熱い背中。

 頭がぼーっとしてるせいか、死に対する恐怖はなくて、浮かぶのは母さんや父さん、エルたちの顔だ。


 エルもディルも、こんな苦しい中で俺を守って戦ってくれてたんだ。


 ⋯⋯すごいな。


 妖虎の牙が、俺の首に食いこむ。


「待ってください!」


 ガササッとしげみが揺れる音がして、妖虎の牙が止まる。


 サーヴィル先輩⋯⋯?


「アネモス、やっばりやめよう? 俺たち、コアのこと何も知らないじゃないですか」

「だからなんだい? アドニスを傷つけ、苦しめた。誰であれ、重罪であることに変わりはないんだよ」

「そのことだって、ろくに調べもしてないんですよね。後で『やってなかった』じゃ、もう遅いんですよ!?」

「知らないね。疑いが少しでもあれば消す。それに、サーヴィルだって、もう共犯者だろう?」

「そう、ですけど⋯⋯」

「途中で足を洗っても、泥の跡は残るんだよ」

「だとしても! 俺はもうつき合えません!」


 ホントにサーヴィル先輩、なのか⋯⋯?


 声を荒げて反対するなんて、あのサーヴィル先輩からは想像できないけど⋯⋯。


「妖を引いてください」

「嫌だよ。アドニスの敵は全て、私が排除するんだから」

「そのアドニスに知られでもしたらどう思われるか⋯⋯うわっ!?」


 鳥妖が羽ばたく音がして、サーヴィル先輩がうめく。


「サーヴィルは大人しくしていてくれ」


 アネモス先輩の有無を言わせぬ冷たい声に、サーヴィル先輩は息をのんで黙る。

 ザッとアネモス先輩が俺に向きなおると、妖虎の牙が動き出す。


 死ぬ、のか。


 痛いなんて思わなくなってるけど、やっぱり少し寂しいな。

 もっとみんなと一緒に⋯⋯なんて、毎回同じ走馬灯だ。

 ちょっと、眠いな⋯⋯。


(ファイア)!」

「ガアッ!?」


 ゴオッと熱風が背中をかすめ、妖虎がひるんで俺から離れる。


「「コア!」」


 ふらりとよろめいた俺を、誰かが受け止めてくれる。


 エルと、ハルマ?

 二人とも、どうしてここに⋯⋯。


「ちょっとディル! 遅いよ!」

「二人が速いんだって⋯⋯って、どうしたの、これ」

「コア⋯⋯」


 あお向けに抱えなおしたエルは、なぜか妖力を送りこんでくる。


 もう何も見えないけど、ディルもハルマも言葉を失ってるのが伝わってくる。


「これは、私でも完全には治せない。一気に治すとコアの体に負担が大きすぎる。魔力が四分の一くらいまで減ってるから、自然治癒が止まってる状態だ。けど、魔力も自然に回復するのを待ったほうがいいから、エル、止めて」


 エルからの妖力が止まる。


「応急処置して、あとは安静にってところだね。⋯⋯はいじゃあ、チクッとしますよー」

「注射じゃないんだから⋯⋯」

「一年、先生、邪魔しないでくれないか」


 アネモス先輩が圧を発すると、妖虎が低くうなり声を上げる。


 けど、構わずディルは俺の傷に刃物を立てる。


「コアは私が、」

「姉さん、何をしているんですか?」

「消す⋯⋯」


 アドニスまで?


 アドニスのカタい声に、アネモス先輩の語尾が消えるようにしぼんでいく。


「もう一度聞きます。何をしているんですか?」

「これは、その⋯⋯! アドニスのためなんだ。本当だ、信じてくれ⋯⋯!」

「へぇ⋯⋯。僕のために人殺し、ですか。僕の姉さんなら、そんなことしませんけど」


 アドニスの声色が、軽蔑で冷ややかさを増す。


「アドニス、話を⋯⋯」

「アナタは姉さんなんかじゃない。二度と話しかけないでもらえますか」

「っ!?!?」


 ショックすぎて、声の出ない悲鳴。


 アドニスのこと、病的なくらい執着してるもんな。


 世界の終わりみたいな絶望の顔が目に浮かぶ、と思ったのを最後に、俺の意識はプツリと切れた。

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