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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 七章
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16話

「おっと、手が滑った」

「っ!?」


 全く覚えがないという顔をしていた俺にイラついたのか、アネモス先輩の妖が前足を振るう。

 とびのいてよけたけど、さっきまで俺がいたところには、鋭い爪がしっかり奥まで刺さってる。


 うわー、手が滑ったってレベルじゃないし、そもそもアネモス先輩の手は動いてないし。


 もしかして俺、けっこう強い殺意持たれてる?


「キミの疑問になど答えてやる理由はないが、一つだけ言っておこう」


 アネモス先輩のおし潰すような圧が、ブワッと格段にハネ上がる。


 思わずじりっと後ずさると、アネモス先輩は冷たいをこえて、俺のことはどうでもいいみたいな、無感情に近い視線を向けた。


「私のアドニスのために、消えてくれ」


 彼は腕を上げると、パチンッと指で音を鳴らした。


「ケットウ、ケットウ。アネモス、サーヴィル、コア。サンカシャイガイハ、スミヤカニハナレテクダサイ。クリカエス⋯⋯」


 上空で様子をうかがっていたドローンから、機械の音声が流れる。

 他のドローンからも鳴ってるのか、タイミングがズレてエコーがかって聞こえる。


 俺、まだ参加するなんて言ってないんだけど!?


「フィールドテンカイ」


 バチバチッと電気が爆ぜる音とともに、俺とアネモス先輩の間に白い光線が落ちてくる。

 それは花が開くように二年三組生徒をはじきながら展開すると、半球になって止まった。


 木々のせいで細かくは分からないけど、半径は七百メートルちょっとくらいか。

 上のほうも、俺が全力でとんでも余裕がありそうだ。


「ハジメテクダサイ」


 合図出してくれるんだ。審判的な?


「俺、やるなんて一言も⋯⋯」

「君の意思など聞いていない。ただ消えてもらうだけだ」

「やってることメチャクチャですよ、アネモス先輩」

「構わないよ。制裁を下すなら、手段は選ばない主義だからね」

「はは⋯⋯。冤罪だと思いますけど」


 余裕ぶるように口の端を上げるけど、内心あせりまくってる。


 俺はアネモス先輩みたいな精密な魔力操作はできないから、このすさまじい圧は受けっぱなし。

 それだけなんだけど、けっこうキツいんだよな。

 これ以上踏みこんだら、足がすくんで動けなくなりそうで。


 ⋯⋯情けないな。


 アネモス先輩の背後の影から、何かがヒュッととび出す。


「グアァアアアッ!」

「トラ⋯⋯!?」


 俺の何倍もあるトラが、丸太のような腕を振り下ろす。


 魔力の壁で軌道をそらしつつ、左にとんでよけると、今度は二匹のオオカミが木の影からとびかかってきた!

 コイツ、片方はさっきまでアネモス先輩の隣に⋯⋯!


 タンッと地面をけって真上の枝にとびつくと、ワシのようなタカのような鳥が待ちぶせてる!?


「クルルルル!」


 くちばしを大きく開けてかみつこうとするのを、魔力の壁で防ぐ。


 動物たちの連携がとれすぎてるし、明らかに俺だけを狙ってくる。

 初手のトラは、野生の動物だっていうにはデカいし色も変だ。

 だとすると、アネモス先輩の妖である可能性が高い⋯⋯!


 パッと枝から手を離すと、魔力で足場を作ってななめにとび、トラ目がけて足を振り下ろす。


 ドォンッ!


 大岩でも落下したかのような鈍音が響き、大量の砂や葉が煙のように宙を舞う。

 よけられて足を地面にたたきつけた勢いを利用して、アネモス先輩たちと距離をとる。


「へぇ、やるね。聞いていたより、ずっといい動きをする」

「⋯⋯それはどーも」


 アネモス先輩は感心したように息をついてみせるけど、その目に光はない。

 俺はパッパッと服を手で払うと、すぐに動けるように腰を落とす。


 ⋯⋯やっぱり、一切の気配も感じられなかった。

 目視してからの反応じゃ、いつもより背後が薄くなるな。


「コアは、アドニスのことをどう思っているんだい?」

「は?」


 ふと投げられた質問に、何言ってるんだという視線を向ける。


 今聞くことじゃないだろ。

 四方八方敵に囲まれてる、この状況でおしゃべりとか⋯⋯余裕の見せつけかよ。


「あー、そうだ⋯⋯ですね。頼れるリーダ、」

「違う!」


 違う!?

 俺のアドニスの印象の話だろ!?


 アネモス先輩はうつむいて、わなわなと震える。


「違う⋯⋯分かっていない。みんなそう言うんだ、頼れるとか面倒見がいいとかしっかりしてるとか。しかし違うんだよ。なぜ誰も気づかない? なぜ表面だけを見る? なぜそんなアドニスを祭り上げる? ⋯⋯いらないんだよ、そんなウジ虫ども⋯⋯!」


 バッと顔を上げた彼の瞳には熱がこもっていて、その異様な様子に思わず一歩下がる。


 なんか⋯⋯気温が上がったな?


「アドニスの! かわいいところは! なんといっても裏での努力に決まっているだろう! 優秀だ天才だと言われても慢心することなく、血がにじむような努力を続け、能力が弱小だと言われてつき放されようとも、めげるどころか睡眠時間をけずってまで特訓をする! これ以上に尊い存在がどこにいるだろうか! いやいるわけがない!」

「は、はあ」

「それに、知っているか。アドニスはああ見えて臆病なんだ。小さい頃は母上にしがみついてしかトイレに行けなくて、夜は早寝のお利口さんだったんだよ。天使と見間違うごときかわいさに、私は胸がギュッとなってね⋯⋯あいや、今でも十分かわいいが、その当時は⋯⋯」


 キラキラ輝く瞳で熱弁が始まり、俺はぽかんと口を開ける。


 マジで、アネモス先輩とアドニスとどういう関係なんだ?

 この熱量、まれにテレビで見るオタクってやつみたいだ。


 ここまで詳しいと、血縁関係とかか?

 家族は両親と姉たちだけで、兄弟はいないって聞いてる。

 従兄弟(いとこ)とか再従姉妹(はとこ)って線はあるかもだけど、そもそも俺が見てるところでアドニスとの接触はなかった。

 というかむしろ、アドニスをさけてるみたいだった。

 アドニスはアネモス先輩を知らない?

 だとしたら、ここまでの情報はムリ⋯⋯。


 はっ、まさか⋯⋯ストーカー!?


「アドニスは清楚に見えるだろう? しかし大切なことがある日のパンツは、ドクロの柄がついたものなんだ」


 うわっ、なんでそんなこと知ってるんだよ。

 やっぱり、こっそり部屋をのぞいたりしてるのか!?


「私の背中の右上には、大きなホクロがあってね。アドニスとおそろいなんだよ」


 背中⋯⋯ホクロ⋯⋯。


 大丈夫か、これ。通報レベルじゃないか?


 アネモス先輩は子どものように無邪気に笑いながら、アドニスについての豆知識をノンストップで話し続ける。

 徐々にヤバいヤツだとさとった俺は、サーヴィル先輩に助けを求めようと探すも、姿が見当たらない。


 って、アネモス先輩の後ろの木に隠れてる!?


「⋯⋯おっと、私としたことが、つい話しすぎてしまったようだね」


 アネモス先輩はハッと我に返ると、無機質な笑みをとりつくろう。


「これで私のアドニスへの愛は分かってもらえたと思う」

「それとこれと、なんの関係があるんですか。俺のせいでアドニスが苦しんでるって、苦しませるようなことした覚えはないんですけど」

「自覚なしか。キミの行動のせいでアドニスが大声を上げていたこと、私は聞いたよ」


 アドニスが大声を上げる?


 パッと思い浮かんだのは、モックとのことで怒りだしたことだ。


 でもあれは、アドニスが勝手に怒って出ていっただけで。

 苦しんでたなんて、そんなふうには⋯⋯。

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