14話
手を伸ばせば、どこにいても木に触れられるほどの群生地。
人も獣もあまり通らないのか、一歩一歩沈む土。
冬だからか地面は枯れ葉の絨毯状態だけど、木にしがみついている葉は、満月の夜を錯覚させるくらいに影を落としていた。
「ここどこだよ⋯⋯」
そして、絶賛迷子中の俺。
気がついたらこんなところにいて、スマホでエルたちに連絡しようとしたけど、電波が圏外で使えなかった。
気配を探ろうにも、特殊な場所なのか、みんなの気配が何個にも錯乱して分からなかったし。
きたことないとはいえ、ユーレイにビビって暴走したあげくはぐれたとか、恥ずかしすぎる⋯⋯!
エルの暴走と変わらないじゃん!
情けなさのあまり顔が熱くなっていくのを感じていると、背後から何かがヒュッととびついてきた!
振り返ると同時に魔力の刃を振るうと、ソレに触れて魔力を流す。
ゆがんで回って水晶になったソレは、ウサギかタヌキか分からないような妖だ。
「はー⋯⋯。さっきからこんなんばっかりだ」
俺はため息をつきつつ、水晶をポーチにしまう。
しげみから、好戦的な視線が絶えず俺をうかがってる。
そろそろ、水晶の入れすぎでポーチが重いんだけど⋯⋯。
下級から中級までしかいないとはいえ、数が数になってくるとなあ。
もう一度ため息をつき、出口を探して足を進める。
俺の予想では、ここはこの訓練場の中でも、電波も気配探知も阻害する異質な場所で、迷宮みたいになってる。
事実、歩いても歩いても妖以外に生き物いないし。
人の影一つないってことは、入ったらダメだって説明があったか、暗黙の了解か。
逆に考えれば、俺がこんな状況だから十組の脱落はないってことだけど。
あの先輩たちのことだ、もう終わってるかもな。
「⋯⋯使い方、次第」
俺はふとアネモス先輩の魔力の使い方を思い出し、威嚇のときみたいに雑に魔力を放出する。
下級の妖は驚いて逃げていったみたいだけど、違う。
アネモス先輩のはもっとこう⋯⋯おし返すみたいな感じだった。
空気の塊だけど、物理的に触れられるとかじゃなくて⋯⋯。
「ピィァッ!?」
「ヤバ」
魔力の調整がうまくいかず、固くなりすぎて壁を作っていまい、また背後からとびかかってきたらしい妖をはじきとばしてしまった。
魚とネコを合体させたみたいな妖は、ベチャッと地面に落下すると、慌てて逃げていった。
⋯⋯ああいう妖って、食物連鎖的に大丈夫なのか?
炎の中につっこまれたりしたら、自分がおいしそうに見えたり⋯⋯あ、妖だから食べたいとか思わない?
「っ!」
「あっ!? 俺の炎をよけるなんて、生意気だぞ!」
右耳の後ろが熱く感じ、半身で振り返ると、目の前を真っ赤な炎がうねっていった。
遅れて背後のしげみから姿を現したモックは、何やらわけの分からないことをピーピーわめいている。
どいつもこいつも、背中を狙うのが好きだな。
俺は手で頭を払い、モックを横目でにらむ。
「一人か? 囲われて育ったお坊ちゃんにしては、身の丈に合わない自信だな」
「なんだと⋯⋯っ」
モックは頭に血がのぼったのか、両手に炎をまとわせる。
けど、我に返ったようにセキ払いをすると、俺を指さしてふんぞり返った。
「ふ、ふんっ。強がっていられるのも今のうちだ。出てこい、キサマら!」
俺を囲むようにがさがさと葉が揺れると、九人の生徒が姿を現した。
⋯⋯やっぱり、気配を感じられなかった。
一歩で間合いに入れる距離なのに、実際に見るまで、モックが本当に一人できたんだと思ってた。
こんなこと、初めてだ。
「聞いたぞ。キサマ、アレと仲がいいんだってな。かくまってるそうじゃないか」
「アレ?」
「やだなァ、とぼけんなよ。ハルマティアのことだ。キサマ、アイツが何か知っててやってるんだろ。重罪だぞ?」
「⋯⋯お前、まだ言うか」
やっぱりコイツ、嫌いだ。
こんなのが世界に存在するなんて、考えるだけで吐き気がする。
俺が低くつぶやくと、モックたちはひるんだように後ずさる。
「こっ、この数ならキサマなんか、灰になって終わりだ!」
モックはムリに笑うと、バッと腕を広げた。
「やっちまえ!」
パチパチッとかボッとか能力を発動させる音がして、俺は俺を囲うように、魔力を四角い箱に変形させる。
ドウ⋯⋯ッ!
真っ白に発光する世界に放りこまれたみたいに、全方向から光が降りそそぐ。
岩かなんかもぶつけられたみたいで、地面が上下にハネる。
「アッハハハハ! どうだ! 参ったか! この俺にたてつこうなんて、二度とかん、が、え⋯⋯」
さあっと風が吹いて、巻き上がった土煙が上空へとさらわれる。
「下級もやっとの不出来な見習いに、俺が殺せると思ったか?」
信じられないというより化け物を見るような目で、口を開けているモック。
⋯⋯今のが、全員の最大火力ってところか。
なめられたものだな。
「バッ、バカなッ! 今のは校長も認める威力だぞ⋯⋯!?」
「ハッ。そんなんじゃ、中級の下のほうも倒せないぞ」
「一組のヤツらも、重傷を負わせることはできて⋯⋯」
「へー。お先真っ暗だな」
一組って、つまりは各学年の最強クラスだろ?
こんなヘッポコ攻撃にやられるようじゃ、もう一年で資格狙うのはムリだろ。
「バカにするな!」
「実際そうだろ」
俺が鼻で笑うと、モックはギリッと奥歯をかんだ。
⋯⋯さて、そろそろ終わらせるか。
こんなくだらないことに時間食うわけにはいかないし。
俺は地面をけると、反応できずに固まってる生徒の背後に回る。
とんっと手刀で首をたたいて気絶させると、すぐに次。
「なっ、なんだ!? ヒッ!」
一周回ってモックの背中をとると、モックはバッと振り返ってしりもちをつき、必死の形相で後ずさる。
「ヒドいなあ。自分もそうやって追いつめたくせに」
「く、くるなッ!」
「まだ俺、お前になんもしてないだろ。知ってるか? 自分でしたことって、自分に返ってくるんだぜ?」
一歩一歩枯れ葉を鳴らしながら、モックに歩みよる。
情けなく涙と鼻水をたらすモックの背中に魔力の壁を作ると、彼はドンッとぶつかって絶望の表情を見せた。
「お前の全てが、ムカつくわ」
「ヒイッ!」
ダンッとモックの顔の横に足をつくと、モックは魔力の壁を破らんとする勢いで後ずさろうとする。
俺は、そんなモックを殴りたい衝動をおさえ、怒りを煮やして冷たく見下ろす。
「この勝負、俺らの勝ちだなぁ?」
「わっ、わかったっ⋯⋯! 俺の負けだっ⋯⋯!」
「じゃあ言えよ。今後一切、ハルマに、俺らに手を出したりしないって」
「そ、それは⋯⋯」
モックがこわばった表情のまましぶり、俺はガンッと魔力の壁をける。
「ヒッ⋯⋯!」
「言えよ」
「わかった! わかったから⋯⋯! もうアイツには関わらない! キサマらにも近づかない⋯⋯っ!」
よし。言質はとった。
俺がパッと魔力の壁を消すと、モックは勢いあまってゴロゴロと後ろに転がっていく。
モックの背後に回ると、気絶させるべく手刀を振るう。
「くそっ、話が違っ⋯⋯!」
モックは気絶すると、地面に顔からつっこんで倒れた。
痛そー⋯⋯なんて一ミリも思わない。自業自得だ。
そういや、気を失う前になんか言ってたな。
話が違うって、どういうことだ?
まるで、誰かにのせられたみたいな⋯⋯。
「⋯⋯いや、やめよう」
俺は軽く頭を振って、考えるのをやめる。
モックのことだ。どうせ、しょうもないことだろう。
「えーっと、スイッチおして脱落させるんだっけ。って、やっぱけっこう固⋯⋯」
俺はモックの正面に回って、胸の中心につけられたスイッチをおす。
十人分も一人でおさないといけないのか。メンドくさいな。
緑から赤へと色が変化したのを確認して、他の生徒の元へと歩いていく。
もう、モックに約束はのませたんだよな。
この大会に参加する意味は果たせたんだ。
「うわ、コイツ、髪の中に隠してるんだけど⋯⋯」
今すぐ放棄したいくらい面倒なはずなのに、嬉しくてあっという間に終わった。
あとは、この森から出てエルたちと合流だな。




