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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 一章
7/78

7話

「無防備だね、君は」


 耳に吐息がかかり、ゾッと背筋に寒気が走った。


 エルが肩ごしに妖をにらみつけるけど、当の本人はどこ吹く風だ。


「ただの妖倒士だったら見逃してもいいとこなんだけどさ。指名手配されて、地位もかけられてるんだよねぇ、エルサマ?」


 ⋯⋯指名手配? 地位をかける?

 なんだ、それ。エルのやつ、何か悪いことでもしたのか⋯⋯?


 妖の目が、白く光る。


 エルも金色に光らせようとするけど、妖力切れだ。

 弱々しく点滅して、消えた。


「うっ⋯⋯!」

「エルサマは無理かぁ。今の僕なら、操れると思ったんだけど」


 じゃあ、と妖が俺をのぞきこんでくる。


「ケケケッ。簡単にかかったぁ。二つの能力の行使は難しいもんねぇ」

「コ、ア⋯⋯!」


 見てるはずなのに、聞いてるはずなのに、俺だけ水の中にいるみたいに、はっきりと感じとれない。


 頭にも霧がかかっているみたいに真っ白で、何も考えられない。


 エルが必死に口を動かしている気がするけど⋯⋯何言ってるか、全く分からない。


 しゃべったら、ダメだろ。傷、やっと少し治ってきたところなんだから。


「あれ。なんで能力を使い続けてんの? ほら、やめろ。おい、やめろって!」


 何か命令されている気がするけど、従う気になれない。


 従ったら、後悔する気がしたんだ。


「おかしいな。術はかかってると思うんだけど⋯⋯」

「コア⋯⋯?」


 バンッともみあうような音がして、俺は沼の底から意識を引っ張りあげられた。


「LEVEL4、分解(ディサセンブル)


 妖に馬のりになったエルが、瞳を金色に光らせる。


 妖の胸に食いこんだ指から妖力が流れ、妖の全身をザァッと滑った。


「ぐぅっ、ああぁあぁあああ!」


 苦しくても暴れられない妖を、エルは冷たく見下ろしている。


 エルは、妖力や魔力のあるものを自由に操ることができるんだ。

 一定以上離れていたり、妖力や魔力が多かったりすると、無条件でっていうわけにはいかないけど。


 パァッと一面が白く染められ、俺は目を腕でかばう。


「コア、コア。とどめ、さして」


 トントン、と肩をたたかれ、腕を下げる。


 グッタリと頭を横にした妖の顔は、青ざめている。


 人食いの妖。

 人間を襲う理由、聞けなかったな。それどころじゃなかったけど。


 エルが妖のあごを、クイ、と上げる。


 俺はいつものように、人さし指に魔力を集めて歯車みたいな形にし、腕を振り下ろして一息に首を切断する。


 ピシャッとはね散る血を服で受け、妖の体に触れて魔力を流す。


 すると、とび散った血も妖の体も、洗濯機に回されるみたいに回転し、手のひらサイズの白い水晶になった。


「終わったぁっ」


 後ろにひっくり返ったエルは、眠たそうに腕で目をおおった。


 カーテンのすき間からもれ出す光は、白い。


 もう朝か。今回は長かったな⋯⋯。


 俺は腰のポーチに水晶を入れると、四つんばいでエルに近づき、そっと首に手を当てた。


 傷跡一つない、真っ白な肌。


 ⋯⋯俺、こんなにキレイに治癒できたか?


「コアってば、急に妖力を送ってくるから、ビックリしちゃった。前から器用だとは思ってたけど、ここまでくると、修行次第では最強だなぁ」

「妖力? 俺は人間だから、魔力しか持ってないぞ。妖力なんて、使ったことない」

「え? でも、たしかに妖力だったよ? コアにもらった妖力で傷を回復したんだから」


 エルが、手で床をおして体を起こし、瞳を光らせてみせる。


 ⋯⋯本当だ。ほぼ空っぽだったはずなのに、エルはちゃんと妖力を回復しつつある。


「コアは、理由は分からないけど、魔力も妖力も使える。僕の出番、なくなっちゃうかもしれないねぇ」

「いやいや、マズいだろ。それって俺、人間でも妖でもないってことだろ? 今後、どうすればいいんだよ⋯⋯」


 人間じゃないから、妖倒士としていられない。

 妖じゃないから、妖からしても敵ってことになる。


 俺、もしかして居場所がないんじゃ⋯⋯。


 そう考えていると、エルは馬鹿にするように鼻で笑い、キリリと真面目な顔を作った。


「コアのいるところが僕の居場所なんだから、コア自身が居場所なんだよ」

「それじゃあ不安すぎるだろ⋯⋯」

「バレなかったらいいんだよ。知らなければ、ないも同然でしょ? 堂々としてていいんだよ」

「いいわけないだろ」


 ⋯⋯でも、エルだけは、人間も妖も敵になったとき、俺のそばにいてくれそうだな。

 今は、その安心感だけで十分だ。


 フイッとそっぽを向いて、ありがと、と口を動かす。


 小さく吹き出す声が聞こえてエルを見ると、口をおさえて肩を揺らしていた。


「エルっなんで笑うんだよっ」

「ごめっ、コアってば、素直じゃないんだから⋯⋯!」

「何してるんですか」


 冷たく響いた声に、じゃれあっていた俺らはピタッと動きを止める。


 リビングの入り口で、大人びた雰囲気の女の子が、俺らを警戒の目つきで見ていた。


「⋯⋯もしかして、この家に住んでる、お姉さんですか? 勝手にお邪魔してすみません。この村の人食い事件を調査しにきてまして、弟さんに話をうかがっていたのです。もう帰りますので⋯⋯」

「ノア?」


 エルにペッと放り出された俺が、ポツリとつぶやく。


 エルは驚いたように目を見開いて俺を振り返り、少女は不審者を見るような目で、一歩足を引いた。


 ⋯⋯ノア? ノアって、誰だ。


 あの少女とは、話したことはおろか、会ったことすらないはずだ。


 一つに結んだ金髪の長い髪。

 真っ白な羽根を背にたたんでいて、耳はピンととがっている。


 ときどき金色の小鳥になったりして、妖だったのかもしれない、なんて⋯⋯。


 ⋯⋯違う。目の前の子はその子じゃない。俺の知っている子じゃない。


 髪は黒色だし、羽根もなければ、耳もとがっていない。

 雰囲気だって、似ていない。


 だけど、ずっと探していたものが見つかったみたいに、心の底がうずく。

 心臓が耳元で鳴っているみたいにうるさい。

 息を吸うばっかりで、吐けない。呼吸が苦しい。


 俺と少女を交互に見ていたエルが、ハッと息をのんで俺をおぶった。


「じゃあ、僕たちはこれで。失礼しましたー!」


 エルが窓を開け、外にとび出す。


 頬をなでる風が、ほてった体を冷やす。


 気持ちいいな⋯⋯って、空をとんでるのか!?


「コア。一旦落ちついて、家まで寝てるといいよ」


 エルが首を回し、俺と目を合わせる。


 金色に光った瞳に、泣きそうな表情の俺が映った。


 一瞬にして沼に引っ張りこまれた俺は、フッと落下する感覚と同時に、意識を失った。

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