12話
「それではみなさん、ご準備願います」
準備? なんだそれ?
何かの合図なのか、その場の生徒全員が両手でおわんのような形を作る。
エルも知らないみたいで、周りの生徒の見よう見まねで手を動かす。
えっと⋯⋯こう、か?
校長は、確認するようにぐるりと生徒を見回す。
そして、胸の前で手を合わせるように、パンッと手をたたいた。
「っ!」
スイッチが手に⋯⋯!
これが校長の能力か?
「今から三年生の部を行いますので、三年生のみなさんはすぐにスイッチを体につけて、それぞれ担任の指示に従って位置についてください」
校長は役目が終わったとでもいうように、パンッと手を鳴らす。
手元に折りたたみ式の椅子が現れると、それを開いてよいしょと座った。
うわ、いいなー。
地面にずっと座ってると、ケツ痛くなってくるんだよな。
「アネモス、ボム、ハータッチ、サーヴィル。初めまして、ディルです。最近、十組の総合担任になったんだ。よろしく」
「知っていますよ。爽やかイケメンの先生が入ってきたと、学校中で話題ですから」
「本当? 恥ずかしいな⋯⋯」
「何っ!? 貴様があの⋯⋯。ふむ、悪くはないが、俺様のほうが美しいな」
「あはは。そうだね。じゃあ、四人ともついてきて」
ディルは品定めするハータッチ先輩をテキトーにあしらうと、四人を正面の森の中へとつれていった。
あっちのほうって、行ったことないな。
いつも使ってる訓練場よりもずっと北は、一組から九組が使うって話だし。
「なあ、こっちのほうって⋯⋯」
どうなってるんだ、とハルマに聞こうと上半身をひねった俺は、その奥に座る人を見て、言葉を止めた。
「アドニス!」
アドニスは、気まずそうに視線を落としてうつむいている。
アネモス先輩に、そのうちくるよってはぐらかされてたけど、よかった、ちゃんときた⋯⋯!
「今気づいたのか」
「え、いつからいたんだ?」
「コアが前向いた直後くらいから」
「そんな前に? 全く気づかなかった⋯⋯」
俺が目を丸くすると、エルとハルマがあきれたため息をつき、ハルマの隣のレイラが、ドンマイと笑う。
いつもなら、気づくはずなんだけどな。
気がゆるみすぎか?
俺が気合を入れるように頬をたたくと、左胸につけたスイッチがピピッと鳴った。
「え⋯⋯」
警告音、か?
って、たたいたのはスイッチじゃないし!
これダメージ判定で失格とかはない⋯⋯よな?
俺のあせりをよそに、パッと目の前に半透明の画面が現れる。
スイッチから映し出されてるみたいで、俺らの画面には、円になって何かを話している十組の先輩たちが映っている。
「始めっ!」
校長の鋭い声が頭の上から聞こえ、顔を上げる。
真っ青な空を悠々ととんでいるのは、数機のドローンで、小型だからか動きが速い。
ガラス玉みたいなレンズがうめこまれてるのを見るに、たぶん撮影用だろう。
この画面に映る映像も、あのドローンがとって⋯⋯。
「あれ。さっき始まったばっかだよな? もう先輩たち、敵のスイッチおして⋯⋯」
「そこまでっ!」
ひっくり返った三年生のスイッチをアネモス先輩がおすと、校長の鋭い声が再び響く。
はあ? そこまで?
まだ、開始五分も経ってないのに!?
「まさかとは思うけど、コア、見てなかったの?」
「圧勝だったぞ」
「うんっ、うん⋯⋯っ」
「開始と同時にさ、木の影からバババーッて人が出てきて! でも一瞬で片づけちゃってさ!」
「ねー! 十組は人数が少ないから、さっさと全滅させられると思ったんじゃない?」
エルたちは、目で追えなかったとか誰の能力だとかいう話で盛り上がり始める。
見てなかった俺は、当然ついていけず、半透明の画面に目を落とす。
よく見ると、先輩たちの足元には、全三年生の半分以上の人たちが、気を失って転がっている。
これ全部、十組を奇襲しにきた人たちだよな。
どうさばききったかはさておき、相当の人たちが十組をなめてかかったってことだ。
まあ、人数少ないし、しょうがないかもだけどな。
「⋯⋯アネモス先輩とハータッチ先輩しかいない」
次々と担架にのせられていく生徒たちを、つまらなそうに見ているアネモス先輩。
お決まりのようにふところから手鏡をとり出し、ポーズをとってうっとりしているハータッチ先輩。
ボム先輩とサーヴィル先輩がいない。
始めの合図まではいたはずだ。
戦闘の途中でぬけたのか?
「初めのほうに、ボム先輩とサーヴィル先輩は離れていったよ。様子見てた感じだと、そっちでも同じようなことが起こってたけど」
俺のつぶやきを拾って、エルが答えてくれる。
同じようなことって、十組集中攻撃からの返りうち?
でもどうせなら、固まってたほうがやられる可能性は低くなると思うけど⋯⋯。
敵を分断してって作戦だったのかもな。
「ありえないっ! こんなのイカサマだっ!」
どこかで聞いたことがある声に視線を向けると、モックが立ち上がってわなわなと震えていた。
「十組は劣等クラスなんだぞ!? いくらアイツらが異端だからといって、こんな無様な敗北など⋯⋯っ!」
「誰が異端だって?」




