11話
そしてむかえた妖倒大会当日。
昨日は終業式で、今日は冬休み初日のはずだった。
アドニスをぬいた俺ら一年十組は、訓練場から数百メートル離れた広場で、列になって並んでいた。
左を見ると、エルの向こうに数えきれないほどの人がお利口に座っていて、いろいろな形状の戦闘服をきている。
っていっても、貴族風か騎士風のパンツスタイルがほとんどだけどな。
アネモス先輩の話によると、各学年九組が、それぞれ代表の十人を出場させてるんだそうだ。
どいつも選りすぐりの、すごいヤツらなんだって。
そして、結局アドニスが教室にくることはなかったし、俺もあの声のことは誰にも相談していない。
アレが何か、本当は知りたかった。
俺は無知だから、エルやディル、ハルマに聞いたら分かったかもしれない。
じゃあ、なんで聞かなかったかって?
⋯⋯恥ずかしいからに決まってるだろ。
十二にもなってオバケ怖いとか⋯⋯笑いもんの的だ。
「アレって十組だろ? 劣等クラスのヤツらだ」
「モックにこてんぱんにされたんでしょ?」
「あーそれ。モックは強いもんな」
「今回の大会参加は、仕返しのつもりってウワサもあるよ」
「え、マジ? モックに勝つなんてムリだろ」
あざ笑うようなバカにするような視線が、ずっと俺らを向いてるのはなんでだよ。
ヒソヒソ話してる内容、ほとんど意味分からないし。
俺が聞こえないフリをして前を向いていると、とん、と後ろから肩をたたかれた。
「モックは俺の兄な。二年十組だから、ここからじゃ少し遠いな」
「いや、むしろ遠くてよかっただろ」
遠くても人にうもれてても感じられる、強気な視線。
アレがモックだな。
「それより、三組ってことは強いのか?」
「あー⋯⋯まあ、そうだな⋯⋯」
歯切れの悪さに俺が身をよじると、ハルマはなんとも言えないビミョーな顔をしていた。
つっこみすぎたか?
「ごめん。嫌だよな、虐待受けてたヤツの話なんて⋯⋯」
「いや、そういうんじゃなくてだな。その、なんていうか⋯⋯」
ハルマが言葉を探すように、首に手を当てて視線をさまよわせる。
「はっきり言っちゃえばいいのに。弱いって」
エルがなんでもないように言うと、さっと空気が凍りついた。
「エル、バカッ」
「え?」
ハルマはあせったように顔をこわばらせ、エルはきょとんと首をかしげる。
たしかに、頑張って下級くらいだろうなと、モックにちらりと視線を流す。
「モックが弱いだって。劣等クラスの落ちこぼれのくせに⋯⋯」
「下級の妖を一人で倒せるくらいなんだぞ」
「将来エリートだって言われてるモックをそんなふうに見てるなんて⋯⋯!」
氷の内側から一気に炎が燃え上がるみたいに、俺らに非難の視線が集中する。
モックのところまで聞こえたのか、ぶっ潰してやるみたいな表情でにらんでるし。
すごいな、敵意ばっかりだ。
⋯⋯隣の列は、九組か。
先頭のほうから殺気がバシバシ伝わってくる。
魔力量が多いヤツがいるのかもな。
コンッ!
「痛ぁ!?」
誰かが投げてきた爪ほどの大きさの石を、魔力の壁でハネ返して送り返す。
まさか返ってくると思わなかったのか、八組辺りで悲鳴が上がり、ざっと波が引くように静まりかえった。
くだらないな。
自分でしたことが返ってきただけだろ。
「⋯⋯あー、ゴホン」
タイミングを見計らったように、前で真っ白なヒゲをたくわえたおじいさんが、セキ払いをした。
俺はひねっていた腰を戻し、座りなおす。
「えー。本日はお日柄もよく、天候に恵まれた日となりまして、絶好の妖倒大会日和にございます。選手のみなさんも、教室で見学しているみなさんも、一人も欠けることなく⋯⋯」
⋯⋯えー、これ、長くなる?
前でしゃべってるのって、校長だよな?
俺らがあいさつに行ったとき、それはもう、最っっっ高のお出むかえでな。
ノックしても返事ないわ、入ってエルが話しかけても会話する気ないわ、一人でコーヒー飲んで散々待たせたあげく、「目ざわり」の一言。
エルが止めなかったら、机とコーヒーカップ粉々にしてたわ。
「⋯⋯では、冬の妖倒大会、盛り上がっていきましょう」
ハッと意識を戻すと、校長の後ろに十数人の教師らしき人たちが立っていて、何かを手に振りかぶっているところだった。
パパパァンッ!
クラッカーみたいな破裂音が彼らの投げた玉から鳴り響き、細かな色紙がくるくると回りながら宙を舞う。
⋯⋯手動、なんだ。
「今回の種目ですが、例年どおりですと、不慮の事故等をさけるため、生徒同士での能力の行使を禁止しておりましたが、妖倒士長様より通達がありましてですね」
校長はそこで言葉を切ると、鼻の頭に乗った紙をぺっと手で払った。
「『敵のふところにとびこめ! ドキドキ☆急所破壊ゲーム!』に決定いたしました」
いや、名前ダサッ。
幼児が行くようなテーマパークにありそう⋯⋯。
「ルールはとてもシンプルなもので、選手のみなさんはコレを、頭、首、胸、のどこかにつけ、守ってください」
校長は手のひらサイズの丸いスイッチのようなものを、自分の左胸につけてみせる。
「クラス対抗なので、みなさんは他クラスの人のコレをおしに行ってください。能力でおすもよし、気絶または戦闘不能にさせてからおすもよし。復活はなしで、自分のクラスの人全員がおされたら脱落。つまり負けです」
スイッチに指を当てた校長は、ぐっと力をこめておす。
すると、緑色に光っていたスイッチは、赤色へと変化した。
なるほど、けっこう固そうだな。
触れるだけじゃ、ダメってことか。
「それではみなさん、ご準備願います」




