8話
ふっと外から風が吹きこんできて、ある案が頭に浮かんだ。
「回せ、エル」
俺らとアルトたちの間くらいに、等身大の三枚刃の魔力を、扇風機をイメージして形作る。
声に魔力を乗せてエルに命令すると、ソレはゆっくりと回り始めた。
煙を吸ったらダメだから、エルに説明はできない。
察してくれっていうのも、ちょっとムリあるだろ?
でも、はやめに煙はなくさないとだから、命令を使わせてもらった。
煙は唯一のはけ口である開け放たれた扉に、吸いこまれるように流れていく。
「ふーむ。やるなあ一年!」
「おわっ!?」
晴れていく視界に、ドアップの人顔が浮かび上がり、ズザザーッととびずさる。
なっ、なんなんだ⋯⋯っ!?
目と鼻の先っていうか、もうほぼ当たってたぞ!?
「ボム。キミは人との距離が近いのだから、少し離れるように意識したほうがいいと言っただろう? 特に、初対面の人にはね」
「そうかそうか、近かったか! 悪かったな一年! アネモスも、次からは気をつけるとしよう!」
「ああ。すぐにでもそうしてくれ」
ボムと呼ばれた大柄な男の人が、豪快に笑いながら、アネモス先輩の肩をたたこうと距離をつめる。
アネモス先輩は、笑顔でさりげなく間に妖を挟んだ。
⋯⋯あっちはあっちで、苦労してそうだな?
「ハルマはっ」
「無事だよ。僕が定期的にハルマの魔力イジってたから操れただけで、ほんと、ラッキーだったねぇ」
いつの間にかエルが隣に立ってて、ふわあとあくびをした。
けど、エルの手は空っぽだ。
不純妖をつかまえたときみたいに、ハルマを手元に引きよせてたと思うんだけど⋯⋯。
「手ぇ放したら、すぐとび出して行っちゃってさぁ。⋯⋯ほら、あそこ」
エルが指さした先には、二人の見知らぬ人がいた。
その片方、ダークブラウンの長髪の男の人に、ハルマは腕をつかまれていた。
「はな、せ⋯⋯っ。俺はっ、条件をとり消しに⋯⋯っ」
「ダメだ。この俺様が、さ☆ら☆に☆輝く舞台のために、貴様らが必要なのだから」
彼はササッと滑るようにステップを踏むと、ハルマの腕を引いて、ガッチリ腰に腕を回した。
「何するんだ⋯⋯うわっ!?」
「知ってるかい? 妖倒大会では、最低でも二学年は出ねばならんのだ。二年生は出ないだろうから、俺様たちが出るには、一年生に出てもらわなければならない」
話しながらも、流れるようなステップでハルマが逃れようとするのを防いでいる。
ぶっ。ハルマが社交ダンス踊らされてるぞ⋯⋯!
あのしかめっ面、傑作だなぁ!
「それとモックの条件と、なんの関係があって⋯⋯」
「負けたら貴様ら⋯⋯一年十組を好きにしていいという条件。不戦敗はありえないだろう?」
「っ!」
「貴様らは絶対に参加させる。ゆえに、貴様は行かせん」
「この⋯⋯っ!」
ハルマがギリッと奥歯をかみ、右足で長髪パートナーの足を狙う。
けど、彼は華麗な足さばきでハルマの攻撃をよけ、受け流し、誘導する。
すごいな。
あのハルマの攻撃を、全く食らわないなんて⋯⋯。
「この、キラキラと俺の健康に悪い粒子をふりまく陽キャどもめ⋯⋯! 腐って灰になって空にとばされてしまう⋯⋯俺にはまぶしすぎるんだよ⋯⋯! 帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい⋯⋯ぁいや、俺が帰ったら寮の空気が湿ってしまうのか⋯⋯」
膝を抱えて座りこんだもう一人の先輩は、体を丸めて、ブツブツと壁に向かってつぶやいている。
ネオンに近い、明るい紫色の髪は雑に切りそろえられていて、戦闘服の形状も相まって、ダンゴムシに見えてきた。
あの人、ホントに妖倒士志望⋯⋯?
どう見ても、妖と戦えるとは思えないけどな。
「と、いうわけなんだよ。十組は今回、妖倒大会に出場する。もちろん、」
ボム先輩をなんとかひっぺがしたアネモス先輩が、三人に目配せする。
彼らはさっと表情をかえ、アネモス先輩の後ろにひかえるように立った。
「我々三年十組も、勝利のために全力をつくそう」
アネモス先輩が片手を胸に当て、ニコッとほほえむ。
うっ、今すごい背中がゾワッてした⋯⋯!
うさんくさいっていうか、絶対に何か裏があるって!
よく考えると、先輩たちの行動は突然すぎるような気がする。
興味がわいたっていうのは、そんなに大きな原動力になるか?
ほぼ一年間、一度も姿を現したことがない。
毎シーズン開催されてるにも関わらず、不参加だった妖倒大会。
今になって出ようと思った理由が分からない。
衝動的で片づけるには、不自然なところが多いわけで⋯⋯。
「離せって!」
ハッと顔を上げると、ドアノブにしがみついたハルマが、アネモス先輩の妖にはがいじめにそれていた。
何やってるんだ、アイツ⋯⋯。
そこまでして外に、自称兄に条件変更しに行きたいのかよ。
俺があきれてため息をつくのと、ハルマが叫ぶようにわめきだしたのが同時だった。
「アイツの非道さを知らないから『好きなように』とか言えるんだ! 負けたらみんなまでアイツに使い潰される! そんなの絶対に⋯⋯っ!」
「勝てばいいだろ」
苦しそうに叫ぶハルマを見てられなくて、俺はハルマの正面に回りこむ。
そして、ぎゅっと両手で頰を挟んで黙らせる。
「勝てば、アイツがハルマに手を出してくることはなくなる。条件をなくす理由なんかない。むしろありがたいくらいだ」
「でみょっ⋯⋯!」
「あーもう! うるさいなあ! 負けるわけないだろ!?」
食い下がるハルマに、ヤケクソ気味にたたきつける。
ハルマは、驚いて目を丸くする。
なんとしても勝つ。で、条件を守らせる。
俺が、あんなヤツらに負けるなんてありえない。
「だから、もう苦しい表情するな」
ハルマのオッドアイが、衝撃を受けたように震える。
自分が苦しんでる表情してたことに、今気づいたみたいに。




