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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 七章
63/78

6話

「まさか、このまま帰ろうとか、思ってないよねぇ?」

「いっ、いやあ?」


 思ってました。

 はやく帰りたいデス⋯⋯。


 俺が思いっきり目を泳がせると、エルはあきれてため息をついた。


「コアが原因でこんなことになってるんだから、まずアドニスを追いかけなきゃでしょ」

「なんでだ。俺が原因ってわけじゃないだろ」

「いーや、コアだよ。僕もコアがハルマを助けたのはいいと思ってるよ。それは間違いない。だけど、アドニスはコアに怒ってた」

「俺は悪くない。アドニスが勝手に⋯⋯」

「コアの大事な日常が、壊れるかもしれない」


 淡々と俺の言葉をさえぎったハルマは、静かに俺を見つめていた。


「みんなと過ごすのが楽しいって言ってたよな」

「「えっ」」


 思わずといったふうにもれた声は、アルトとセピアだ。


 ⋯⋯なんだよ。おかしいかよ。


 俺がキッとにらみつけると、彼女らは慌てて口に手を当てる。


「で、そのみんなには、アドニスも入ってるんだろ」

「ああ」

「このままだとアドニス、帰ってこないぞ」

「⋯⋯は? なんで?」


 俺が眉をよせると、ハルマはあきらめたように、スンと目をすわらせた。


「おい、その目やめろよ」


 もう手遅れだ、みたいな、見放した目。


 俺、そんなにヘンなこと言ったか?


 明日も学校あるし、そのときに会えるだろ。


「あんなこと言って、戻ってこれると思う?」


 エルが見かねたように助け舟を出す。


 あんなこと⋯⋯って、劣等クラスが疎まれてるって言ったことか?


 でもそんなの、前から言われてることなんだろ。


 今さら気にすることでも⋯⋯。


「⋯⋯あー、そういうことか⋯⋯」

「遅いな」

「うるさい」


 まだ嗚咽を上げてうずくまってるレイラ。


 アドニスは心配だって言ってたけど、それは俺のことが心配なんじゃない。


 ハルマの家が妖倒士長に厚意にされてるから、俺がハルマの兄に手を出したことで、追放やらなんやらってされないか心配なんだ。


 教室を逃げるように出ていったのだって、自分の「優しいお兄さん」なイメージが崩れたと思ったからか?


 ⋯⋯くだらないな。


 俺は初めからアドニスがうさんくさいと思ってたし、妖倒士長のお気に入りだからってなんだ。


 それがアドニスの本性なんだろ。


 嘘の仮面でとりつくろったって、いつか必ずボロが出るものだし。


 でも⋯⋯そうだな。


 アルトもセピアもショックそうだし、レイラにいたっては泣かせてる。


 戻りづらいかもな。


「じゃあ、分かったなら行くよ。僕もついてってあげるから」

「えぇ⋯⋯。結局俺ぇ⋯⋯?」

「ああ。俺らよりつき合いの短いコアたちのほうが、アドニスも本音を出しやすいだろ」

「そんなことないと思うけどな⋯⋯」

「つべこべ言わないの。行くよ」


 メンドくさいなあ。

 帰りたい⋯⋯。


 そんな俺の思いもむなしく、エルに引きずられるようにして、教室の扉へと連行される。


「なあ。けっこう時間経ってるし、もう家に帰ってるって可能性は⋯⋯」

「ないと思うよー。アドニスは家族に心配とかかけたくないタイプだし」

「ななな何があっても、同じ時間に帰ってりゅから⋯⋯!」

「ソーデスカ」


 食い下がる俺に、アルトとセピアの援護射撃が命中する。


 くそっ、ダメか⋯⋯!


「あきらめろ。()()()で、この先も過ごしたいならな」


 嫌な言い方するな⋯⋯。


 これで俺が行かなかったら、アドニスはどうでもいいと思ってることになる。


 そんなことは、絶対にない。

 一人でも欠けたらダメだ。


 俺がそう思ってるのを知ってて、弱いところをついてきたんだ。


 行くしかない、か。


「俺、行くよ。アドニスつれ戻してくる」


 俺が自分の足で立つと、エルはぱっと手を離す。


 ⋯⋯問題は、どこにいるか、だよなあ。


 エルのわきを通って、扉の取手に手をかけ、向こう側へおし出す。


「ガアッ」

「うぉっ!?」


 扉を開けた瞬間、目の前に焦げ茶の毛むくじゃらの腕が迫ってきて、とっさにのけぞる。


 そのまま床に手をつくと、けり上げた足で腕を挟んで一回転。


 ダンッと床にたたきつけ、俺は素早く魔力でソレをおさえこむ。


「⋯⋯妖?」

「みたいだねぇ」


 エルが膝に手をついて、隣からのぞきこんでくる。


 猿みたいな長い手足に、球体の胴。


 腕四本に足二本の、明らかに異様なソレは、よく見る典型的な人食い妖だ。


 この山だと妖って、訓練場にしか出ないんじゃなかったか?


 それとも、今日は臨時で訓練があったとか⋯⋯。


 アルトたちのほうを見ると、ハルマは片眉を上げただけで、特に反応ナシ。

 泣き疲れたらしいレイラを抱えた二人は、首がもげそうなくらい全力で首を横に振っていた。


 おびえきった表情で、今にもへたりこみそうなくらい足が震えてる。


 あー⋯⋯そうか。


 訓練場には、基本的に獣型かそれに似た下級の妖しかいないもんな。


 異形の妖は慣れるまで恐怖心がつきまとうって話だし⋯⋯はやく水晶にするか。


 魔力の刃を妖の首に当てたときだった。


「あー、ストップストップー」


 パンパンッと手をたたく音がして、俺は肩ごしに振り返る。


 開け放たれた扉からゆったりと歩いてきたのは、砂色の髪の男の人だ。


 アルトより少しだけ高い身長で、女性と間違えそうなくらい華奢な体格。

 王子様みたいな甘い顔立ちで、左目の下に泣きぼくろがある。


「悪いね。少し試させてもらったんだ」

「⋯⋯お前、誰?」

「おっと失礼。名乗っていなかったね」


 間合いに入る前にエルが牽制し、彼は手を上げて足を止める。


 どことなくアドニスに似てるな。

 うさんくさいところが。


「私はアネモス。三年十組のリーダー⋯⋯だから、十組の総リーダーになるのかな」

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