5話
「ねーねー、ディルセンセとコアって、知り合いなの?」
「違う。知らない」
「またまたー、ウソ言っちゃって。ね、アドニス」
「うん。僕もそう思うよ。特に、コア君の返事なんかは⋯⋯」
「かっかかか、かわいかったよ⋯⋯っ!」
「うるさい。掘り返すな」
「ひゃいっ! ⋯⋯って言ってたな」
「マネするなっ!」
全ての授業が終わって、もう帰るところで。
さりげなく俺を中心に円を作った彼らは、きゃっきゃっと楽しそうに笑う。
机に腰かけたり、椅子に顎を乗せてたり、立って通路を塞いだり。
さっさと荷物をまとめて帰りたいのに、自然かつ徹底的なまでの妨害に、チッと舌打ちをした。
なんなんだ、コイツら。
俺をイジりにきたのかよ⋯⋯!
「⋯⋯コアは本当に、気づきが悪いねぇ」
見かねたエルが、あきれたようにため息をつく。
「アドニス、用があるなら直接言わないと、コアには伝わらないよ」
「⋯⋯うん」
そうだそうだとうなずきかけて、俺は疑問に固まる。
コアには、ってとこ、強調したよな。
トゲがある、のか?
心外だな。
俺だって、言わなくても分かることあるぞ。
エルが俺のプリン勝手に食べたこととか、ハルマが夜な夜なエルとディルと一緒にゲームしてることとか。
新しいの買ってきたって、明らかに俺に対して遠慮がちになるし、いくら静かにやってたって、コントローラー置きっぱなしじゃ、さすがに気づく。
え? 仮面はって?
それは、自殺志願のときからずっとだし、そうすることにしたのかって、気にも留めてなくて⋯⋯。
「コア君って、ハルのお兄さんにたてついたんでしょ? ハルから聞いて、僕、心配でさ」
心配?
俺のことが?
「なんでだ? ハルマがよってたかって攻撃されてたから、吹っとばしただけだぞ? たしかにハルマが止めてくれなかったら危なかったけど、そんな大きいケガでもないはず⋯⋯」
「それが問題なんだよ!」
バンッとアドニスが机をたたいて、セピアがビクッと肩をハネ上げる。
ハルマを除いて、全員が目を丸くし、アドニスを見つめる。
追いつめられたみたいに歯を食いしばるアドニスは、もう自分の世界しか見えてないみたいだ。
そんなにマズかったか?
ハルマの自称兄をけったこと。
あのときは頭に血がのぼってたけど、ハルマはアイツらに攻撃されてた。
大切なヤツを助けるって自然なことだし、とがめられる筋合いはないと思うけどな?
「ハルの家は妖倒士長が厚意にしてるんだよ!? 僕たち欠陥クラスは、ただでさえ妖倒士に疎まれてるっていうのに⋯⋯」
「どういう、こと⋯⋯? アドニス、この前、欠陥クラスにきてよかったって⋯⋯」
アドニスが前髪をぐしゃっとつかむと、レイラが信じられないと言いたげな表情でつぶやく。
他のみんなも、くちびるを結んで黙りこむ。
シン、と物音一つしない教室には、その一言が異様なくらいよく通った。
アドニスはハッと顔を上げると、バツが悪そうに視線をそらす。
「ねえっ、ねえってばっ! ウソだよね⋯⋯? 魔力過多のボクも、暴走しがちなアルトも、気の弱いセピアも、ワケありのハルも! みんなの世話を一番してくれてたのは、アドニスなんだよ? なのに、そんな言い方は⋯⋯」
すがるように伸ばしたレイラの手を、アドニスはパッと払う。
しまった、という顔をすると、口をわななかせ、逃げるように教室をとび出していった。
「⋯⋯レイラ」
「さわんないでっ!」
はげまそうとしたアルトの手を乱暴にたたくと、レイラはうずくまって小刻みに震える。
⋯⋯泣いてるのか?
あの、底なしに明るいレイラが?
でもまあ、そうか。
クラスのリーダーで、レイラが一番なついてたアドニスに、あんなふうにされたんだもんな。
俺も、エルにあんな裏切り方されたら許せないし。
そんなふうに、ボンヤリ考えながらカバンを肩にかけると、ぽんと手を置かれる。
嫌な予感におそるおそる振り返ると、エルがニッコリほほえんでいた。
あ、これはマズい。




