4話
コンクリを四角く切りとったみたいな、殺風景な部屋。
淡々と白く照らす蛍光灯に、狭苦しそうに並べられた机と椅子。
授業を受けるときの並びだけど、前のホワイトボードのわきには、アドニスはいなかった。
アドニスにかわって立っていた人は、俺らに向かってひらひらと片手を振る。
「本日より十組の総合担任となります、ディルです」
「「はあー!?」」
俺とエルの困惑の声が重なり、席についていたみんなが、ギョッとした顔をする。
待て待て待て待て⋯⋯!
なんでここに!? どうやって!?
しかもなんか、デカくなってないか!?
エルは頭を横に振って、ふぅと息を吐くと、無言で教室の後ろへと歩いていく。
「エル? うぉっ」
エルがおさえていた扉が、ギィィと古びた音を立てて閉まりかけ、俺は慌てて教室にとびこむ。
あっぶな、挟まるところだった⋯⋯。
そのままエルは、入口から一番遠い、対角の椅子を引いて座る。
え、何。そんな平然と座るのか?
大遅刻だぞ。
なんかこう、謝ったりは⋯⋯。
「コア、はやく席について。授業はもう始まってる」
「え、あ、はい」
いいんだ⋯⋯。
なんか、ヌルっとしてるな。
俺は小走りでエルの隣の席まで移動し、持ってきたカバンから教材をとり出す。
姿勢を整えて前を見ると、ディルと目が合った。
ディルが気づいて、ニコッとさわやかスマイルを向けると、アルトのほうから、首をしめ上げられたみたいなうめき声が聞こえた。
セピアなんか、後ろから見てても分かるくらい真っ赤でガチガチだし⋯⋯。
百九十センチはあるであろう高身長に、アクアマリンのような澄んだ水色の瞳。
細身だけど線はしっかりしてて、大人の骨格を思わせる。
ツヤツヤの金髪も相まって、ミステリアスな甘い雰囲気をただよわせている。
⋯⋯今さら思うけど、俺、よくディルだって分かったな?
身長は俺と頭一つ分しかかわらなかったし、もっとヒョロッとしてたのに。
さては⋯⋯アレだな。
能力を使って体をイジったな?
ズルい⋯⋯!
俺だって、ガキガキって言われたくないのに⋯⋯!
ヒュッ。
「っ!?」
黒い棒状の何かがとんできて、とっさに首をひねってかわす。
いつかのレイラみたく、魔力の壁を進行方向に作ってぶつけると、それはカンッとかわいた音を立てて、床に落ちた。
⋯⋯マジックペン?
「コア、他事考えないのー。真面目に聞いて」
いつもよりワントーン低い声に、ギギギッと首を戻す。
なんで、そんなにお怒りなんでしょーか。
ちょっと、ほんのちょっとじゃんか。
ディルがディルじゃないなー、って。
もとはといえば、俺らに伝えず入ったのが悪いし?
それくらいよく⋯⋯なさそう、だな?
「返事」
「はいっ!」
反射的に背筋を伸ばしてしまい、様子をうかがっていたみんなが、ドッと笑い出す。
なんで笑って⋯⋯っ。
くそっ、ハズい⋯⋯!
「はいじゃあ、二百七十二ページ⋯⋯」
何事もなかったように、授業を再開するディル。
チョークじゃなくてマジックペンて、と内心文句を言っていると、うつむいた俺の脳天に、本日二本目のマジックペンが直撃した。




